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天の桜が咲く頃に  作者: テイク
間章
48/69

第四十七話 大晦日のちお正月

 冬休み最初の日常から遠く離れた非日常を越えた異常な激戦の傷も癒え何とか全員が退院しそれぞれの冬休みを過ごすことが出来ていた。


 そして今日は大晦日大掃除も済ませ後は年越しを待つだけという俺の一年で一番平穏な時間になるであろう時は仕事が早く終わり帰ってきた姉貴によって打ち砕かれたのだった。


「隼人~もう一杯~!!」

「姉貴飲み過ぎ。もう、どんだけ飲んだと思ってんだ」

「まだビール30杯でしょ。まだまだ」

「飲みすぎだ」


 ったく、この酔いどれめ。帰ってきた途端酒とご飯だからな~。まったく。


「早く~!!」

「駄目だ」

「早く早く早くー!!」


 子供のように駄々をこねる姉貴。本当にこの酔いどれは。


「はあ~。あと一杯だ」

「うん」


 その言葉に顔を輝かせる姉貴。はあ~。まあ、今日くらいはいいか。


 と、思った俺がバカだった。


「は~や~と~」

「こら、抱きつくな、酒臭い暑苦しい!!」

「は~や~と~」


 うれしそうに俺に抱きつく姉貴。


「やめれ!!」

「隼人はアタシのこと嫌いなの?」


 涙目上目遣い。いつもとの姉貴とのギャップでさらに威力倍増。一瞬トキメキかけました。


「って駄目だ駄目! 離れろよ!」

「隼人はアタシのことが嫌いなんだ」

「あ、いや」

「嫌いなんだ~」


 泣き出す姉貴。やめてくれよ。てか、絡み上戸の次は泣き上戸。本当に勘弁してくれ。これ誰がなだめると思ってるんだ。


「はあ~、姉貴頼むから泣き止んでくれ別に姉貴のことが嫌いなわけじゃないから」

「ほんと?」

「ほんとほんと」

「隼人~!!」


 はい、やっぱり抱きついてくる姉貴。はあ~それにしても姉貴のこんな姿見るの久しぶりだな。


「隼人はさ~、もう少しアタシを頼ってもいいのよ~」


 酔っている為いつもは言わないことを言う姉貴。


「それじゃ姉貴に悪いだろ。学費まで出してもらってんだから」

「また~すぐそうやって遠慮する~。もう少しアタシに甘えたって罰は当たらないわよ~」

「姉貴にこれ以上甘えられない」

「隼人~」

「さんざん姉貴に迷惑かけてきたんだ。姉貴の人生は姉貴のために使って欲しいんだよ」

「隼人~なんでいつもそんなのなのよ~。ズルイ、ズルイ」

「ずるいって」

「世界で唯一の姉弟なんだよ。もっとアタシにお姉さんらしいことさせてよ~」


 ……姉貴。


「姉貴はちゃんとお姉さんやってるよ」

「くう~」

「ありゃ、寝ちまったかってアレだけ騒げばな」


 まったく。


「むにゃ、もっと自分のことを考えてよ隼人~」


 夢の中まで心配ごとかよ。


「まったく、お休み姉貴」


 姉貴を部屋のベッドまで何とか運び寝かせ俺は一人居間を片付けこたつに入り黒白歌合戦を見ながら年越しを待つことにした。


「それにしてもこの一年いろんなことがあったな」


 最後が一番やばかったが。


「何はともあれこうして無事に一年終わったんだな」


 感慨深いものがある。


「それにしても……」


 壁に立てかけてある写真を見る。夏にみんなで撮った写真だ。


「物好きな連中だこんな俺について来るんだからな」


 いつの間にか俺の周りには人が集まっていた。始まりはきっとアイツ。


「まあ、来年もがんばらないとな」


 いつか俺の問題にもけりをつけるときが来る。そのときは今度こそ逃げないで立ち向かえるように。


「おっともうそろそろ時間か姉貴を起こしてこないとな」


 ってもどうせ起きないんだろうな~。はあ~、また絡まれる。頼むから普通におきてくれよ。


 二階に上がり姉貴の部屋のドアをノックする。


 コンコン。


「……」


 返事がない。


「姉貴入るぞ~」


 姉貴は寝かしつけたときと同じ格好で眠っていた。


「起きろ姉貴そろそろ年越しだ起きろ~!」

「あと12時間」

「どんだけ寝る気だよ!! もう完全に年越してるだろ」

「う~ん、眠い~、くらくらする~」

「完全な飲みすぎだな」

「う~、今何時?」

「11時50分」

「年越しそば食べないと!!」


 姉貴は一瞬で覚醒し下に降りていった。


「まったく」

「隼人~!!」


 姉貴と供に久しぶりの年越しを迎えた。


「あけましておめでとう」

「あけましておめでとう」

「ふ~、新年か」

「さて、隼人アタシは寝るわ」

「はいはい、ゆっくり寝ろよ御節は作っといてやる」

「よろしく」


 姉貴は階段を上がっていった。


「さて、御節作ってやるかな」


 料理の仕込みに入るか。


 ピリリリリ♪(着信音)


「ん?」


 着信桜崎。

 

 ピッ♪


「なんだ?」

「あ、あけましておめでとうございます隼人君」

「ああ、あけましておめでとう。それでなんだ?」

「はい、今日あの……初詣行きませんか?」

「ああ、いいぞ」

「なら、あの九時に神社で」

「ああ」


 それで電話を切った。


「さて、さっさと作ってすこし寝ておくか」


 御節の仕込をして俺は眠った。

「じゃあ、行って来る」

「あ~、じゃあ」

「ああ、姉貴もあんま寝すぎるなよ」


 まだ、眠そうな姉貴をおいて家を出た。お腹すいたら御節の残りでも食べるだろう。


「さて、少し急ぐか」


 桜夕町の神社桜夕神社に向かう。ここ無駄に石段が多いことで有名だ。


「さて、来てるか?」


 時間は8時50分だ。あの桜崎ならもう来ているだろう。


「隼人く~ん!」


 振袖姿の桜崎が階段の前いた。


「おう、桜崎待ったか?」

「いえ」


 それにしても桜崎の振袖姿かいつもと違う気がするな。淡い桃色の振袖。桜崎に似合っている。髪も上げてるし、いつもと感じが違う。髪型だけでここまで違うのか、すごいな。そういえば姉貴も一度だけ振袖をきたことがあったな成人式だが……その時のことは幼いながら今でも覚えている。まあ、この今はこの話は置いておこう。


「振袖か似合ってるな」

「ありがとうございます。着てきたかいがあります」

「そうか、じゃあ、行くか?」

「はい」


 長い階段を上がっていく。なんでこの町こんなに長い坂や階段が多いんだよ。


「人多いですね」

「まあ、正月だからな」

「みんな来てるでしょうか?」

「確実に馬鹿(うましか)あたりと劉斗あたりは来てないと思うぞ」

「なんでですか?」

「あの二人がお参りに来るような奴らとは思えないからだ」

「あ~、そういえば劉斗君は神社や教会に来ると気分が悪くなると言っていました」

「あいつは悪魔か」


 てか、そんなのあるわけないだろ。絶対いいわけだな劉斗の。さて、十分かけて階段を上がりきる。


「ふう~、疲れました」

「これをまた降りるんだぞ」

「う~、もしもの時はおぶってください」

「いやだ」

「由宇先輩はおぶるじゃないですか~」

「あの人は放っておくと野垂れ死にそうだからな」

「あ~」


 桜崎も納得のようだ。あの人絶対ここには来ないな。あの階段をのぼれるとは思えない。


「あ、あれ、紫苑ちゃんじゃないですか?」

「ん?」


 見ると振袖を着て物憂げに立っている赤羽がいた。こんなときになんだが、

黒い振袖を着て髪をあげている赤羽。物憂げな感じがまたなんとも言えない感じを出している。


「おい、赤羽どうした?」

「あら、隼人、いや、なに、ちょっとね。ここに来るといつもこうなのよ。気分が悪いの」


 お前も悪魔なのか。…………一概に否定できないのがかなしいな。


「そうなのか」

「なのに、いつもここに来たがるんだから」

「ん? 誰かと一緒なのか?」

「いいえ、私一人よ」

「だが」

「隼人は気にしなくていいのよ」

「そうか?」

「それよりも早く参って来なさい。私は帰るわ」

「そうか」

「ええ、じゃあね。ああ、あけましておめでとう」

「あけましておめでとう。じゃあな」

「ええ」


 そう言って赤羽は帰っていった。


「大丈夫でしょうか?」

「心配ないだろあの赤羽だぞ桜崎」

「そうですね」

「さて、さっさと参ろうか」

「はい」


 人込みを掻き分け賽銭をいれ参る。何を参ったかは秘密だ。


「何を参ったんです?」

「秘密だ」

「教えてくださいよ~」

「いやだね」

「む~。じゃあ、私のも教えません」

「気にならないから別にいい」

「む、まあ、いいです。それならおみくじを引きましょう」

「ああ」


 桜崎と二人でおみくじをひく。


「えっと、私は吉です」

「普通だな」

「隼人君は?」

「えっと………………吉だな」

「同じですね」

「ああ、さて、結ぶか」

「はい」


 おみくじを結ぶ。


「さて、どうする? 何か露店で買うか?」

「そうですね。わたがしを」

「子供だな」

「いいじゃないですか!」

「はいはい」


 膨れながらもわたがしを買って来た桜崎。


「隼人君にはわけてあげません」

「いいよいらないから。さてと、俺もなにか買ってくるかな」


 ちょうど焼きそばが目に入ったのでそれを買う。


「ひとつください」

「よっしゃまっとってや」


 ……ん? この声は。


「佐藤なにやってんだ」

「なんや隼人かいな。いやな、オッサンに言われて稼げる聞いたんでな」

「何者だよオッサン」

「さっき女子高生捕まえてどっか行ってたで」

「警察に連絡しなくて大丈夫か」

「大丈夫やさすがのオッサンもそんなこと……せん…………はずや」

「その割にはなんだその間は」


 酷く心配だがこの衆人環視の中だ大丈夫だろう。大丈夫であってほしい。


「それであんさんは結衣とデートかいな? ええな~」

「違うわ」

「そうなんか? めっちゃ楽しそうやったないか」

「……違うもんは違う」

「ふ~ん、そんなもんかいな。まあええわ、ほら焼きそばいっちょあがりや」

「ほら」


 金を渡して焼きそばを受け取って桜崎のところに戻る。


「遅かったですね」

「ああ、佐藤がいたんだよ」

「美由紀ちゃんですか?」

「ああ」

「へ~、ってことは焼きそばを売ってたんですか?」

「そうだ」

「いろいろやりますね~」

「そうだな」


 アイツが騙されてないことを祈るだけだ。まあ、今は焼きそばを食うだけだ。


「うんうまいな」


 さすが佐藤。

「さてと」


 焼きそばも食い終わり昼過ぎ。


「さて、そろそろ帰るかな」

「そうですね」

「なんだかんだで三時間もここにいたのか」

「あはは、楽しかったですよ」

「初詣で楽しいってのもどうかと思うがな」

「そうですね」


 階段を降りながらしゃべる。


「じゃあな」

「はい、また、新学期に」

「ああ」


 桜崎が帰るのを見て俺も帰路に着く。


 帰っていると綾崎から逃げ惑う馬鹿(うましか)を見たが放っておいた。


****


「新年だー!!」


 パフパフ。


「いや~、新年だ」


 し~ん。


 佐藤帝が一人家で騒いでいる。


「フッフッフ、恐ろしいまでに一人だ。我ながら己の才能がこわいぜ」


 ただ単に寝坊しただけ。てか、受験生そんなに余裕ぶっこいていて大丈夫なのか。


「あ~、暇だ。雄太もいないし。美由紀はバイトに行ったし。暇だ」


 し~ん。


「……別に寂しくなんかないんだから」


 し~ん。


「……本当に寂しくなんかないんだから」


 し~ん。


「……寂しくなんか……」


 し~ん。


「…………寂し……く……なん……て…………」


 し~ん。


「…………」


 し~ん。


「うわ~、誰か~!!」


 たまらず家を飛び出す佐藤帝。


 その直後。


「あれ、帝はいないのですか。仕方ありませんね帰りましょう」


 永城雄太が来た。かみ合わない二人。


「うわああああああ」


 町を爆走する佐藤帝であった……。



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