1話 おっさんとドラゴン
『グツグツ』
「お、いい感じだな」
滝壺ダンジョンの第80層にある大滝の前にて、一人の男がお湯を沸かしていた。
『トポポポ』
男はそのお湯をお気に入りの鉄製カップに注いでいく。
中にはインスタントコーヒーが入っている。
『ゴクッ』
「うーん、このロケーションで飲むコーヒーは格別だなぁ」
大木千春、38歳。
去年の春より15年勤めた保険会社を辞め、本格的にダンジョン攻略者として活動を開始。
専業一年目にして、日本各地の有名ダンジョンを軒並み攻略し、現在は栃木県の奥地にある難関ダンジョンである"滝壺ダンジョン"に単独で挑んでいる。
とは言っても、攻略開始よりはや一週間、彼はこの80層でほぼ暮らしていた。
「いやぁ攻略に来たのは良かったけど、まさかこんなに最高なダンジョンだったとは」
『ギシッ』
そう話すと千春は持ってきた、簡易的なキャンプ用の椅子に腰をかけた。
「あー、このままここで暮らしても良いかもなぁ」
そう呟くと千春は大きく欠伸をした。
『ビー!ビー!救難信号受信、緊急、緊急』
その時、テントに備え付けてある便利アイテムである"警報アラームくん"が鳴り始めた。
「なんだよ救難信号?いい感じにくつろいでたってのによぉ」
『カチャ』
気だるそうにそう言いつつも、千春は近くにあったピッケルとヘルメットを手に取った。
『カポッ』
「仕方なねぇ、"1級攻略士"大木千春が今行くぜ」
ーー第80層、大滝近くの広い空間にて
『グオオオオオ』
「キャー、ありえないんだけどぉぉぉ!!」
「おい紗季、叫んでないでカメラに映せって」
巨大なドラゴンに空間の隅に、一組の男女が追い込まれていた。
『カチャッ』
「う、映したよぉ」
紗季と呼ばれている女は、震える手を何とか抑えつつ、カメラをドラゴンへと向けた。
「よ、よしこのまま映せよ」
『パシャッ』
男はそう言うと、SNS用にドラゴンをスマホで撮影した。
この二人は、最近人気急上昇中のダンジョン系配信者で、"ダンジョン兄妹ズ"という名前で活動している。
ビジネス兄妹ではなく、ちゃんとした実兄妹である。
『グオオオオオ』
ドラゴンはそんな2人へ大きな口を開け襲いかかった。
「キャー死ぬ、お兄ちゃん死んじゃうよー」
その時だった。
「待たせたなお前たち!」
工事現場によくいる服装である、ヘルメットに白のタンクトップを着たおっさんが、2人の窮地に駆けつける。
「そいやぁ!!」
『バコォン』
そうしておっさんはそのまま持っていたピッケルでドラゴンの頭を吹き飛ばした。
『ガウウウ』
おっさんの一撃により仰向けになるドラゴン、そして。
「お、お兄ちゃん見てよこれ」
そう言って妹が見せたスマホの配信サイトのダッシュボードには、視聴者数1万の文字があった。
「な、何だよこれ!」
普段の配信では大体1000人ほどのこの2人、初めての同接1万人突破の瞬間だった。




