第31話 スタンピード
幸太郎の指示で、簡易陣地の構築が始まった。
擱座したトラックを背後にして、中央にジュドー殿が構える大きな銃を配置、その両側に3台ずつ、少し間隔を開けてバイクを横にして扇状に並べ、盾をバイクの側面に固定する。
なんと20メートル弱の簡易陣地が完成してしまった。
南に向いた陣地は、中央から右側は広く視野が通る平地、左側も同様だが、200メートル先には、大樹海の森が一部突き出ている。
「MINIMIの両サイドに高橋二曹の部隊とジュドーさんのチームの方で4枚ずつに分かれて配置、ガブリエル様の弓隊も4名ずつに分かれてさらに外側についてください。」
「「了解。」」
「弓原にはこれを。」
幸太郎は、高橋殿たちの銃と似てるが少し違うところがある銃と、何か筒のようなものがいくつも詰まったベルトを渡す。
「MINIMIで対応しきれないところやリロード中は、これで援護してくれ。」
「了解。」
「ジュドーさん、MINIMIは200発が5ケースです。わかっているとは思いますが、無駄玉はないので500まで引き付けます。」
「了解。」
そして私の方を見た、彼がにっこりと笑って告げる。
「で、私たちは予備となります。」
私は黙って頷く。しかし、この状況でよく笑えるな。でもその笑顔で、確かに気持ちが和らいだ。
高橋殿が先ほどと同じように、幸太郎に耳打ちをしている。
「どうやら、各所で同じように魔獣が大量発生しているようです。救援のヘリはすべて出払っているとのことでした。」
「仕方ないな。現状で対応は可能だ。魔獣の追加がないことを祈ろう。」
「はい。ただ、別の救援を手配中とのことでした。」
幸太郎の表情が硬い。何かあったのだろうか。少し不安になる。
「来たぞ!」
双眼鏡を覗く、幸太郎がみんなに知らせる。
4000メートルくらいか。肉眼でも小鬼の一団がわずかに確認できる。
みるみる迫るその一団に、みんなの緊張も一挙に度合いを増す。
3000メートルを切ったか。はっきりと黒い絨毯のような不気味な塊が迫ってくるのが見える。
1000メートル、足音が不気味な地鳴りとなって、聞こえてきた。もう人型まで確認できる。
500メートル。幸太郎が叫ぶ。
「撃ち方始めっ!!」
「ダダダダダダダダダダッ!!!」
「バリバリバリバリッ!!!」
「ひっ!」
今までに聞いたことがないような、すさまじい轟音が陣地内に響き渡り、思わず目をつむって耳を押さえる。悲鳴も上げてしまった。小さく……。
目を開けると、目の前の小鬼が次々となぎ倒されているのが確認できる。
なんて威力だ!
すると、梢の銃から、他の銃とは異なる音がする。
「ポコンッ!」
数秒後、「ドォォン!!」という腹に響く音とともに、地面がはじけ土が舞い上がる。十数匹の小鬼と一緒に。
なっ、何だあれは!?
王国の者は最初、私と同じように耳を押さえていたが、今は耳を押さえるのも忘れ、目の前を呆然と見つめている。弓など構えていない。
だが大丈夫だ。小鬼は全く近づけない。弓の出番などないのだ。
写真や映像などである程度知識があったので、私が音に驚いたのは一瞬だったが、左右の弓兵たちはまだ放心状態だ。
私は、そんな左翼の弓兵たちに目を向けたその時、その先の森に異変を感じた。
「森から、小鬼!!およそ50!!別隊だ!!!」
銃声に負けまいと、私は出しうる限りの大きな声で叫ぶ。その声にいち早く反応したのは梢だった。
「私が行きます。幸太郎さん、これよろしく。」
梢は持っていた銃を、幸太郎に渡し、近くにあった盾を持って、腰から鉈のような物を抜き、左翼に向かう。
「おい!待て弓原!」
梢は、あっという間に陣地を出て、左翼の小鬼たちに向かって走って行く。
正面の小鬼は、押さえてはいるが、余裕はないようだ。
私は、右翼にいたギャビーに指示を出す。
「ギャビー、右翼はいい!左翼に回れ!梢を援護するんだ!!」
「わ、わかりました!皆、コズエ殿の援護を!!」
その指示に、我に戻った弓隊は一斉に左翼に弓を射だす。もう小鬼たちは100メートルを切って迫ってくる。
小鬼たちは、飛び出した梢に一斉に向かって行く。梢も躊躇なく先頭の小鬼に向かう。
接触した梢の戦いぶりは、すさまじい。鉈のような武器の一振りで、複数の小鬼を薙ぎ払う。
なんと、梢は相手の位置と鉈を払う軌道を読んで、自分の位置を巧みに変え、一振りで常に複数の小鬼を倒すようにしているようだ。
彼女が味方で本当に心強い。そして恐ろしい。例によって笑みを浮かべているのだ。いったいどういう精神状態なのだろう。
回り込もうとした小鬼は、弓に射られる。ようやく出番が来た弓兵たちは、次々と回り込もうとする小鬼を倒していく。
左翼の最後の小鬼が倒されるとほぼ同時に、正面の戦いも決着がついた。
梢が戻ってくる。
「戻りましたー。」
まるでその辺にお使いに行って戻ってきたようだ。
高橋殿の部下が、戻った梢と左翼の惨劇を見て、高橋殿に話しかけている。
「すごいですね、彼女。自衛官ですよね、二曹。」
「あぁ、出戻りだがな。今はNWSに出向中らしい。」
「知り合いなんですか?」
「あいつが習志野に訓練に来た時にな。」
「もしかして、付き合ってたとかですか?」
「あ?水鬼(水機)の弓原とか?あいつと付き合える男がこの世にいるとは想像もできん。」
スイキって何だろう。こんど梢に聞いてみよう。
「ジュドーさん、残弾は?」
「もうこのケースだけです。150発くらいでしょうか。」
幸太郎が、ジュドー殿に何か確認をしている。
「そうですか。グレネードはゼロ、20式も残りのマガジンはゼロ、みんな同じくらいか。」
その時、高橋殿が幸太郎に報告あると近づいてきた。
「悪い報告と良い報告があります。まず、悪い方から。5キロ南に新たな小鬼の集団を確認、北上中ということです。」
「なっ、何だって!」
「次に良い報告。すでに救援がこちらに向かっています。」
「そうか、それは--」
「……ウォン、ウォン、ウォン。」
遠くの空の方から、大気が震えるような低い唸り音がじわじわと近づき、幸太郎の言葉を遮る。
そして空を見ると……。
鉄の巨鳥!
それが真上に来た時、急激に音が大きくなった。
「バリバリバリバリ!」
「ザザザザザ!」
乾いた、かつ重い何かが壊れるような音が通り過ぎる。それを見たギャビーは完全に腰を抜かし、地面にぺたんと座っている。他の王国の者も似たような状態だ。
「あれは、C-130か?ん?いや、まさかゴーストライダー?」
「えぇ、元米軍のやつだそうです。」
「そんなものまで、持ち込んでいるのか。」
「こういう状況だと、結構有効ですね。」
「まあ、そうなんだろうが……。」
しばらくすると遠くで「ドーン」という音と、黒煙が何本も上がる。
その後、自衛隊の地上部隊が私たちを迎えに来た。私たちは無事(?)訓練を終え、帰ることができた。
日本に侵攻しようとした帝国艦隊はすでに日本の艦隊により撃退されたことは、幸太郎から聞いている。
今度は私たちが、この訓練の成果を帝国にぶつける番だ。




