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不思議の国のクリスティーナ――転移国家ニホンとの出会い  作者: 星空 ある


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第18話 ウーグモン渓谷の戦い

 早朝のウーグモン渓谷の回廊入口。太鼓の音とともに、帝国軍の進軍が始まった。


 ここは、渓谷の中でも道幅が最も狭くなっており、幅は50メートルしかない。


 帝国軍のパイク兵は、横50人の列で戦列を組んだ兵が、縦に約1.5メートル間隔で密集形態を組んでいる。


 パイク兵とは、7メートル前後の長槍を持った兵で、その密集形態の先頭の1列目は両手で持った長槍を水平に、2列目から4列目は前の兵にぶつからない程度に斜めに、それ以降の列はほぼ垂直に構え、前が消耗すると順次構えを変えていく。


 この集団を正面近くから見ると、巨大なハリネズミ、遠くから見た様子は動く麦畑のようだ。


 その集団が、防具の音をカシャカシャとさせながら、次々とこの回廊の中を太鼓の音とともに入っていく。


 王国側野戦司令部天幕では、緊張した面持ちで司令官と副官たちが話していた。


「司令官、帝国軍が回廊に侵入、こちらに迫っております。あまり王国側で迎え撃ちますと突破された時のリスクが大きいので、我が軍も回廊内に進軍させます。」


「敵は、パイク兵のみのようだな。数に物言わせた完全な力押しだ。こっちの弓兵は使えんのか。」


「弓兵を回廊内に展開するのは危険で使えません。それに遊撃隊が洞窟入口付近からこの亀裂部分まで、弓兵の一部は遊撃隊の後詰で洞窟入口前に、それぞれ待機中です。」


 王国側回廊出口の西に100メートルほどのところに洞窟があり、そこから回廊内の亀裂の場所につながっている。


「よし、我が軍も進軍開始!」


「はい。了解しました。」


 王国軍も帝国軍と同じ密集形態のパイク兵を、回廊内に進軍させる。まもなく、両軍が接敵する。


 そのころ、回廊の壁面亀裂前の茂みにて。


 王国軍遊撃隊隊長ポーブルは、仲間の兵20人ほどと共に茂みに潜んでいた。


 ポーブルは男爵家の3男で家督を継ぐことはできず、そのため騎士団を目指したが体力はあったものの、ぽっと出の男爵家3男では騎士にはなれなかった。


 しがない男爵家では、3男のために軍指揮官ポストを購入することもできなかったため、しかたなく従士として軍に入隊した。


 入隊からはプライドを捨てて、向上心と努力と表向きには言えないような方法も使って、何とか歩兵隊の隊長まで上り詰めた。


 そしてその集大成が、この遊撃隊隊長への抜擢である。この作戦と隊長抜擢をい聞いたポーブルは、内心で飛び跳ねるほど喜んだ。


 これで活躍すれば、自分は元男爵家だから、騎士爵を受けることもできるかもしれない。そうすればまた貴族に戻れる。そしてさらに活躍して陞爵も夢ではない。


 ポーブルは作戦の失敗など露にも思わず、舞い上がっていた。


 そんな彼の前を、帝国軍の戦列が次々と通り過ぎる。王国軍と同じ兵力くらいの帝国兵が目の前を通り過ぎるのを確認したポーブルは、振り向いて仲間の兵の顔を見る。


 よし、行くぞ!と剣を構えうなずいた瞬間、ドスドスという音とともに背中に激痛が走る。


「がはっ!」


 そして、目の前の仲間の兵に次々と矢が降り注ぎ、倒れていく。


「なっ、何が……。」


 よろけながら、茂みから出たそこには、地面に捨てられた長槍と、片手剣と丸盾を構えた軽装歩兵と、その後ろには弓兵が見えた。


「どうして、何故だ?!」


 さらにポーブルの胸に矢が刺さる。


「お、俺の騎士爵……。」


 最後にその言葉を口にしたポーブルは、遠くで王国軍と帝国軍の槍がぶつかる音がする中、意識を手放した。永遠に。



 王国軍司令官は指揮を執るため天幕を出て騎乗し、少し高くなっている場所から、副官と一緒に戦場を見ていた。


 先頭の王国軍と帝国軍のパイク兵が、接敵した。激しく長槍がぶつかり凄惨な押し合いになる。パイク オブ プッシュの始まりだ。


 すると突然、王国軍が伏兵を配置した付近にいる、後方の帝国軍パイク兵40列ほどの槍が消えた。まるで根元から刈られた麦のように。


「なっ、何が起きた?!」


 司令官が叫ぶ。


「あ、あれは……、パイク兵ではない?軽装歩兵……、弓兵もいる?まさか!伏兵が、伏兵が見破られています!!」


 副官が、青い顔をして状況を報告する。


「ばっ、馬鹿な!まずい、まずいぞ!敵が亀裂に気付いているということは、洞窟を通ってこちらの側面をつくことができてしまう!急いで洞窟出口に騎兵を向かわせろ!」


 司令官は命令するが、元々この地形では出番がないと思われた騎兵は100に満たないほどしか率いていなかった。それに地形が向いていないため、本来の打撃力も期待できない。


「予備兵力2000のパイク兵も投入しましょう!残りの弓兵も!」


 副官が進言する。ただ弓兵も少ない。洞窟付近に伏兵の後詰めで、すでに500ほど配置してあったため、残りは500ほどだ。王国軍は帝国軍のパイク兵に対抗するため、ほとんどの兵種をパイク兵にしていた。



 同じころ、亀裂と洞窟を結ぶ2人が並んで通れる程度の広さしかない道では、物理的な大パニックと壊滅が引き起こされていた。


 本来であれば、王国軍が回廊で帝国軍に対して引き起こす状況であったのだが、その縮小版が今まさに起こっていた。


 敗走する王国軍軽装歩兵は、亀裂と洞窟を結ぶ狭い道でぶつかり、身動きが取れない。そこに帝国軍の軽装歩兵が後ろから切りつけ、次々と王国兵を倒し、その屍を踏みつけ進軍してくる。


 洞窟付近で待機していた王国軍弓兵500は、洞窟内から逃げてくる味方に戸惑っているうちに、そのあとから出てくる帝国軍になすすべもなく蹂躙されてしまった。


 帝国軍軽装歩兵の後に、帝国軍弓兵も洞窟の外に展開し始める。


 そこに王国軍騎兵が到着するが、スピードが上がらないため弓兵の餌食になる。それでも多少の損害を帝国軍に与えるが、数が少なかったため全滅してしまう。


 そしてここに投入されたはずの王国軍予備兵力は、なかなか到着しない。そのうち洞窟からは、なおも帝国軍が続々と湧いてくる。


 洞窟付近に王国予備兵力2000のパイク兵、500の弓兵が到着したころには、帝国軍は1500の軽装歩兵と500の弓兵がすでに展開していた。


 この兵の展開状況では、一見王国軍の方が圧倒的に有利だ。だが王国軍予備のパイク兵の半数は元衛兵だった。そのため動きが極端に遅く、戦列も整えるために時間がかかり到着が遅れてしまったのだ。


「俺、こんな長い槍扱ったことねえよ。どう戦うんだこれ。」


「俺もだよ。俺たちの出番はないって言われてたのに。どうすんだ?」


 王国軍は戦う前からすでに動揺が広がっていた。そんなのはお構いなしに、王国軍パイク兵は敵弓兵のいる方向に太鼓の音とともに前進していく。


 それに対し、帝国軍軽装歩兵は散兵となり、王国軍を左右から包囲するように動き出した。王国軍弓兵はこの軽装歩兵に対し弓を放つが、素早い動きと盾のせいで効果が薄い。


 近づく王国軍パイク兵に、今度は帝国軍弓兵が矢を放つ。パイク兵は両手で槍を持つため盾を持たない。


 そのためプレートアーマーを着ていたり、味方の斜め前に出されている槍で防御したりするのだが、元衛兵には難しかった。


 プレートアーマーを着ているにもかかわらず、すでに動揺しているところに矢の雨で、精神的に崩壊し始める元衛兵が続出し、槍を捨てて逃げ出し始めてしまった。


 その動揺は、正規の兵にも伝わってしまう。隣にいた兵が逃げ出してしまうのだから当然のことだ。


 逃げ出した王国兵は散兵となった帝国兵に次々と倒されていく。


 そして早くも動いてしまった予備兵力が本隊にも精神的に影響し出し、後がない回廊で戦う王国軍は次第に損害を増やしていった。


 そこへ王国軍がいなくなった洞窟を抜けた帝国軍が、王都側の回廊口から王国軍に襲い掛かった。前後から挟み撃ちにされた王国軍は、回廊の中で全滅してしまった。


 この戦いで、王国軍は司令部とわずかな兵を残しほぼ壊滅。15000名弱を失った。対する帝国軍の損害は2000に止まり、帝国軍の圧倒的勝利に終わった。

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身代金とかとるきがないあたりに殺意を感じる
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