#5-19.5.ある冬の奇跡
蒸気大活劇スチームキャメロット 5話のボツシーンです。その2です。
分量が多いからか5話はボツエピが多いような?
ボツエピソード用に多少リライトしてあります。
──秘密基地アーセナル。
「行ってまいります」
「行ってきまぁす!」
ルーとフェイが駆けだしてゆく。
それを見送った老執事ボールスは、ふと遠い日の出来事を思い出していた。
「まるで奇跡を見るようでした」
× × ×
モリー、ルー、フェイ…彼女たちはエーテル血清イモータルの実験体であった。
水槽に保管されていた彼女たちは、ヴィヴィアンの願いで目覚めた。
最初はモリーだった。
「あなたはモリー。私はヴィヴィアン。──さあ、言ってみて。私はヴィヴィアン。あなたはモリー」
ヴィヴィアンは語りかけるがモリーは沈黙したままだった。
返事をするどころか表情ひとつ変わらない。
「それじゃあ私のことを話すわね。私は4歳、ということになっているけれど生まれたのは2ヶ月前。死んだオリジナルのヴィヴィアンの細胞を複製して作られたんだって」
反応のないモリーにヴィヴィアンは話し続ける。
「この者らには自我はない。いくら話しかけても無駄じゃ」
そこにドクター・マーリンがやって来た。
「私もそう思われていたわ」
ドクターの言葉にヴィヴィアンは耳を貸さなかった。
「この子たちも私と同じ。姉妹よ。そのうちおしゃべりしてくれる。私には分かるの」
半年後。
ルーが覚醒させられた。
「あなたの名前はルーよ」
ルーもまたモリーと同じだった。いくら語りかけても返事はおろか何の反応も示さない。
そしてその2ヶ月後、ノウハウが分かって来たマーリンは3番目の娘を目覚めさせた。
「あなたの名前はフェイよ」
ふたりが3人になっても状況は変わらなかった。
無言、無感情な彼女たち相手にヴィヴィアンは一方的に話すだけ。人形遊びと変わらない。
「動く屍と遊ぶ幼い娘…なかなかにぞっとする光景じゃのう」
その様を評してマーリンがつぶやいた。
二度目の春が来たても彼女たちはただ、ヴィヴィアンの声に従うだけだった。
意思のない人形、動く屍でしかなかった。
三度目の夏。ヴィヴィアンは彼女たちにメイドの服を着せた。
邸にある服でお揃いとなるとこれしかなかったのだ。
ヴィヴィアンはいたく気に入ったが、メイドたちは返事を返すことも、表情を変えることさえしなかった。
「ヴィヴィアンさま。申し上げにくいことながら、この遊びはお止めにするべきかと」
執事のボールスは何度もヴィヴィアンに言った。しかしその度にヴィヴィアンは、
「止めないわ。だって私には分かるもの。この子たちが私とおしゃべりしたがっているって」
と言って聞き入れなかった。
四度目の秋が来ても、メイドたちは何も語らなかった。
「あっ、今、モリーが眼で私を追っていたわ」
「気がついた? ルーがちょっと笑ったの」
「フェイはね、ほっぺにキスしてあげると喜ぶのよ。──ボールスもドクターも分からないの?」
もはやボールスもマーリンも何も言わなかった。ヴィヴィアンの好きにさせていた。
──その年の冬。
庭が雪に覆われた日、ヴィヴィアンはメイドたちを連れて雪遊びをしていた。
相変わらずヴィヴィアンが一方的に話しているだけで、メイドたちはただ立っているだけだった。
ヴィヴィアンがはしゃいて雪の中を跳びはねていると、頭の上にある木の枝から大きな雪の塊が、彼女の上へと落ちた。
「……え?」
ヴィヴィアンは驚きに目を見開いた。
モリーがヴィヴィアンの上に覆い被さるようにして雪を防いだのだ。
きょとんするヴィヴィアンに、
「頭上注意…です」
とモリーが言った。
それだけではなかった。
いつの間にかルーがヴィヴィアンの側に居て、身体についた雪をやさしくはらい落としていた。
ボールスの手にしたタオルを、フェイがひったくってヴィヴィアンの元へと駆けて行く。
この時からだ。
死体をツギハギして作られた彼女たちが言葉を話し、微笑むようになったのは。
この時、あのメイドたちは人間になったのだ。
× × ×
「まるで奇跡を見るようでした」
「お主ほどの男が奇跡などと凡人のような言葉を使うとはな」
ボールスのつぶやきに、ドクター・マーリンは呆れた。
「科学に奇跡はない。あれは終わりのないトライ・アンド・エラーを繰り返すことで起きた必然じゃ」
「人はそれを奇跡と言うのですよ」
「奇跡などあるものか!」
ボールスに否定されたと思ったマーリンはムキになって言った。
「そうだ! 幼いレディには限定的ながら霊波通信の能力があったのだ。レディはあのメイドたちと同じ時期、同じ実験施設で生まれた存在。霊的なつながりがあったのだ。レディの脳波がメイドらの脳に作用することで自我と意識が芽生えた。そうに違いない!ルーの器用さやフェイに眠る怪力を言い当てたのもこれで説明が──」
ウロウロ歩き回るマーリンのつぶやきを、ランサーの轟く排気音がかき消した。
「行ってくるわ」
霊波通信機のスピーカーからヴィヴィアンの声が流れる。
シークレットハイウェイにつながる艤装扉が開いた。白い騎士が駆る真紅のモーターサイクルが爆音を上げて飛びだして行く。
「揃ってのお帰りをお待ちしております」
老執事は恭しく頭を下げて見送った。
このエピソードは#5-20の頭に入れるつもりでした。
#5-19のラストでピンチに陥ったフェイとルーが5-20で逆転するわけですが、その前にエモい回想エピを入れることで逆転劇が盛り上がるかなと思い作成。
しかし文字数が多い上、緊張感が途切れるのでと泣く泣くボツに。(T_T)




