#1-2.初恋と愛人
1話の馬車の中でアーサー市長とヴィヴィアンの会話。
出禁令嬢ヴィヴィアンを紹介するエピソードでしたが、長くなったのでカットしたエピソードです。
そのうちどこかで使いたい。
未曾有の災害から蘇ったキャメロットは空前の繁栄を謳歌している。
しかし、すべてが良いものに変わったわけではなかった。
「……君はいくつになったのかね?」
「19歳──だったかしら?」
アーサーの問いにお説教の予感を感じながら、ヴィヴィアンはとぼけた。
「そろそろレディとしての振る舞いを身につけたまえ。それにその服。仮にもベンウィック伯爵家令嬢──いや未来の女伯爵だろう」
キャメロットの法律では、女性が家督を継ぐには22歳以上である必要がある。
ヴィヴィアンがベンウィック伯爵家の家名と財産を正式に受け継ぐには、あと3年待つ必要があった。
「あら、今時のレディはこんなものですわ」
眉間にしわを寄せるアーサーに、ヴィヴィアンはドレスの裾をつまんで笑った。
「そういう慎みのない仕草をするから──」
言いかけたアーサーの言葉は途中で止まった。
口にするも汚らわしい風聞であったからだ。
「私が、おじさまの愛人だという噂ですわね」
ヴィヴィアンは肩をすくめた。
「気にしていませんわ。むしろ大歓迎ですわね」
「おい、ヴィヴィアン」
「だって、私の初恋はおじさまですもの」
さすがに色を成すアーサーに、ヴィヴィアンは笑った。
「おじさまには本当に感謝していますわ」
真面目な顔になってヴィヴィアンが言う。
「友人の娘というだけで、私の後見人になってくださって」
「大したことはしていない」
ベンウィック家にはボールスというおそろしく有能な老執事がいた。ヴィヴィアンの身の回りことはすべてこの執事が面倒を見ている。
おかけでアーサーの出番はほとんどなく、物足りないほどだ。
しかしヴィヴィアンは首を振った。
「大したことですわ。おじさまが後見人でなかったら、ベンウィックの家と財産は欲深い親戚連中の手に渡り、私は焼け跡に放り出されていたでしょう」
キャメロット屈指の富を持つベンウィック家。
当主が亡くなり、その富を狙う貴族は多い。どれほど有能でも、執事の力だけでは幼いヴィヴィアンは守れなかっただろう。
アヴァロン公爵。貴族の中の貴族であるアーサーが後ろ盾だったからこそ、親戚の貴族たちはヴィヴィアンに手を出すことが出来ないのである。
「現在も、女の私が、ベンウィック家の当主となることが気に入らない方たちがいますわ。彼らは家柄だけが良い男を、私の婿にしようと画策しています」
ヴィヴィアンが22歳になる前に、自分たちの影響下にある男を彼女の婿にして、ベンウィック家を乗っ取ろうと企んでいるのである。
「どこの馬の骨とも知れぬ男と結婚するくらいなら、おじさまの愛人のほうが良いですわ。何より、愛人って素敵ですもの」
愛人が素敵?
言葉を失うアーサーに、ヴィヴィアンはニヤリと笑った。
「だってそうじゃありません? 妻なんて、責任と義務でがんじからめで不自由なものですわ。その点、愛人は自由です。愛が冷めれば別れてしまえばいいのですから」
「おそろしいことを言うな……」
「これが今時の女ですのよ。おじさま」
青ざめるアーサーに、ヴィヴィアンはウインクしてみせた。
大火の後、急速に発展した技術は新たな産業を生み、新たな産業は女性の労働力を必要とした。
電話交換手。自動織機の操作員。電球制作の職人。計算機の入力係。新たな産業は、好景気とともに女性の社会進出ももたらした。
技術の発達は、海外との交易も盛んにした。
欧州と新大陸からは品物だけでなく、新たな文化、新たなファッション、そして新しい思想も流入した。
コルセットは簡易なものになり、ドロワーズは廃れた。女性たちは身軽な──アーサーのような世代から見れば過激な衣装に身を包むようになった。
キャメロットの女たちは、庶民から貴族まで、大胆に、奔放になっていった。
女性にも高い教育を受けさせ、参政権までも持たせようという勢力まで現れている。
──新しい女性。
大火後、行動的になった女たちはそう呼ばれた。
ヴィヴィアンは新しい女性そのものであった。
今回の挿絵はGrokで。
かなり良い出来で気に入ってます。
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