~一章~ 精霊グラダ
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厩舎前にある給水所では、フローの成長した姿を見た団員達が、みんな縦長の瞳孔を丸くした。それと、エリク兄様の来国をとても歓迎してくれている。
みんなエリク兄様の金髪に釘付けになっていて「天使の輝きだ」「神様って感じ」「聖なる者だろう」などと、挙げ句の果てには冗談で拝み始める始末だ。
その気になる兄様も兄様で、「第一魔獣騎士団を見守りましょう」なんて何者かになったつもりらしく、いい加減にして欲しい。
騎士団のみんなとエリク兄様が打ち解けたところで、さっきの魔狼たちが小さくなって出迎えてくれたときのことを聞いてみる。
「彼女たち、かなり頑張ったのですよ」
ライ様が言うには、フローは小さいモフモフの動物が好きだから次に来たときに驚かせようと団員たちの間で話になり、それぞれの主が相棒に発破をかけて、当日一番小さくなることが出来た魔狼と主のペアには、ビックプレゼントが与えられることになったという。しかも、なんとそのプレゼントはレイモンド団長から贈られるらしい。
しかし、残念なことに一番小さくなれたのはミゼルだった。でも、毎回みんな頑張って休憩時間に練習していたから、レイモンド団長は全員にプレゼントをくれたということだ。「本日の午後の訓練は休みとする」なので、今から何をしようかって話してたところだった。
「じゃぁ、みんなでピクニックでもしますか」
名案でしょうとフローが首を傾げる。
「···しません」
後ろからする冷たい声の主を振り返る。
···な、なぜ、怒ってらっしゃる?
「アル?」
「チェン、レイ!···行くぞ!」
アルの呼び掛けに直ぐに2頭が来ると、フローは突然アルに抱き抱えられたままレイの背に乗せられた。
「ライ様、戻ってくるまでエリクをお願いします」
「了解だよー。いってらっしゃい」
満面の微笑みで両手を振りながらライ様に送りだされた。
「エリク、そういう訳だから···今から私たちと行動しましょうね」
「つまり、妹は拉致されたと···」
☆
森の中を抜けると小さな泉があった。泉のほとりでは白い花が咲いていて、木々の隙間から陽射しが射し込み泉の水がキラキラ反射していて、幻想的な光景だ。
「素敵!」
レイの背から降り立つと、隣にアルも降り立ち、二人は並んでその光景にしばし見惚れていた。
「さっきはごめん。せっかくエリクと一緒に来てくれたのに······ずっと会えなかったから。今日はどうしてもフローと二人で話したいことがあったんだ」
泉を見ながら話し出したアルの横顔は、とても真剣だ。
近くにある岩を指差し、座りながら話しをしようといい、レイとチェンが泉へ水を飲みに行くのを見送りながらアルが岩へ敷いてくれた上着の上に二人で座った。
「先に、私から····聞きたいことがあるわ」
首を傾げ「何かな?」優しくアルは微笑む。
「儀式後、初めてアルに会って···急成長したから···今までの私と全然違うから···会うのがずっと不安だったの」
「フローは今までも可愛かったけど、今もとっても可愛いよ」
身長がアルと同じくらいあるし、大きく成りすぎたフローの姿を見て嫌われたらと思うと、会うのが怖かったと胸の内を吐露する。アルは話を聞きながら優しく頭を撫で何度も頷いて不安を取り除いてくれた。
「僕は会えなかった日々で、これからの事を色々考えてた。僕の話も聞いてくれる?」
「魔人族は10歳で成人なんだ。僕は、もうすぐ9歳になる」
9歳になったら一年間王宮騎士に就任し、成人したら2年間魔術世界大学へ行き、卒業したら第一魔獣騎士団に戻って来ようと思ってるとアルが真剣な眼差しを向けて話す。
「···じゃぁ、会えなくなるのね」
突然のことで、真剣に未来を語るアルに向ける応援すると言う言葉が出てこなかった。更に、会えなくなるという淋しさが次から次へ溢れてきて俯いたまま顔を上げられなくなった。
「···―――」
聞き取れない声で何か囁いた後、アルは岩から降りて目の前で片膝をつき右手を前に出しフローの手をとった。
「フロー、僕は君が好きだ」
「···会えなかった時間、フローとの未来ばかり考えてた。まだ、この気持ちをフローに打ち明けるのは早いって分かってるけど、···必ず幸せにすると誓うから、僕とずっと一緒にいてほしいんだ。将来、僕と結婚して···」
言葉を最後まで聞かずにアルに抱きついてしまった。
「アル、大好き。···私もずっとアルと一緒にいたい」
背にアルの両腕が回り、左肩の上にアルの顔が乗ると、耳元で小さな声で囁かれた。
「僕と結婚してくれる?」
「アルとしか結婚しないわ。私をアルのお嫁さんにしてくれる?」
「もちろん。···ずっと一緒だよ」
アルは肩から頭を離し、フローの額にキスをした後、右手の甲にもキスを落とした。
恥ずかしくて、耳まで赤くなった顔を両手で覆い隠すと、そのままアルに抱きしめられた。
レイとチェンが泉で水遊びをし終えると、2頭は全身を何度もブルブルと震い、水を飛ばして身体を乾かす。
『そろそろいいかなぁ』
『レイ、空気読みなさいよ』
しばらくして、2頭が身体を乾かし終わった後、二人のところに戻ってきた。
『ねぇー、フローに変な者がずっとついてるんだよねぇ。チェンも気になるってぇ』
「···ゆ···幽霊?···とか、言わないよね?」
『違うよー、でも似てるかも』
「えぇー···?···怖いよ。な、何?」
レイがフローの胸辺りに鼻をクンクンさせてきた。
『この辺に何かいる?』
「あっ!すっかり忘れてた」
胸ポケットからサラマンダーを出すと、手のひらに乗せたそれをレイに見せた。
「見える?」
『何かいるのは分かるけど、見えないよ』
サラマンダーに起きるように身体を軽く突っつくと、欠伸をした後で瞼が持ち上がり大きな瞳が開かれた。そして、覗いて見ているレイとチェンに驚いたのか、ポケットに飛び込んで身を隠した「大丈夫だよ出ておいで」フローの声にポケットから顔を出し、肩まで移動した後首の後ろからまた顔を出している。「挨拶しましょう」みんなに姿が見えるように話すと、二度頷いた。
『『何それ!』』
『『可愛い!』』
2頭の言葉に、つぶらな瞳をパチパチさせて更に可愛さアピールをする。
「···トカゲだよね?白い地に生息している種類のものなの?」
アルの言葉に、今度は目を細めて緑の炎が出ている自慢の尻尾を上下に動かし手に打ち付けて怒りを表現している。
フローは首を横に振り、サラマンダーが産まれた経緯を話す。
「フローは、色々···規格外だね」
「私もビックリで」
私の代わりにアルを守ってくれるお友達だと思って飼って欲しいと話す。
そもそも、精霊の存在など神話かおとぎ話の中での存在だと思っていたから、実在していることがかなりの驚きだとアルは言う。ましてやそれが、自分を守護してくれるとは
『名前、なんて付けるの?』
『可愛いからカワトカゲとかどう?』
『チェン、トカゲじゃないって』
『アルが名付けするのに、案を言っただけよ』
2頭はサラマンダーが可愛いらしい。
「そうだな、フローは?何か案はある?」
「アルに頼もうと思ってたから無いわ」
「···サラマンダーだから、サーラか、サラマか、ラマンとか···難しいな···」
しばらくアルはブツブツ言いながら
「グリーンのサラマンダーってことで、グラダってどうかな?」
首を横にフルフルと振っていたサラマンダーが、最後に瞳を輝かせ瞬きをしながらコクコクと頷いた。
頷いている姿を見るて、アルは首を傾げながら「これでいいのかな?」もう一度その名を言ってみた。
「グラダ」
するとサラマンダーは宙を一回転して、アルに飛びついた。
···お、大きくなってる?
フローの手のひらに乗って寝ていたサイズの3倍くらいの大きさになって、今はアルの右肩に乗っている。
『グラダ、カッコいい名前だ』
つぶらな瞳を可愛いらしく、目をパチクリさせた。
「···グラダも話せるのか」
『グラダ、精霊だよ。トカゲじゃないよ。話せるよ』
肩の上から離れ空中を泳ぎ始めた。みんなの周りをグルリと一周してからアルの前まで戻って来る。
『お腹すいたら戻ってくるね。グラダ、燃やすの得意だから何かあったら呼んでね。アルの声、何処に居ても聞こえるからすぐ戻ってくるね』
空中で一回転すると消えて居なくなった。
「フロー?」
ポカンと口を開けたまま、フローはグラダがいなくなった場所を凝視していた。フローの目の前をヒラヒラと手を振り「大丈夫?」アルが心配そうに覗き込む。
「···グラダ!いなくなったらお守りの役目が出来ないじゃない!どこ行ったの!」
『呼ばれたらすぐ行くよ』
どこに行ったのか、姿は見えないが返事が返ってきた。
『さすが、フローの魔力で産まれた子だね!ハハッ』
レイが、からかうように笑って言う。
『フフッ。レイも同じなんですが』
チェンが横目でレイを鼻で笑った。
誤字脱字がありましたら
申し訳ございません。




