~一章~ 決意発表
アルがフローを持ち逃げしてから、エリクは何故か第一魔獣騎士団の騎士団員たちと一緒に魔獣を洗っていた。
黒国に来て分かったことだが、魔人族たちは大きい。エルフ族の成人男性は平均190センチ位だが、話を聞くとこちらでは同じ成人男性の身長は200センチ以上だと騎士団員たちが話す。
騎士団員の中で、一番小さいライさんでも身長が192センチだという。
ライさんは整いすぎた美貌で笑顔を振り撒きながら色々教えてくれるが、その美しさに何度も振り向かれると赤面してしまう。
「顔が赤らんでいるが熱でもあるのか?」
「······無いです。大丈夫ですよ」
団員たちは、かなりの美男子ぞろいだ。
······フローは毎日この中にいたんだよな
······ハーレムじゃん
などと、団員たちが自分の魔狼を洗っている姿を眺めていると
「エリクはこの子を頼むね」
エリクの背丈位に小さくなってくれている真っ黒い魔狼をライさんが連れてきた。洗いかたは見ながら教えると言うが「俺が触っても?」主にしか懐かない魔狼を洗えるのか疑問である。
「大丈夫だよ!ミゼルが触ってもいいって!」
恐る恐る手を伸ばす。そしてフワリと背を撫でてみた。
「僕はエリク、君はミゼルって名前なの?触らせてくれてありがとう。キレイに洗わせてもらうね」
エリクが声を掛けると、ミゼルはエリクの顔を一瞬見た後瞼を閉じてエリクに体を預けた。
団員たちの洗い方を見ながら、まずはブラッシングしてから全身を濡らす。シャンプーを満遍なく塗ってからワシャワシャ体から洗い、足、尻尾、頭、顔の順番で、一度水で洗い流しそれを繰り返す。その後、毛の表面に軽くコンディショナーを塗りそれをよく洗い流す。
「ミゼル、終わったよ」
終わりを告げられ、ミゼルが全身をブルブルっと振り、水を飛ばす。
「じゃぁ、乾かすからね」
ミゼルが水を飛ばし終わったのを確認してから風魔法と火魔法を使い温かい風を当て、ブラッシングしながら乾かした。
「出来上がり!ふわふわだよ!」
頭を撫でながら終わりを告げると、ミゼルはエリクにすり寄った。
「終わったかい?······マジか······」
様子を見にきたライさんはミゼルの行動を見て驚いている。
「君たち兄妹は、とことん魔狼に好かれるね。常識が覆ることばかりだ」
エリクがどういうことか尋ねると、魔狼が主以外に親しみの行動を人にとるなんてあり得ないんだとライさんは言った。
更に、ミゼルはこの魔獣騎士団にいる魔狼の群のボスなので、たぶん他の魔狼からも威嚇されないという。
でも、なぜミゼルが身体を洗わせてくれたのかと疑問をライさんに伝えると
「実は、朝からグレイ副団長がアナ姫を洗っていたんだ。魔狼たちはシャンプーが大好きなんだが、それを見てた他の魔狼たちも訓練が終わったらシャンプーする約束をしていたのさ。今日は、もう訓練が休みになったからレイモンド団長は来ない。目の前で他の魔狼たちが洗ってもらえて羨ましいミゼルに声をかけたんだよ」
「洗ってくれる人は彼しかいない。ってね」
「フローのお兄さんだし、頼んであげるよって言ったら、しぶしぶ着いてきたんだ」
今の話の内容からすると、ミゼルはレイモンド団長の魔狼だということになる。ライさんは笑いながら話しているが、とんでもないことをしたのではないだろうか。
「······マジかよ······団長の魔狼?」
☆
「ただいまー」
レイとチェンの姿が見え、その背にフローとアルの姿が見える。
「あっ、二人が帰ってきたよ」
「ライ様、エリク兄様のことを頼んでしまい申し訳ありませんでした」
レイから飛び下りてライ様に謝罪をする。
「エリクはきちんとお留守番してましたよ」
「ライさん、お留守番って······」
エリク兄様とライ様が仲良しになれたみたいで嬉しい。その後でチェンから降りたアルも謝罪した。
「ライ様、ありがとうございました。エリク、突然置いてきぼりにしてごめん」
騎士団のみんなが、そろそろ昼飯の時間だから食堂に行こうと言い寮の食堂に移動する。
寮に向かって歩いていると、みんなの視線が痛い。今、アルとは恋人手繋ぎ中だ。離そうとするが強く握り返され指と指の間から汗が滲んでくる。顔が真っ赤になっているため、フローが俯いて歩いていると
「兄としては妹のそういうところ見たくないんだけど」
エリク兄様が助け舟を出すが
「では見ないで下さい」
アルは手を離す気はないらしい。
食堂では、シェフのモンド様が腕を振るってフローが戻ってくるのを待っていた。
「お腹が空いただろう。フローの好きなローストチキンサンドとベーコンサンドだよ。手を洗っておい······」
「······アル、食べ終わったら詳しく話を聞かせてもらうとしよう。手を離さなきゃ手を洗えないからな」
そう言って、モンド様はイソイソと厨房へ戻って行き他のシェフたちに指示を出し始めた。
テーブルではエリク兄様がフローの向かいに座っていて、隣にはもちろんアルが座っている。
「少し香ばしいチキンが凄く美味しい。オブラニキス国の食事の味付けなんかは、エメリラルド国とさほど変わらないんだな」
お腹が空いていたのか、エリク兄様は既に1つ目を平らげて、2つ目に手を伸ばした。
「エリク兄様、このローストチキンサンドとベーコンサンドは、モンド様と私が考えた逸品です。オブラニキス国とエメリラルド国の······ミックスサンドなのですよ!」
「へー。そうなんだ」
このサンドイッチの出来るまでの行程を話していると、レイモンド団長とグレイ副団長が食堂に現れた。
「「「お疲れ様です」」」
団員たちは席を立ち挨拶をすると、そのまままた座って食事を再開する。エリク兄様と私はその後「ご馳走になっています」付け加えて軽く会釈をした。
「自国の料理は口に合うかい?たくさん食べていってくれ、ここの食事はオブラニキス国で一番の腕を持つシェフが作っているからな」
レイモンド団長は優しく微笑みながら「モンド二人分追加だ」厨房に声をかけて、空いていたアルの隣に座った。
「「「······」」」
団員たちは、アルの隣に座ったレイモンド団長に興味津々だ。
グレイ団長はエリク兄様の隣でアルの向かいに座る。
······他にも空いている席あるよね
······な、なぜ団長······そこなんですか
······そしてグレイ副団長は
······なぜニヤケ顔でそこに座るかなー
「お待たせしました。昼食はモンドとフローの合体サンドですよ」
モンド様が直々に料理を運んでくると、レイモンド団長が「デザートはモンドも一緒に」とグレイ副団長の隣の空席を指差した。
「エリクは、初めてのオブラニキス国どうだった?第一魔獣騎士団の印象なんか、聞かせてよ!」
グレイ副団長がエリク兄様に話し掛け、その場の緊張が和らいだ。
「魔人族の皆さんの大きさと、美しさにビックリしました。まだ男性にしか会えていないので女性にも会って見たいです」
「あと、騎士団の皆さんと魔狼のシャンプーをお手伝いさせていただきました。魔狼の大きさに驚きましたが、体を小さくすることまで出来て、知恵の大狼とは聞いていましたが、素晴らしい出会いをさせていただきました」
するとグレイ副団長は「美しい?」首を傾げてエリク兄様に尋ねる。
「魔性ですかね、カッコいいって言う言葉とは違うんですよ。綺麗とか魅了されると言うか、皆さん美形なんですね」
次にレイモンド団長が「魔狼を洗えたのかい?」不思議な面持ちで言うと、隣のテーブルに座っていたライ様が事情を説明した。
「エリク君は凄いな、ミゼルが許したか」
流石にレイモンド団長とグレイ副団長もこれにはビックリしたらしい。
「ミゼルは光り物大好きだからなー」
チラリとエリク兄様の髪の毛を見てグレイ副団長は「キラキラでいいな」などと自分の髪の毛も金髪にしたいと言っている。
そして、そろそろデザートと言うときだ。
「ここにいる騎士団員に聞いてほしいことがあるのだが、息子からの決意を皆も一緒に聞いてくれるか」
レイモンド団長がいきなり席を立ち、団員たちは「「「はい」」」声をそろえた。
アルは大きく目を見開いた後フローを見て目を細めて手を握る。一度呼吸を整えてからフローの手を離すと立ち上がった。
「私、アルフォード·ギャリマは一年間王宮騎士とし就任することが決まりました。その後、白い地にある魔術世界大学に二年間学びに行き、卒業後に第一魔獣騎士団に戻ってきます」
「王宮騎士の就任期間が終わり、魔術世界大学に入学する際に······エメリラルド国のフェアローラ·ドゥルス嬢と婚約し、大学卒業後に結婚の申し込みをし、竜の巣で誓いをたてます」
「婚約とは、結婚の約束をすることでありオブラニキス国とエメリラルド国にはない風習ですが、フローの父様の国のサフィニア国では婚約期間を経てから結婚になるとのことで、私もそれに従いたいと思っています」
「········以上です」
アルが話し終え、レイモンド団長が立ち上がり「以上が息子の決意だ」何かのときは叱咤激励してやってほしいと話した直後、デザートが運ばれた。
モンド様が席に座り、レイモンド団長を睨みながら「ケーキにすればよかった」先に言ってくれればとふてくされていた。レイモンド団長も、アルの表情でフローと話し合えたことが分かったから、前もって言えず済まなかったと謝っている。
「エリク君には、アルの決意をご両親に話していただきたいのだが。私も手紙を出すつもりだが、手紙が届くまでに時間がかかるからね」
それと、この事は白い地では内々にしなくてはならないとレイモンド団長は付け足した。理由は、フローがゲートで黒国に来たことに箝口令が敷かれているからだ。ゲートの悪用、フローの汚点になりうること、色々な視点から敷かれた箝口令なので、各国の王も口をつぐんでいる。
「そそー、それに知られない方がいいよ!もしかしたら、アルより素敵な男が現れるかもしれないじゃん」
グレイ副団長は言った瞬間、顔面蒼白になって口を手で押さえた。全員からの睨みをきかせた視線が突き刺さる。「じょ······冗談だよぉー」空気を読めない人である。




