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調香師は時を売る  作者: 安井優
それから編

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232/232

調香師は時を売る

 王国一の調香師、パルフ・メリエのマリア。

 その(うわさ)は、王国だけでなく、国境を越え、海を渡り、世界各地へと広がった。


 森の奥で開いていた店も、やがて、城下町の一等地へと移ったという。より多くの人が訪れ、人を(やと)わねばならなくなったからである。

 マリアの店は、それは大層繁盛(はんじょう)し、いつも多くの人で(にぎ)わっていたそうだ。


 マリアは、城下町へ移り住むと同時に、王国騎士団の副騎士団長を新たに任された男、ケイと結婚し、二人の子を()して幸せに暮らしたのだった。

 子供が大きくなり、独り立ちをするころには、ケイも騎士団を引退した。引退後は、マリアの店を手伝い、女性客を何度か怖がらせたりもした、というのは笑い話である。


 マリアは老衰(ろうすい)で亡くなるその日まで、調香を続けたのだそうだ。

 彼女の死に際には、カモミールの優しい香りがしたという。


 彼女の死後、マリアが作った香りのレシピは無料で公開され、再び人々を楽しませた。

 最後の最後に、無料でレシピを公開するという前代未聞の大盤(おおばん)()()いをしたことに関して、彼女の古くからの友人であり、これまた世界的な一流デザイナー、ミュシャはこういった。

「まったく、マリアらしいよ」

 マリアは昔から金勘定(かねかんじょう)が苦手だった、と笑う姿に、マリアを知る皆が同意した。


 こうして、調香師マリアは生涯、様々な人に香りを……そして、たくさんの幸せな時間を売ったという。

 彼女の意志は多くの人に相伝(そうでん)され、そして、彼女の作りだした香りは、今もなお、多くの人に愛され続けている――。


 男は、旅先で偶然見かけたそのパンフレットとともに、古びた洋館を見つめて、息を()らした。

 美しく手入れされた庭園は、珍しい植物が色とりどりに咲き(ほこ)り、どこからか優しい花の香りが(ただよ)う。

「マリアが好きだった花の一つ……ライラック……」

 香りの方へ視線を向けると、柔らかな紫色がまるで空から降るように枝垂(しだ)れている。


 男は愛用の万年筆をポケットから取り出して、メモ帳へと歴史の欠片を記していく。咲き(ほこ)る花々、それにまつわる出来事、マリアの過ごした場所……。

「調香師、か」

 男にはあまり馴染(なじ)みのない職業だが、世界中で愛されたその彼女の物語に興味がわいた。

「今度は、マリアの歴史を(つづ)るような……史実(しじつ)(もと)づいた話を書くのも、面白いかもしれないな」

 彼は万年筆をサラサラと走らせた。


「タイトルは……」

 男の頭上で風が吹き、ライラックの花が()れる。

 彼のメモ帳に落ちたのは五枚の花弁をもつライラック。幸運の花。


 ――マリアの(つむ)いだ素晴らしい歴史が、またどこかで花開く。


 そう思えば、男の胸は自然と(はず)んだ。

 彼はメモ帳にこう(しる)した。


『調香師は時を売る』


 これは、調香師マリアが、香りを通じて、人々の時をつなぐ物語である。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!


このお話は、大変多くの方に支えられたお話となりました。

たくさんのあたたかな反応に感謝が尽きません。

このお話をお手に取ってくださったすべての皆様に、感謝申し上げます。

本当にほんとうに! ありがとうございました!



ちなみに、お知らせですが……なんと! 番外編 他 を投稿することが決まりました~*

こちらは、調香師シリーズの「あらすじ・登場人物紹介」の方に不定期投稿させていただきます。

※詳細はTwitter( @_yuyasui_ )または、活動報告をご覧ください♪

 Twitterにて投票くださいました皆様、本当にありがとうございます!


それでは……。

最後までお楽しみくださいまして、本当にありがとうございました!

また皆様とお目にかかれる日を、楽しみにお待ちしております♪

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今まで彼女の人生を追ってきた身としましては、感慨深い気持ちで一杯です。思えば、文字で香りを表現しようという、難解で複雑な挑戦をしている安井さんの文章力に惚れ込んで、ファンになったような気が…
[良い点] 完結おめでとうございます!!!! その後も最後まで素敵な終わり方でしたー! 一行読むたびに何故か達成感がやってきて、嬉し涙が止まらない…! 本当に本当に本当に!素敵な物語! ありがとうござ…
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