14話 桜色のところまで──。
古崎美緒もオレと同じく、世界線を越えてきたのか!
いや、まてまだ仲間認定するのは早い。そもそも妹がいきなり出来たといっても、色々な事情があるだろう。たとえば父親の隠し子が発覚したとか。
「それはアレだろうか。隠し子発覚したとかの事情か? だとしたら、何かと家族会議が大変だっただろうね」
美緒はティーカップを受け皿ごとオレに寄越した。
「それはどうかしらね。朝起きたら、妹の優愛がいることが当たり前の環境だったかもしれないわよ。まるで世界が変わったかのように」
なんとなんと。だとしたら、オレ達は本当に同士だというのだろうか。
あれ、やばい。美緒に対して親近感が湧いてきた。
だけど、不可解な点もあるのだ。どうして美緒は、オレにこんな話をするのだろうか。別の世界線から来たなんて話をしたら、変人扱いされること請け合いだというのに。
もちろん、例外はあるか。たとえば、同じ超展開に遭遇した者に話すならば、つまりオレとか──
考え込んでいたため、一瞬だが忘れていた。ここが女子の部屋であり、ちょっとした密室の中に美少女といるのだということを。
その美少女は、半日前にはオレを誘惑した上、窮地に追いやったということを。
で、どうしてそれを思い出したかといえば、美緒がグッと近づいてきたためである。グッと近づき、しかも胸元をちらっと見せてきた。
ここまで折角、オレは色々と思考していたのに、この一撃で全てが吹き飛んだ。
なぜならば、鼻息がかかるほど近くに胸の谷間があるからだ。
「どうかしたの、川元くん? ある一点を凝視しているようだけど?」
くっ、この女、全て承知の上で聞いてくるとは。オレは視線を引きはがそうとし、失敗したので再度、谷間を凝視した。
白い肌の上を視線が滑りゆく、ブラジャーが少しだけ見えているような気のせいのような。
「もっと見たいの?」
「え、もっとというと、どの領域まで?」
「たとえば──桜色のところとか」
桜色といえば、先端についていあるアレか。そこまで見せてしまうというのかね。
スマホが着信したことでオレは助かった。危うく美緒の誘惑に負けるところだった。ディスプレイを見ると妹の沙耶からだ。今日できたばかりの妹だが、いろいろと助けてくれる出来た妹である。
「えーと失礼」
オレは立ち上がって、美緒の部屋を出た。無臭の廊下に出たことで、美緒の部屋のいい匂いが意識される。性感帯のような匂いだった。
「もしもし沙耶、助かった」
「だと思ったよ、お兄ちゃん」
「え? もしかして、オレがいまどこにいるのか知っているのか?」
「いまさっき優愛ちゃんから連絡が来たからね。沙耶のお兄ちゃんが、優愛のお姉ちゃん、つまり美緒の部屋にいるということを」
優愛への口止めは速攻で破られていたらしい。そのおかげで美緒の胸の桜色のところまで見なくて済んだが。……畜生、惜しいことをした。
「お兄ちゃん。桜子ちゃんがいるんだから、美緒なんかに誘惑されないでよね」
「がんばる」
「努力目標じゃないからね。美緒が誘惑したからって、ピ~をぺろぺろしちゃダメだよ」
自主的にオレの脳内でピ~音が入った。
「こら沙耶! そんな卑猥な単語を口にしちゃダメだろ、まだ小学生なんだから!」
「はーい、お兄ちゃん。じゃ今すぐ帰ってきて。妹と約束があったからとでも言えばいいから」
「わかった」
オレは通話を終え美緒の部屋に戻ろうとして、ふと考えを変えた。
扉を開けた状態で、廊下から室内へと言うことにする。これなら美緒の部屋に充満する、なんか媚薬っぽい匂いからも逃げられるというものだ。
「悪いな、古崎。オレはもう帰るよ」
「いいの、川本くん? あたし達は同士なのに? 同じく世界線を移動してきた仲間でしょ?」
「……ええっ!」