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幽鬼の姫は終焉に揺蕩う/~Ghost Princess~  作者: 花夏維苑
第三章『神の居る街』
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三章第15話  『未来を掴み取る意志』




「――やってしまった……これが言ってた『絶望』の性質って奴かな」


 無惨に転がる死体の山の中、我に返ったエリファは目の前に広がる景色を見て、頭を悩ませていた。

 何がきっかけだったのか、エリファ自身にも分からない。気づいた時にはエリファの中の何かが、ぷつんと切れて、散々に暴れ回った跡だけが残っていた。

 かといって、その間の記憶がない訳でもなく。と言うよりも、通常の出来事よりも鮮明に脳裏に焼き付いている。

 おそらく、これがシリアルやウィルが言っていた『絶望』の性質と言うやつだろう。


「これからは暴走させないように気をつけないと」


 『絶望』の力を我が物としたのは良いのだが、些か扱いが難しいようだ。エリファの身体に蘇った二つの存在の力の内、最初の片方でこの不安定さなのだから、先が思いやられる。

 まあ、そういう性質の力であるということを、決戦の前に知れたのはいい事だ。不安定であることを自覚していたからこそ、こうやって、わざわざ味方が居ないタイミングで試したかった、という気持ちも無い訳では無い。


「……さて。まずは、ウィル達との合流からかな」

 

 力を制御しきれず理性無く動いていた身体を、もう一度自分の意識に馴染ませるような心持ちで、伸ばしながら、エリファは呟く。

 結果的には、周りの敵を殲滅することが出来た。ならば次は、ウィル達との合流が先決だ。

 もちろん、ウィル達の位置はわかってはいない。それこそ、この街の外、もっと遠くまで吹き飛ばされたのならお手上げだが。


「さすがにそこは加減するはず。多分、おそらく、きっと」


 あの時は冷静になれるような状況ではなかった故、もし、力任せに爆発したのであっても、ウィルを責めることは出来ない。何せ、あれがなかったら、今頃、普通に全滅していただろうから。


「……で、どうやって合流するかな」


 こういうはぐれた時用のいざという合流パターンを用意していなかったのは間違いだった。お互いの位置すら分からない今、お互いの行動心理なんてものが分かるはずもなく。

 

「ああいや、最終的な目標地点は決まってるか」


 そう言ってエリファが見つめる先には、ウィルの自爆によって半壊した街のシンボル――『聖堂』。

 広い街ゆえ、エリファの現在位置からはかなりの距離があるが、『箱』の奪還という最終目標で訪れることになるのはやはりあの場所だろう。

 『箱』を持っているという『組織』らしいのは、今のところ遭遇していないが、一番怪しいのが『聖堂』なのは変わりない。

 それに、『善』のエリファや、邪神もまだそこに居るはずだ。


「てことは、やっぱり『聖堂』に向かうべきかな」


 なんだかんだで、エリファの思考をわかってくれるのがウィル達だ。そこは、彼らのエリファ愛に賭けよう。

 そうなると、一番不安なのが『愚者の絶望』ことクロ・ナルヒェンなのだが――、


「そこも賭け、だね。……はあ、結局、不確定要素が多すぎる。……でも、世界は待ってはくれない」


 いつだってそうだ。世界って奴は、運命の歯車を幾つも噛み合わせて、エリファの計り知れない所で勝手に回っている。

 記憶が戻りつつある今、エリファにはやりたいことがいっぱいある。

 自分の事を自分に問うてみたり、幽鬼の森も今一度行かなきゃならなかったり、ウィル達との交流だったり、あのお調子者の従者を問い詰めることだって――。

 けど、それをするのは、全部が終わった後だ。

 全部がスッキリ片付いた後で、好きなだけ今まで拒絶してきた自分の過去について調べてやればいい。

 だから――、


「だから今は、無茶のし時。何が何でも、もう一人の自分を止める。それから、『邪神』も止めるし、『箱』も取り戻す」


 欲しいものばかりで、やりたいものばかりだ。


 けどそれでいい。

 何も求めず、全てを否定して生きていくよりはずっと、有意義だ。

 ちゃんと全部手に入れるし、全部やってやる。


 今までのエリファに足りなかったのは、そういう覚悟、決意といったものだ。

 でも今は、


「――待ってろ。今の私は……強いよ」


 『幽鬼』の為ではなく、自分の為に。

 与えられた使命のためではなく、手に入れたい未来の為に、エリファは決戦の地へと走り出す。




※※※※※




「……いや、我、普通に死ぬところだったが!?」


 崩れ落ちた石材の山の中から這い出てきた黒髪の少女は、ふう、と瓦礫に持たれかけ一息つくのも束の間、怒りを露わにして叫ぶ。

 詰んだ状況であった為、確かに脱出手段を選んでいる暇もなかったのはわかる。わかる、が、一歩間違えたら普通に死んでいた。

 瓦礫の山に押し潰されながらも、無事生還したのは奇跡と言えよう。


「結果だけみれば助かってはいるが。我、か弱い女子だぞ!? 潰されて見るも無残な姿になっていたらどう責任を取ってくれるつもりだ!」


 あのまま、脱出できずに『邪神』の放ったエネルギーの渦のような攻撃を食らっていたら姿すら残らなかっただろうから、どっちもどっちな気もするが。


「ってあれ? 皆、どこ行ったんだ?」


 ここに来てようやく自分以外、周りに誰もいないことに気づく黒髪の少女――『愚者の絶望』ことクロ・ナルヒェン。

 『臆病』、『飢餓』、『束縛』――いや、エリファが居たはずだが。その姿が何処にもない。

 まさか――、


「まさか、皆、瓦礫の下にッ!? おい、返事をしろ『臆病』! くっ……! 今、我が助けてやるからな……!!」


 そう言って、瓦礫の山をそそくさと退け始めるクロ。

 その考えは見当違いな考えであったが、彼女は本気だ。彼女は本気で焦っていた。

 とてつもない量の瓦礫を一つ一つ、バランスを崩さないように注意しながら取り除いていくという、難しい作業を、しかも無駄に終わるその作業を彼女は本気で取り組み始めたのである。


「我が悪かった! お前を責めようとしたことは謝る! だから頼む『臆病』、皆! 無事でいてくれっ!!」


 彼女は愚者である。

 故に、この作業が終わって、仲間の姿がどこにも無いことを確認すると、彼女は「まさか、我だけあの攻撃から助かったのか!?」と真剣に絶望することだろう――。


 ――――……。


 ――……。


 ……。



「まさか、我だけあの攻撃から助かったのか!?」

 

 そう、彼女は愚者である。


 故に気づかない。

 明らかに瓦礫の量がおかしい事に。


 彼女が嘆いているこの場所が、変わり果ててはいるが決戦の地であることを。

 『聖堂』、その場所である事に気づかない――。




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