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双子を見分けられるのは必然です。

 入学式から1ヶ月が過ぎた頃、この世界の主人公であるヒロはイケメン達の横を通り過ぎる度にキモがられていたーーー。

 通常なら入学式初日に迷子になった主人公が俺様生徒会長にぶつかって眼鏡が壊れ、美少女だと一目惚れをして逆ハー状態になる予定だった。 しかし前世の記憶を取り戻したヒロは、あの入学式の日にフラフラと体育館に向かったのだ。


 俺様生徒会長とぶつかるフラグよりも先に体育館にて双子がイチャイチャしているシーンを拝むことに頭がいっぱいだったのである。 単品に興味はないとばかりに即座に体育館に配置されたパイプ椅子に座ると、やっぱり生徒会の席に座っていたイケメン双子を弟から貰った大事な眼鏡で拝む。


 あゝ、そんなに顔を近付けてネクタイを結ぶ姿……最高です。 さすがは、伊吹いぶき様と伊織いおり様。


 鼻血が出る鼻を抑えながら萌えていた結果がコレである。



「なあ伊織、あのガリ勉またこっち見てニヤニヤしてね?」


 ガリ勉とはヒロのことを指していた。 そう、ヒロは双子の横をすれ違うたびに如何なる用事があろうとも一時停止して、物陰から覗くと緩む口元を隠しもせずに絡みを今か今かと待っているのだ。

 容姿がおさげ三つ編みに丸眼鏡から双子にはガリ勉とあだ名が付けられている。

 そんな主人公の行為は双子だけでなく、仲の良い男子同士でもカップリングする神聖な儀式でもあった。 ちょっかいを出すなど烏滸がましい。 見てニヤニヤカップリングを想像するのが、ヒロにとっての生き甲斐でもあった。


 先程の伊吹が伊織に言った言葉を聞いていないヒロは未だにぐふふとにやけながら「その肩に乗せている右手をどうするの伊吹様」と言った具合に攻めである伊吹の行動を、舐めまわし見ているのである。


 不愉快な視線を発しているガリ勉を見て、伊吹はこの1ヶ月間面白い遊びをするようになった。


 伊織の肩に置いた右手を頬にゆっくり移動し、残っている左手で腰を抱くような仕草を伊織を使ってするのだ。

 伊吹の変な行動に「なんだよ」と振り払おうとした伊織の手を掴んでシー…と色っぽく人差し指を唇に付ける。


「面白いからガリ勉見てみろよ」


 伊吹の人差し指がガリ勉を指差すのと同時に目線をガリ勉に向けると、そのガリ勉は鼻血を漫画のように吹き出して後ろへ倒れた。

 白いパンツが見える。


「ぶふッ!」


 双子同時に笑うと、スッキリしたとばかりに肩を組んで倒れたガリ勉を振り返りもせずにその場をあとにする。 ヒロの腐女子を最大限利用した悪趣味な遊びがこれなのであった。

 遊ばれていると気付いていないヒロは、ご馳走様です。ありがとうございます。と、ダクダク流れる鼻血にティッシュを詰め込みながら肩を組む双子の姿をこっそり写メるのである。




「写真撮られたよ?いいの?」


 シャッター音に気付いた伊織は怪訝な顔で伊吹に耳打ちすると、ガリ勉をチラ見みた。

 入学式から異様に自分たちを見る姿を目にしていたが、周りの女どもとは違う女。

 鼻血は周りの女どももよく出す、こっそり見られるのも慣れているが、あのガリ勉の見方は明らかに違う何かがあった。


 伊吹狙いの女なのか?と思いはするものの瓜二つの双子の僕らを見分けられるような子にも見えない。


 そんなあらゆる考えを出したが、どれもハッキリとせずにもういいや!と写真を撮られても気にしてない伊吹を追いかけた伊織であった。




 ♦︎♢♦︎♢




 肩を組んでいる双子を伊吹×伊織の双子フォルダに保存してホクホクしたヒロは、足取り軽く自分の教室へ戻る。


「坂木!お前プリント職員室に持って行ったんじゃなかったか?」


 ……あ。

 双子の絡みに夢中でスッカリ忘れていた。 集めたプリントは無意識に手に持っていたみたいで良かったが、職員室に行こうと踵を返す。


 良いことに教室から職員室まではそう遠くもない、小走りで行けば予鈴までに戻れる近さだ。

 おーーーっと!しまった。また私的トラップに引っかかってしまった……と窓の外で副会長に肩を預けて眠っている会長たちカップルに目を奪われた。奪われたのは一瞬でヒロの視界はぼやける。


「ったー、げ。ガリ勉」


 どうやら受けの伊織様と正面衝突したみたいだ。

 攻めの伊吹様が居られないけど、二人一緒でなくては駄目じゃない!!

 というか、ガリ勉というアダ名にむかっときて、そんな想いからヒロは伊織君をそのちっこい身長で見上げる。



「ぶつかったのは謝るけどガリ勉なんて呼ばれる筋合いはないわ!早くお兄さんのところに行ったらどう?」


 ふん!と鼻を鳴らしたところで予鈴がなった。早く職員室に行かないといけないと思い、小走りに移動をしようとした矢先、ピンッと何かに引っ張られる。

 ……髪を離せーい。伊織君ー?

 私を妨害しようとしているのか、ピンと張られたおさげ三つ編みの片方を掴まれて行動が制限されていく。


 お、おうおうおう…。なぜか引っ張られて資料室みたいなところに入らされた。

 リンチか!?リンチか!?

 てめえみたいなガリ勉が歯向かうんじゃねーよ!バキッ!という展開か!?


 ヒロは無意識にプリントを手放していた。

 この部屋は窓が開いていて薄く軽いプリントは簡単に宙へ舞う。



 荒々しく壁へ追いやられると、くるか!?グーパンチ!と思って咄嗟に目を瞑ってしまった。


「伊織じゃない、伊吹だ」


 降ってきたのはグーパンチではなく単なる声で、ヒロはぱちりと眼鏡越しに目を瞬かせる。


「そんなばかな!」


 間違いなく受けの伊織君であると断定できた!カップリングする者が間違えるはずなどありえないのだ!!


「本当だよ?俺は(みなみ)伊吹(いぶき)


 なおも伊吹様のように言ってのける伊織様の心理が分からず、ヒロは変な闘争心に火がついてしまう。


「いいえ!絶対に伊織君!!」




 ーーー根拠は?と聞こうとした伊織は突如開く扉に遮られて聞けなかった。


「あれ?何してんの、密会?ガリ勉と!?」


 ぶふっ!と笑って入ってきたのは伊吹だった。丁度いい、本当に見分けがつくのか試してやる…と伊織は伊吹の耳に口を近付けた。


「伊吹ーーー」


 聞こえないように何かをしようとしている伊織様にヒロは携帯でパシャパシャと無遠慮に撮りながら、やっぱり伊織様じゃないの!でも、受けの伊織様が伊吹様に耳打ちしているところはなかなか萌える…ッ!!


 溢れる鼻血を抑えながら、二人の近い接近に悶えているとふいに離れた。


 え、早いよ。なにしてんの?ちょっと?

 なに腕組んじゃってるのーーー????


 メロメロのなっているヒロをおいて、伊織様が口を開く。


「俺を当ててね」


 そう一声発して、双子は扉の外に出た。しかし、出たもののすぐに入ってきた双子はお互いに無表情である。

 何してるんだろ…と少し思ったヒロは出て行く際に伊織様が言っていたことを思い出した。


「伊織君でしょ?」


 ピッと指を向けたヒロに伊織は伊吹との腕を離す。


「ハッタリじゃないのかーーー」


 双子は顔を見合わせて唖然とした。

 そして、右の通路を伊織の腕によって塞がれ、左の通路を伊吹の手によって塞がれた。


 お、なんだなんだなんだなんだ。

 ヒロは背中は壁、目の前は双子で両端はその腕……まるで、檻の中にいる気分に陥る。


「「ガリ勉、名前なんていうの?」」



 笑顔な双子の台詞(漫画では『君、名前なんていうの?』だった)がリアルで降りかかった瞬間であった。

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