プロローグ
~人類ですって? そんなものは抽象名詞です。昔から存在していたのは人間だけです。将来も存在するのは人間だけでしょう。~ ゲーテ
4人の学生は山森の中を歩いていた。不安はあるもののゴールは近く、軽い足取りで土道を進んでいく。
「ふう、このトンデモ強歩大会もようやく終わりだねえ」
小柄な学生は周りの3人を見上げて言った。
「ああ。俺は風見鶏学園に入学したことを心から後悔しているよ」
小太りの学生は今までを振り返り、ため息を吐いた。
「まさか、入学早々にこんなことをやらされるとは……」
大柄な学生は自身のたるんだ腹を撫でた。
「俺たち、まだ教室はおろか、学校そのものにも行ってないんだよな」
細身の学生がそう言うと、4人は顔を見合わせてその事実に愕然とした。
4人は森の中を歩いていく。
「……なあ、もし、もしもだぞ。時間を止められたら、どうする?」
小太りの学生は細身の学生に聞く。
「……おっぱいを揉む、かな?」
「! ばっかじゃないの! なんで君たちはそんなに下品なんだ!」
顔を赤くして怒ったのは小柄な学生だ。
「そうだぞ。俺たち、もう高校生なんだから少しは考えて発言するっちゃ」
大柄な学生はそう言って細身の学生を諭す。だが、その後がいけなかった。
「いいか? 時間が止まっているってことは、おっぱいのスンバラシイ弾力は失われてるっちゃ! だから、揉んだって気持ちよくないっちゃ!」
「ばか! 君たちはすんごいばかだ! ばかで下品だ!」
4人と1匹は森の中を歩いていく。
「……ついてきているか?」
「……怖くて振り向けないよう」
「ところでゲン、時間を止められたら、おまえだったらどうするっちゃ?」
「そうだなあ」
苦笑を浮かべ、小太りの学生、高坂源一郎は最初に自分から振った会話の内容について考えた。
時間が止められたらという会話は、ドラえもんの道具が使えたらと並ぶ、現実逃避したいときに思い浮かぶ最たるものだろう。
そして少し、ほんの少しだけ考えて、源一は叫んだ。
「とりあえず……、走れ~!」
4人はそれを合図に走り出した。それを見て後を追いかける一匹。
4人がなぜこんなことになったのか、それに答えられる者はこの場にはいない。4人は必死になって一匹から逃げた。
「ねえゲン。なんで? なんでボクたちはこんなとこでワニに追いかけられているんだよお!」
「いいから足動かせえ~!」
季節は春。ここにはつくしも桜も、杉花粉すらも存在しない。ただただ原生林が続く中、4人の悲鳴が響いていった。




