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第3章8話 大富豪、フリマの原点へ戻る。〜梱包内職のブラック魔王軍と、転売ヤー御用達『めろにょい』の闇〜

「ピコーン!」「ピコーン!」「ピコーン!」

巨大ショッピングモール『メガしまくら & ハイパーユニクオ』のグランドオープンが大成功を収め、ウハウハの売上金が加算されていく……。そう思っていた俺――蓮(れん)のスマホから、明らかにいつもと違う、鼓膜をぶち破らんばかりの爆速の通知音が鳴り響いた。

画面を開くと、そこにあったのはモールの売上通知ではない。

俺のビジネスの原点であり、すべての資金が動くフリマアプリ『ヘルカリ』の取引画面が、見たこともない通知の嵐で埋め尽くされていたのだ。

『購入されました! 商品の発送をお願いします』

『値引き交渉が届いています:「銅貨3枚になりませんか?」』

『受取評価がされていません! メッセージを送ってください』

「おいちょっと待て、通知がバグってる! 一旦魔王城の拠点(こたつ)に戻るぞ!」

「ぬおっ!? なんだか知らんが、我が輩のスマホも『ピコピコ』と悲鳴を上げているぞ! 戻るぞ!」

モールでの衣服無双を一時中断し、俺たちは慌てて魔王城のヘルカリ運用本部(こたつ)へと引き返した。

理由の一端は、モールが大繁盛したことだった。しまくらやユニクオで現代日本の最先端の服を手に入れた異世界人たちが、今度は「不要になった古い装備」や「前回のガチャのハズレ(サバキング)」を、一斉にヘルカリに出品したり、俺のページから関連商品を買い漁ったりし始めたのだ。

「いいかお前ら! 10万ポイントどころか売上がカンストするぞ! スマホが死ぬ前に全員で発送作業(内職)だ!」

こうして、たった今まで異世界の商業を支配していた魔王軍の面々による、深夜のブラック梱包作業が始まった。

「クハハハ! この『ぷちぷち』という緩衝材、我が確かな魔力をもってすれば一瞬でジャストサイズに切り刻めるわ! ほら、次の段ボールをよこせ!」

漆黒のフリースを着た魔王が、圧倒的な精密魔力でプチプチを裁断していく。

「グルルル……(主よ、ガムテープのプレスは我に任せるのだ。このユニクオの『極暖』、我のドラゴンスケイルより動きやすくて素晴らしいな……)」

伝説の竜王バハムートは、特大サイズのフリースをお腹に巻き、機能性インナーの快適さに感動しながら、巨体(の自重)を活かして段ボールの底をズドン、ズドンとプレス機のように容赦なく圧着していた。

「蓮サマぁ! メッセージカードの封入が終わりましたぁ! このユニクオの『うるとららいとだうん』、すっごく軽くて梱包作業もサクサク進みますぅ!」

「本当ねリリス。私はこの、しまくらで仕入れた裏起毛スウェットが気に入ったわ。ダボッとしたシルエットでリラックスして内職ができるわねぇん!」

ユニクオのタイトなリブニットでボディラインを強調したリリスと、トレンド感のあるカジュアルスウェットをオシャレに着こなしたシルフ。最強の機能美防寒ウェアに身を包んだツインサキュバスが、爆速で納品書とラベルを処理していく。

そして、隣国の第一王女エリザベートが、同じくユニクオのダウンジャケットを着て、自身の変貌ぶりに白目を剥いていた。

「な、何なのですかこれは……! なぜ一国の王女である私が、この『ひーとてっく』とかいう極薄のぬくぬくインナーを着て、シールをペタペタ貼る内職をしているのですか……!?」

「エリザベート、手が止まってるぞ。ほら、そっちの段ボールに『取扱注意(ワレモノ)』のシール貼って」

「は、はいっ……! って、私はあなたの下僕ではありませんわよ! ……でも、このプチプチを潰すの、なんだかクセになりますわね……プチッ、プチッ」

王女までしっかり内職の沼に引きずり込み、なんとか発送の山を捌き切った。

「ふぅ……。ひとまずこれで取引は落ち着いたか……」

こたつでぬくぬくと温まりながら、俺はヘルカリのタイムラインをスクロールした。異世界の連中が何を出品しているか、市場調査のためだ。

だが、その画面に表示された「ある特定のワード」の出品群を見た瞬間、俺の全身に冷たい戦慄が走った。

【商品名:限定聖騎士アクリルスタンド(未開封・当選品)】

【価格:金貨50枚(定価の10倍)】

【商品説明:手元にあります。即購入OK。ノークレームノーリターンで】

画面をスクロールしても、スクロールしても、同じ限定フィギュアや限定魔導カードが、定価の数倍から十倍のボッタクリ価格で埋め尽くされている。

「……おい、なんだこれ。異世界にもう『転売ヤー』が湧いてるのか?」

「む? 蓮、どうしたのだ。その禍々しい画面は」

魔王がこたつから顔を覗き込ませる。

「魔王、これを見ろ。異世界の住人が、Shopsの特定の通販サイトから限定商品を買い占めて、ヘルカリで高額転売してやがる。この手口、この出品の手際の良さ……間違いない。転売ヤー御用達の、あのホビー通販サイト……『めろにょい(メロにょい)』のシステムが、こいつらのせいで異世界と繋がっちまってんだ……!」

『めろにょい』――それは現代日本において、限定フィギュアの抽選販売や予約開始のたびに、転売ヤーのBOT(自動購入プログラム)と一般ユーザーが血みどろのクリック戦争を繰り広げる、物欲と怨嗟の渦巻く暗黒郷(ディストピア)。

どうやら、俺たちがガチャバブルで大儲けしたせいで、異世界の悪徳商人や成金どもが「ネット通販の限定品を買い占めてフリマで売ればボロ儲けできる」という、最悪の錬金術(転売)に気づいてしまったらしい。

「なるほど、定価で仕入れて、飢えたバカどもに高値で売りつけるシノギか。我が輩たち魔王軍よりよほど邪悪な悪魔の所業だな……!」

「ああ。だが、俺のヘルカリのプラットフォームを、そんな行儀の悪い転売ヤーのBOTどもに荒らされてたまるかよ」

俺はスマホを握りしめ、不敵な笑みを浮かべた。10万ポイントを超えた大富豪の財力と、Shopsの全権を持つ俺を敵に回して、転売ビジネスが成り立つと思うなよ。

「魔王、シルフ、リリス、エリザベート。梱包の手を止めるな。次回の作戦が決まった」

「次は何をするのですか、蓮サマ?」

「『めろにょい』の在庫をShopsで無限に買い占め、定価以下で一斉に出品(在庫爆撃)してやる。転売ヤーどもの在庫をただのゴミクズ(不良在庫)に変えて、実家のジャージ姿にデグレードさせてやるよ」

しまくら&ユニクオの最強防寒着を纏い、結束を高めた魔王軍とともに、蓮の次なる標的――異世界の転売バブルを粉砕する「めろにょい争奪戦」の火蓋が、いま静かに切って落とされるのだった。

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