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お姫様がやって来たー後編ー

尚登の家に突然現れた北海道白鳥家のお姫様 白鳥はるな

尚登を追い出したい義祖母は彼にこう告げた。

もし何かしらの無礼があってはるなさんがここから出て行くような事があれば…今度こそ貴方を追放します。

その代わり…もし彼女を…はるなさんを射止める事が出来たらお前を私の孫…木崎家の男子として認めてあげましょう…。

相手は身分違いの殿上人

全てを得るか?失うか?

尚登の綱渡りの日々が始まった。


「お取込み中申し訳ありません…。」


その姿に目を疑ってしまう。


「呼び鈴を鳴らしてもお返事が無かったのですがこちらから声がしたので…」


テレビで見たのとそのまんま…


前は額、後ろは腰で切り揃えられた真っすぐな黒髪


真っすぐな姿勢…穏やかな眼差し…口元の笑み…


そして大きな…おっといけない!


「お初にお目にかかります。私は北海道の武家白鳥家長女…」


ええ…存じ上げておりますとも…さっきテレビに出ていた殿上人…




「白鳥はるなと申します。」




さっきまでお説教モードだった桐子様と僕は並んで下座に正座し、白鳥さんを上座に迎え二人で深々と頭を下げる。


「木崎宗家先代当主の妻、木崎桐子と申します。それで…今日はどの様なご用件で?」


一応この家の主は僕なんだけどなぁ…でも口に出したら怒られるしお姫様にどの様に口を聞いてよいのかとかのお作法も全く分からない。


ここは桐子様が来てくれた事を怪我の功名と有難く利用させていただこう。


こちらからの問いに白鳥さんは真っすぐな面持ちで答える。


「私はこの春から倫道館に通うのですが、これを機に白鳥家を離れ一人の騎士としての生き方を見つけたいと思いました。それで…差し当たって住み込みの家政婦をさせてくれる武家を探しているのですが。」


なるほど…一般人に比べかなり強力な力を持つ騎士はトラブルを警戒され普通の住み込みの仕事は難しい。


逆に一般人への暴力が即極刑に繋がりかねないのでそれを逆手にとって抵抗できない少女騎士に狼藉を働くものもいる。


「なるほど…話は分かりました…ですが…。」


桐子様が言い淀む。


安全を考えれば女の子の騎士は武家で使用人をしながら学校に通うのが適切だ。


適切なのだがその家に年の近い男子がいるのならまた話は変わって来る。


「どうしてまたこの家に?」


僕も桐子様も全く同じ意見だ。


品川中にその名を知られた『木崎家のハズレ養子』とは僕の事。


そんな僕が一人で暮らす家に年頃の…


それも日本中の武家が嫁にと求める白鳥家のお姫様が来るなんてあり得ない。


混乱する僕たちに白鳥さんは答える。


「武家屋敷の中から学校に近い順に当たらせて貰っているのですが…。」


はい?


「ここだと寮の次に学校に近いですし住み込みで働かせて頂けるなら寮費も浮きます。」


確かにその通りなのだけど


考えているようで肝心な部分が抜けているお姫様にたまらず桐子様が口をはさむ。


「そうかも知れませんがここに住んでいるのはこの男子一人…この様な場所に…」


「まあ…そうでしたか?」


驚くような表情の白鳥さん…うんうん…当然の反応だよな…。


ところがである…


「それは大変ですね…一人では何かとご不便でしょう?大丈夫です♪実家には二人手の掛かる弟がいます。男の子一人のお世話くらいどうと言う事はありません。」


たゆん…じゃなくてエヘンと胸を張る…姫様


いえ…そういう事を言っている訳では無いのですが…。


と、口から出そうになってふと考えてしまう…


もしかして…


彼女は度が過ぎた箱入り娘で男女が一つ屋根の下で暮らす意味とか


政略結婚の駒としての自分の価値とか


僕の家に住まう事でそれをどれほど棄損するのかとか


それが白鳥家にどれほどの損害損失となるのかとか


そういう事を全く理解していないのか…?


それともまさか!


その駒としての自分の価値に嫌気が刺して自暴自棄になって


その辺の全てをぶち壊そうと僕の家を選んだとか?


背筋を冷たい物が走る…これは目に見える地雷…いや…ブービートラップだ!


宝物を見つけたと思って拾い上げた瞬間両手両足と頭と胴体と


ついでに命までを奪い去るあれだ…


とにかく…事故や失礼があってからでは遅い。


ここは丁重にお引き取り願わなければ…。


「申し訳…」


僕がお断りの言葉を告げようとしたその瞬間ドスの効いた大きな声がそれを遮った。


「分かりました。そういう事でしたら貴女を使用人としてお迎えします。」


ええっ?桐子様?どうして?


「ありがとうございます。精一杯お勤めさせて頂きますのでよろしくお願いします。」


言い返そうという気持ちは彼女の暖かな微笑みに吹き飛ばされる。


「こちらこそ…よろしくお願いします…。」




「では、こちらの部屋をお使い下さい。」


一応の家主である僕をほっぽらかして桐子様は二階に上がりその一間を彼女にあてがう。


「ありがとうございます。」


白鳥さんは一言告げて部屋の中に入り、襖を閉じる。


ああ流石はお姫様…襖を閉じる音一つとっても…って!


いやいやいやいや


分かりますか?襖ですよ襖…


鍵もかけられない部屋に年頃の女の子を下宿させるとか


令和の時代にあってはならないでしょう?


しかも彼女は大名家にも並ぶ巨大な武家勢力のお姫様だ。


僕はたまらず二階から降りて来た桐子様に抗議する。


「桐子様…一体どういうおつもりですか?」


「どういうとは?」


三段ほど高い所から桐子様は僕をにらみつける。


「あんなお姫様を僕の家でお預かりするなんて都内の!いや日本中の武家からどんな反発が…」


「どんな…って?面白いじゃありませんか?」


面白い?この状況の何処が?…一体何を言ってるんだ?


「日本中の武家が妬み悔しがる…何だかワクワクして来ます♪ねえ?」


理解出来ない…妬ませて悔しがらせて何の得がある?


ワクワクなんてする訳が無い


どうしていいか分からない…


桐子様の表情も何だ?笑み?嘲り?


人の顔に名状し難いなんて形容詞を使っていいのか?


階段下で僕とすれ違いそのまま玄関に降りて雪駄を履き


そして僕の方を見ずに笑うような声で告げる。


「そうだ♪いい事を思いつきましたよ。」


「何でしょうか?」


精一杯口を動かし、肺から空気を絞り出す。


「もし何かしらの無礼があってはるなさんがここから出て行くような事があれば…今度こそ貴方を追放します。」


「ええっ?」


「当然でしょう?木崎家の名前に泥を塗った事になるのですから…今度こそ誰もお前を庇い立てする事は出来ません。」


…何て顔だ…こんな酷い笑顔は見た事が無い。


「その代わり…もし彼女を…はるなさんを射止める事が出来たらお前を私の孫…木崎家の男子として認めてあげましょう…。」


‼………


「流石にはるなさんの婿を無体に扱う事は出来ませんから…進学、就職もそれに見合うよう後押しをします。勿論大学の学費も…いいですね?」




桐子様は上機嫌で去って行った…。




ああ、八幡神よ…


僕は確かにガールフレンドが欲しいと祈りました…


祈りましたがどう考えても彼女は違います。


僕と似た境遇で悩み苦しみを共有し互いを支えとして日々寄り添い過ごせる様な女の子では到底ありません…。


かと言って…彼女を追い出すのも違うと思う…


ここを出て次に彼女が向かう先が僕の家より安全な場所とは限らない。


一般人に手を上げられない騎士の女の子を囲んで乱暴狼藉を働くものは少なくない。


もしかしたらその道中どころか一人で北品川駅からここまで来れたのも奇跡かも知れない…


それに…彼女が出て行ったら今度こそ追放って…。


皮一枚で繋がっていた首が………でも……


でももし…何かの奇跡でも起こって全てがうまく行ったとしたら?


木崎宗家の孫として扱って貰えるなら就職もそれなりの…それこそさっきまで僕が想定していたよりもずっとずっと上の職に就ける。


大学進学……そんな事中学時代には考えた事も無かった……


そうなった時に僕の隣にいるのは?




夢が夢じゃ無くなる……


夢が現実味を帯びた目標になる…


でも…桐子様の話を信じてよいのか?


もしかしたら…日本中の武家が欲しがる白鳥家の血筋に目が眩んだのかも…。


僕は息を吞んだ。


これはチャンス…?それとも…罠?


罠でもいい…


未来も…義父さんの家も…


これを掴めばすべてが手に入る…いや……


掴まなきゃ人生は変えられないんだ!

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