お姫様がやって来たー前編ー
十五年前
焼け落ちた集落から救出された少年 尚登
彼は剣聖木崎裕一郎の養子として、また北品川の屋敷を預かる木崎家の男子として
怪異の徘徊する東京で騎士として育てられて来た。
そんな彼の下に北海道からお姫様がやって来た。
「遅かったか……」
やっとの思いで目的の集落を探し当てた私を迎えたのは
夜の闇を煌々と照らしその全てを焼き尽くす大火災だった。
『神剣との契約が失われたらここへ戻って来い。』
平安時代の書簡を頼りに野山を探り歩く事数か月…
どうやら希望は失われてしまったようだ。
「もはやこれまでか……。」
あと一日…一日早ければ……この先どうすればいいのか…?
「もし…もし…」
人の声?何処かにまだ生き残りが?
かすかな声を頼りに近くの川縁に向かう。
すると橋の下に男が倒れているのを見つける事が出来た。
「しっかりしなさい!」
一応声はかけて見るがもう長く無いのは一目瞭然…
「すまない…私がもっと早く辿り着いていれば…。」
ああ、悔やまれる…これでもう…打つ手は尽きたのだ…。
ところが男は穏やかな表情を浮かべる。
「いえ…ようこそ辿り着いてくれました…ありがとうございます…。」
「何を…礼など…。」
「貴方のお陰で…この隠れ里の務めは果たされました。」
言いながら男は大事に抱えていた布の塊を私に委ねる。
「この子を…どうか……。」
その中に包まれていたのは一人の男の子と一振りの直刀…。
「この子か?この子がそうなのだな?」
私の問に男は満足そうに頷くとそのまま息を引き取った。
まだ聞かねばならぬ事はあったのだがそれでも希望は繋がった。
早くこの子と剣を安全な所まで…
「それを渡して貰おう。」
ああもう…全く…どうしてこう…思う様に行かないのか…。
見回すと10人を超える人影に取り囲まれている…。
いや、正しく人と呼んで差し支えないのは見慣れない青い衣を纏った一人だけで
後は黒く波打つ人の形をした影の様な物…
人の姿をして人の言葉を話すなら交渉の余地などあったりしないだろうか?
「向こう側の者か?村を焼いたのは貴様か?」
私の問いに青衣は侮蔑交じりの声で答える。
「だとしたらどうだと言うのだ?お前が知る必要は無い事だ。」
ああ、そうか…問答無用と言う訳だな。
私は子供を抱えたまま自分の腰の物に手を伸ばしそれを鞘から解放する。
「‼‼」
抜刀と同時に剣は白く光り輝き、その斬撃は夜の闇ごと敵の何体かをすり潰した。
「貴様!神剣使いか?」
驚き叫ぶ青衣に返答してやる。
「だとしたらどうだと言うのだ?お前が知る必要は無い事だ♪」
「ふざけるな!」
声を荒げながら青衣は剣を抜きこちらに向け構える。
「お相手願おうか?こちらとしても神剣使いは一人でも減らしておきたいのでな。」
やれやれ…こっちはそれどころじゃ無いってのに…。
「相手してくれなくて構わんぞ。こっちは用が済んだから早く帰りたいんだ。」
いつもならあの村の仇に青衣の首の一つくらい獲ってやるのだが
子供を抱えたままでは分が悪い。
青衣は何かに気づいたように私の顔を指さした。
「その顔の傷…噂に聞いた事があるぞ!貴様…。」
「ハハ、名乗る程の者ではないよ。」
「当代最強の神剣使い!剣聖…木崎裕一郎か!」
「貴様らに名乗る名前は無いと言ってるんだ。じゃあな!」
先ほどの斬撃でこしらえた突破口から一目散
しかし敵もタダでは帰してくれないようで後方にまだ気配がある。
?…‼‼
行く手に轟音とともに爆炎が上がる。あの影の様な連中は炎を操るのか?
私一人なら突破は簡単だが赤子を抱えていてはそうも行かない。
爆炎をかわし続ければ前進する速度も落ち、青衣に追い付かれる。
「それを渡せ!」
脇に抱えていた布の塊を青衣に掴まれもみ合いになる。
「‼」
塊は分解し、布と子供と剣が放り出された。
「‼」
私は咄嗟に子供を掴み、青衣は剣を奪う。
「やれ!」
青衣の命令で影どもがこちらに向けて爆炎を放とうとした次の瞬間。
!!!!!!!!!!!!!!!!
頭上に轟音が響くとともにヘリコプターが現れ左右のサイドドアから重機関銃を掃射する。
さしもの怪物も不意を突かれた所に超音速の機銃弾の雨を食らっては一たまりも無いようで影はその場に釘 付けにされた。
迎えが来たか…。
その隙に私は子供を抱えたまま着陸脚を足掛かりにヘリコプターに転がり込む。
そしてそのままヘリは急上昇し、一気に戦線を離脱した。
腕の中できょとんとしている子供に私は話しかける。
「すまん…お前の剣は私が必ず取り戻してやるからな…」
十五年後………
「すまん…お前の剣は私が必ず取り返してやるからな…。」
義父さん…?
「とりあえずこの子を育ててやらねばならないな…そうすると…」
これ…
「風来坊を続ける訳にいかんし…とりあえず家が必要だ…」
僕が…
「北品川の大叔父がボロ屋敷を手放したがっておったからそれを買おう。よかったなぁ…ちと古いが豪邸だぞ♪」
言いながら義父さんは僕の頭を撫でてくれる。
「後は…母親か……仕方ない…雪子に頼むか……。」
夢……か?
カーテン越しに四月の朝日が僕の目をくすぐっている…。
……………………ああ、もう…眩しいな……くそ…。
のそのそと体を起こし、部屋着に着替え布団を畳む。
朝飯…食わなきゃ…
急な階段を降りて台所を通り、居間にあるテレビを点けた。
二千二十六年四月一日 午前八時ちょうど
「昨夜未明、札幌市南区に出現したヨウキは、真駒内駐屯地所属の陸上自衛隊、国立騎士団北海道方面軍、そして白鳥家によって撃退されました」
点けたばかりのテレビは一昨日の未明に発生した北海道のヨウキ災害の顛末を報じている。
ヨウキ…多種多様な形態をとりながらこの世界の何処にもその進化の痕跡を見出す事が出来ず異世界からの侵入口を通ってのみ現れる生命体…
この世界は有史以前からヨウキの脅威にさらされて来た。
そしてそれらに対抗すべく現生人類の祖先から進化したのが
僕たち騎士…
運動能力と肉体強度に勝る生まれながらの純粋な戦闘員である。
「はい!緊張しましたが先輩方のご指導の下、無事初陣を飾る事が出来ました…。」
ああ、眩しい…そして羨ましい…
テレビの画面に映るのは開拓時代から北海道を拠点とする武家、白鳥家のお姫様
どうやら初陣の挨拶みたいだ。
画面に映る切り揃えられた黒髪…穏やかな眼差し…口元には笑みを絶やさず
まだ幼さが抜け切らないと言うか…
可愛いと美しいを全身に同居させていると言うか…
取材への受け答えもはきはきと自信に満ちて…
おまけに多分……いや……絶対に…
剣を持って戦えば僕より強いはずだ。
ああ…ため息が出そうだが姫様を羨んでも仕方ない…。
そもそも生まれが違う
なまじ胴体から手足頭が生えて二本足で歩いているから同じ生き物と勘違いしてしまうが
あれは別の生き物…
義父さんの話だと僕は山奥の粗末な橋の下で拾われて来た素性の知れない捨て子。
あっちは天の上で見目麗しく光り輝きながら僕たちに『人のために死ね』と命じる存在…
ぶっちゃけ可愛いだけで死神や疫病神と大差無い。
さて、朝ごはんにしよう。
「いただきます。」
暗い台所の長方形のテーブルには三つの椅子が収まっている。
その内の二つに座る人が居なくなってもう三年…
僕こと木崎尚登は家に一つの小さなテレビをチラ見しながら朝食を摂る。
メニューはご飯に生卵、パックの納豆とインスタントの味噌汁…
さっきの彼女はもっと良い物を食べているんだろうな…。
噌汁もインスタントじゃなくて…焼き魚の一切れとか…ほうれん草のお浸しとか…
うちも三年前…義父さんと義母さんが居た頃はもう少しまともな食事だったような…。
そう言えばさっきの白鳥家のお姫様…高校入試の会場で見かけたっけ…
テレビで見ても美人だけど本物はもっと綺麗だったな…
まあ、同じ高校に通うとしても…
多分その後の大学の学費が捻出出来ない…。
親戚に面倒見て貰うのも難しい…
せっかく名門の倫道館に入れたのに高卒就職……。
一方あのお姫様は僕が足踏みしている間に武功と学歴を積み上げ上級職に就く…
同じ空間を共有しても住む世界が違うんだ。
ため息をついて代わり映えのしない部屋を見回す。
今年になって変わったのはカレンダーだけだ。
「入学式まであと一週間か…。」
受験にかまけて最低限の掃除しかしていなかった部屋を片付けて余裕があったら模様替えでも…。
お茶を飲み干し重い腰を上げた。
少しでも明るく前向きに考えよう。
ああ!八幡神よ!
お陰様で今日も僕の首は繋がっています。
後は……出来ればもうちょっとだけ日々を豊かに
それと…可愛いガールフレンドが欲しいです…
さっきのお姫様は問題外ですが…
何処かに可愛くて僕と似た境遇で悩み苦しみを共有し互いを支えとして日々寄り添い過ごせる様な…
ピンポーン
?…誰だろう?こんな時間に?
「はーい」
玄関に向かい扉を開ける。
「遅い!何をしている!それで木崎家の武人を名乗るつもりですか!」
うわぁ…いきなりこれか…
ああ…八幡神よ…それとも八幡大菩薩?
僕には可愛いガールフレンドを欲しいと思う資格さえ無いのでしょうか?
誰が…よりによってこんな背骨の曲がったシワシワを寄越せと言いましたか?
もしかして身の程知らずな願望を抱いた神罰か仏罰ですか?
そこに立っていたのは僕の義祖母様にして木崎家現当主の生母…木崎桐子様だった。
僕は彼女を床の間に通し上座に座らせ、お茶を出す。
そして正座して畳に額をこすり付ける。
桐子様は縁側から手入れが行き届かず荒れた庭を眺めながら呆れと怒りが混じった様な表情を浮かべていた。
窓の淵に指を這わせるまでもなく屋敷の管理が出来ていないのが分かるのだろう。
そして一言…
「まずは高校合格おめでとうございます。」
穏やかな声だが油断はできないと僕はさらに強く畳に額を押し当てる。
「ありがとうございます。」
とりあえず目を見ちゃダメだ…目と目が合っただけで彼女は食って掛かって来る。
桐子様は普段から僕の事を目の敵にしている。
季節の挨拶に行かねば烈火のごとく怒るくせに行ったら行ったで…
この前のお彼岸の墓参りの時は「お前の顔を見たら血圧が上がる」と叫び
僕の事を杖で殴りながら追い返したのだ。
それにしても桐子様…一体今日は何をしに来た?
「それにしてもその遺伝病持ちの身でよくもまあ倫道館に合格出来ましたね…。」
「‼」
「落ちてくれれば今度こそこの北品川の館からお前を追い出す事が出来たのに…。」
その言葉に思わず頭を上げるとそこには見慣れた顔がいやらしく歪んでいる。
怒りと嘲りが混ざったような…人間ってこんな顔が出来るのか?
「‼愚か者‼誰が顔を上げてよいと言った‼」
「申し訳ありません!」
再び額を畳に押し付ける。
「まあ、どう足掻いても病気持ちはこれが限界でしょう。今後学費支援は無い物と思いなさい。」
「そんな‼」
「黙れこの寄生虫が‼この上さらに木崎家に負担をかけるつもりか‼」
寄生虫……
「全くもって図々しい…義父も義母も消えてしまったのに養子のお前が何時までこの木崎家の屋敷に居座るつもりですか?」
居座るなんて人聞きの悪い…
「お言葉ですが…」
たまらず僕は口を開いた。
「義父は役職上木崎を名乗っていましたが10年以上前に木崎家を離れています…それにこの家は木崎家の所有物でした義父が木崎家を離れた後にちゃんと前の持ち主から購入した物です。」
今は一応の相続人である僕が住む事に全く問題は無い。
この春から騎士として立つ限り武家の相続の特例が適応され僕がここから出て行く理由は…。
「黙りなさい!」
やっぱりダメか…義叔父さんから桐子様が来たらこう言いなさいと言われてたけど理屈の通じる人ではない。
桐子様はまだ上層に顔が利くのでこれ以上機嫌を損ねれば真っ当な職に就く事は絶望的だ。
最悪一生日雇いの力仕事を転々と…事故や病気で体が動かなくなったら詰む。
僕たちは騎士団に就職出来なければ一般人のように職を選べる訳じゃないんだ。
だいたい名門校への進学を一族に置く条件にして置きながら入学したら入学したで
『学費支援無し』
…一体僕にどうしろと言うんだ?
いっそここを出てしまった方が…。
屋敷を処分して何処か誰も知らない土地でやり直す…
いや…それは出来ない。
義父さんは公的に戦死扱いだけどまだ遺体は見つかっていない。
剣聖とまで呼ばれたあの人が死ぬ訳が無いんだ!
それにもう一人…。
とにかく正当な継承者が戻るまで僕はここから離れる訳に行かない。
だから常に倹約を心掛けなるべく遺産を使わぬように…
ピンポーン
「?」
また来客?集金も宅配便が届く予定も無いんだけど…?
「誰がよそ見をしていいと言いましたか?」
桐子様が身を乗り出して僕の頭をぴしゃりと叩く。
気を散らしたのが気に入らなかったのか声がさらに荒くなる。
「ああ嘆かわしい…やっぱり病気持ちは性根まで歪んでいるのですねぇ…」
「あの~」
「「?」」
縁側から呼びかける声に僕と桐子様が振り向く、
「おはようございます。」
後光の様に朝九時の陽射しを背負いながら…そこに立っていたのは…
「お取込み中申し訳ありません…。」
その姿に目を疑ってしまう。
「呼び鈴を鳴らしてもお返事が無かったのですがこちらから声がしたので…」
テレビで見たのとそのまんま…
前は額、後ろは腰で切り揃えられた真っすぐな黒髪
真っすぐな姿勢…穏やかな眼差し…口元の笑み…
そして大きな…おっといけない!
「お初にお目にかかります。私は北海道の武家白鳥家長女…」
ええ…存じ上げておりますとも…さっきテレビに出ていた殿上人…
「白鳥はるなと申します。」
同じプロット 同じプロローグから思いついた二つの話の片方です
過去作をcopilotに分析させ(読んだ人なら知ってると思いますが)特に『設定語りが多い』『展開が遅い』『キャッチーさが無い』と診断されましたので。
設定をスリムに削り設定語りを減らし展開を早めたのがこれになります。ただこれもキャッチーさに欠けている




