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異世界では賢者になりたい。なお、脳筋です。  作者: 乙黒


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第31話 エピローグ

 テレサ様からバラの生えた花壇の横にあるカフェに、朝から僕は呼び出されていた。全てが終わった次の日のことだった。今朝のまだ日が登っていない頃に、見たこともないメイドがテレサ様からの命令を言いに来たのである。


 だから僕は周りの同級生たちに注目されながらも、テレサ様と同じテーブルに席についている。

 他のテーブルに座るものは誰一人としていない。



 犯人でなくなったテレサ様の侯爵令嬢としての威光は絶対的なものなのだ。特に女子たちの中では最も地位が高いので、もはや彼女に逆らう者など学園ではもはや殆どいなかった。


「事件は解決しましたわ。あの場でダリアさんに魔法を放ったのは、私の侍女であるマリアでした。それだけではなく、マリアは魔族で人類の不倶戴天の敵でしたわ」


「それは驚きだね」


 僕は間抜けに目を見開いているフリをしながら、紅茶のカップへと手を伸ばした。ついでにマスタードの効いたたまごサンドにも手を伸ばす。


 まあ、驚いたのは本心だけどね。


「残念ながらあなたの調査はこれで終わりですわ。私の容疑は晴れましたから」


「よかったね」


「ええ。でも、まだまだ王家は調査は続けるようですわ。当然ですね。私の侍女に魔族が紛れ込んでいたのですから。おかげで……リオン様との婚約も一旦白紙に戻りましたわ」


「そうなんだ」


 それからテレサ様は今回の事件の顛末を教えてくれた。


 結果は、リオン様との痛み分けらしい。


 決して誰にも責任はないが、今回の事件を通して誰もが代償を払うこととなったようだ。


 まずテレサ様はリオン様との婚約の解消。それに伴って、時期王太子妃の座は無く成った。今後再度王太子妃になる可能性もあるが、今のところはどうなるか分からない、とのこと。


 理由としては、魔族と長い間一緒にいたことが理由のようだ。もしかしたら魔族による洗脳を受けているかもしれない、と王宮側が危惧しているようだ。


わたくしは自分自身に影響がないと確信していますが、外からの見方は違います。この疑いが晴れるまでは、王太子妃候補に戻ることはないでしょう」


 テレサ様は淡々と語った。

 本人はこの結果に満足しているらしい。その理由についても教えてくれた。


「まずは今回の婚約破棄、並びに侍女の選定による失敗は王家の失態ですわ。多くの賠償金とさらなる領地、わたくしの信用回復、更には父の地位まで向上しました。せめてものお詫びでしょう。わたくしを断罪しようとしたのが王太子で、マリアをわたくしの女中にしたのも王家なのですから」


 要するに今回の件に関しては全てテレサ様が被害者ということになったらしい。それによって不利を被るのはおかしいとして、王家が彼女を全力で守っているようだ。時期王太子妃としての地位は失ったが、似たような王家の後ろ盾が出来たことにテレサ様は満足しているようだ。


「他の人はどうなったの?」


「リオン様は廃嫡とは行きませんが、王位継承者第一位の座からは一旦退きました。そのまま第二位に落ちたのですが、第一位は現状では王弟になったのです」


 どうやら魔族の策にまんまと引っかかったということで、リオン様の地位も少し落ちたようだ。


 今回の事件の発端はテレサ様の侍女を魔族にした王家の失態だが、魔族の企みに気付かなかったことは国王の資質として不適応らしい。


 だが、王家にも問題があるため、廃嫡ではなく様子見、ということになったようだ。さらに魔族からの洗脳を受けやすい魔力の低いダリアを次の后候補として画策していたのも、次期国王の資質としては不適応、との判断がなされたみたいだね。


「へえ」


「カイン様は中立の立場でしたので、魔族を見破れなかった今回の失態については不問ということですが、少しその影響力は落ちました。魔族を見破ったのも、その後の対処をしたのも別の人ですからね」


「その人はどんな人なの?」


 僕は目を輝かせて期待するように言った。


「賢者を名乗る不届き者……ですが、その優れた魔法と優れた観察眼によって私たちを守ってくれた恩人ですわね。もう一度会うことがあれば、是非お礼を言いたいですわ。見つからなかったようですが」


 どうやらあの後、学園の教師や外部の力も借りて逃げた魔族についても、それを追った賢者についても調査を行ったらしいが、何一つ痕跡は見つからなかったようだ。


 ただし、あの後すぐにここから少し場所で異変があったらしい。その大地が溶けていると。それが魔族と自称賢者が争った後なのではないか、と上は考えているらしいけど、魔力の痕跡すらも全て消え去っていて判断がつかないみたい。


 わー、凄いね。


「そう言えばダリア様は?」


「彼女だけが唯一不問ですわね。当然ですわね。最初から彼女は被害者ですし、そもそも……リオン様とも、一緒になる気はなかったようですから」


 テレサ様は遠い目で言った。少し哀愁が漂っているようにも思ってしまった。


 どうやら魔族と自称賢者が去った後にリオン様はその場でダリア様に告白したけど断られたようだ。ダリア様曰く「私には荷が重たいです」と言われたらしい。その場でリオン様は崩れ落ちたのを見て、少しはテレサ様もスッキリした、と言っていた。


「これで話は終わり?」


 この場にいるのは胃に穴が開きそうなので、僕は一刻も早くこの場から抜け出したかった。


「いいえ。最後にお礼を、と思いまして」


「お礼?」


 僕は少しドキッとしながら、首を捻った。


 僕が“件の賢者”だとはバレていないはずだ、と確信している。装いはかっこよくて顔は見られなかった筈で、未だに僕を賢者だと言ってくる人は誰もいない。


 あの場にいて、最も付き合いの長いマイカが何も言ってこないのだ。まだ知り合って一ヶ月と立っていないテレサ様たちに気付かれる要素など一つもなかった。


「あなただけがわたくしのことを信じてくれましたわ。そのことにお礼を言おうと思いまして。本当に――ありがとうございました」


「……それは僕じゃなくて、賢者に言ったほうがいいと思うけど? 結局僕は何もしていないからね」


「ええ、そうですわね。でも、あなたのおかげでわたくしは希望が持てましたの。本当に感謝していますわ」


 ダリア様は、満開の花のようにそう言った。


 ――余談だけど、朝の授業の時にマイカから昨日の事件について、詳しい話を聞くことが出来た。


「あの賢者と名乗る人に助けられたんだよ! 凄く魔法が強かった人だったな!」


「なるほど!」


 僕はうんうん、と得意げに効いていた。

 そうなのだ。

 賢者として魔法を凄く鍛えたので、それが評価されるのはとても嬉しい。これまで知的キャラになりたくてたくさん頑張った甲斐があるものだ、と誇らしい気持ちになった。


「でも、ちょっと服装がおかしかったかな? なんだかあまりかっこよくない感じがしたんだよね!」


「は?」


 僕は間抜けに口を開けてしまった。


 これだから最先端の現代の芸術の良さが分からない異世界人のような人たちは困るのだ! 

僕が手間暇込めて作ったローブのどこがダサいんだろうか。


背中には大きな魔法陣風の模様を書いて、ベルトもいっぱい付けたんだ。とてもかっこよくて知的な出来だと言うのに、と僕はマイカを鼻で笑いそうになった。あ、そうそう。とてもかっこいいから背中の魔法陣の外にはダガーも書いたよ。僕にとって渾身の出来である。


「あの魔法陣って授業で習った形と違うから魔法として機能しないんだよね! 賢者と名乗っていたから知っていると思うけど、あの模様に何の意味があるのかな?」


「でも、素敵じゃなかった?」


「ううん、全然! あれなら無地のローブのほうがいいよ! やっぱりもう一度考えてもダサい! 馬鹿っぽい!」


 僕は雷に打たれたような衝撃を受けた。

 その一撃は、頭上に迫りくるマリアンヌの氷の一撃よりも重たかった。


一旦完結しますが、要望が多数ございましたら新章を書きたいと思います!

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