62:まさにSSランク
私が黒い森にいることは分かった。
だがなぜアンジェラが私をさらったのか、なぜ黒い森なのか、ウィルもウィンスレット辺境伯も理由が分からない。
アンジェラは、魔力が強い男性に興味を示すが、魔力が弱い女性に関わったという記録は……調べた限り、見つからない。しかも殺さずに連れ去り、黒い森へ向かった。これには何か意味がある。ウィルはそう思ったが……。
クリスに喰わすためにさらったとは、さすがのウィルも思いつかない。そしてこの時、アンジェラがどこにいるのか、判明していなかった。私のそばにいるのか、それとも離れた場所にいるのか。
もし私のそばにいたら……。
大挙して黒い森に向かい、それに気づいたアンジェラが、さらった私に何かする可能性もある。
だから慎重に動くことにした。
そこでウィルとウィンスレット辺境伯がとった作戦、それは……。
変身魔法で別人になり、あたかも守護霊獣を捨てにきた貴族のフリをして、黒い森に近づくことだった。
とりあえずの様子見のためだ。
フリだが実際に守護霊獣を黒い森に向けて放つウィルは、流石だと思う。
しかも放った守護霊獣は、とんでもない一級品。
本来、黒い森に放つようなものではない。
そう、あの国王陛下の守護霊獣であるハヤブサだ。
国王陛下の守護霊獣というのは、通常の守護霊獣とは違う価値を持つ。
まず、見た目は本当に普通の守護霊獣であるが、ただの霊獣ではない。
実体は聖獣に準ずるもの。
つまり四聖獣に限りなく近く、攻撃・防御・体力共にSSランクという感じだ。
だからこそ、魔力がほぼないに等しい私に魔力干渉し、聖獣召喚の兆しまで、つなげることができたのだ。仮にあの時、ウィルが四聖獣の召喚をしていたら……召喚成功の確率は五分五分。でもハヤブサによる魔術干渉があれば、100%間違いなく、召喚できていただろう。
それぐらい、国王陛下の守護霊獣であるハヤブサは、すごかった。
しかもハヤブサなので、とにかく飛ぶのも速い。
ただの守護霊獣が、3日かかるところを、即日で到達できる。
だからすみやかな国王陛下の返答が欲しい事項がある時、ハヤブサが返事代わりで飛ばされることがある。電話もあるが、まだ全土に普及しているわけではないからだ。そしてハヤブサが来た、すなわち国王のお墨付きが出たと判断される。
今回、ウィルは隣国、ギリス王国の魔女――アンジェラを相手にすることになる。
一応他国の魔女相手なので、捕らえるにも、抹殺するにも、国としての判断が求められる。その判断をすべてウィルに一任するということで、国王陛下は、ウィルの元にハヤブサを送り込んでいた。これだけでも国王陛下が、第三王子であるウィルを、どれだけ信頼しているかが分かる。
というのも現在の王族の中で、魔力がダントツで、圧倒的に強いのがウィルだ。さらに王都に大魔法使いはいるのだが、とても高齢で、王都から動けない状態。そして次期大魔法使いは、行方不明。
よってもしギリス王国の魔女を相手にするなら、今のメリア魔法国では、ウィルしかいなかった。さらにそのウィルのそばには、筆頭魔法騎士のジェラルドがいる。この国ではウィルの次に強い魔力を持ち、かつ武術においては随一の人間がジェラルド。この二人が現場にいるのだ。国王陛下がハヤブサを送る理由も納得である。
ただ、私は疑問でいっぱいだった。
魔女にさらわれたのが、王族である第三王子のウィルだったら、国として魔女と戦うのも当然だろう。でも私はただの伯爵家の令嬢。その私のために、そこまでするのかと思ったのだが……。
これについて父親は、こう説明してくれた。
「ウィリアム第三王子は、国王陛下に、ニーナが次期大魔法使いの婚約者の可能性が高いと報告したそうだ。さらに次期大魔法使いを見つける鍵は、ニーナにあるし、もしここでニーナを見殺しにするようなことがあれば……。大変なことになると、付け加えた。もし次期大魔法使いを発見しても、ニーナが失われていれば、彼はショックを受け、この国を見捨てるだろうと説得したそうだ」
もうこれには本当に、ウィルに感謝しかない。
さらにウィルの進言に従い、ハヤブサを向かわせることに同意してくれた国王陛下にも、心から感謝しなければならない。
しかし。
まさか、ハヤブサを黒い森に放つとは……。
もしハヤブサに万一があったら、ウィルはどうするつもりだったのだろうか?
いや聖獣に準ずるハヤブサに、何かあることはない……という判断だったのだろう。
そのハヤブサを森に送り込み、ウィルは何をしようとしていたのか。
それは……。
本日もお読みいただき、ありがとうございます!
次回は「安易には踏み込めない」を公開します。
そして明日小さなサプライズ更新ありです。
それでは引き続きよろしくお願いいたします!!