63:安易には踏み込めない
ハヤブサを送り込み、もし私を発見し、生きていたらこの合図。
魔女が私のそばにいたらこの合図、というように、いくつかの合図を、ウィルはハヤブサに教えていた。
するとハヤブサは驚きの合図を送ってきた。
私は生きている。魔女はそばにいない。クリスもいる。
ウィルは二つの意味で驚く。
まず、クリス、すなわち行方不明の次期大魔法使いが発見されたことに。
待ち伏せのようにネモフィラの花畑に魔女はいた。
もしかすると、クリスと何か関連があるかもしれない。
でもこの「もしかすると」は、限りなく低い可能性で考えていた。
だから「クリスもいる」という合図をハヤブサが送ってくるとは、思ってもみなかったのだ。
なにせウィルは、クリスが王宮奥深くに拘束されているかもしれないと推測していたからだ。行方不明とされている、ギリス王国の『奇跡の子』の代わりとして。
まさか黒い森にいるとは……ウィルは驚愕した。
次の驚きは、次期大魔法使いであり、『奇跡の子』であるクリスがそこにいるのに、一切動いていないことだ。動いていない、というより、動けない状況にあると理解した。
そうなると、黒い森には安易には踏み込めない。
あのクリスが身動きの取れない状態に追い込まれているなら、ただの騎士が踏み込めば、無駄死になりかねない。強力な魔法騎士を集め、精鋭部隊を組む。そして魔女にバレないよう、森に入る必要があると考えた。
すぐに王都へ精鋭の魔法騎士を派遣するよう、要請した。ウィンスレット辺境伯にも、こうなると事情を打ち明けるしかない。ウィルはクリスのことを話し、ウィンスレット辺境伯にも、強力な魔力を持つ魔法騎士を、揃えるよう依頼した。
私の父親も、ノヴァ家に仕える魔法騎士を連れ、ブルンデルクへ向かっていた。
こうしてこの日の夜半には、クリスと私を救うための部隊が集結した。
相手はクリスを制圧した魔女。
ゆえに急く気持ちはあるが、その日の夜は体を休め、翌朝作戦会議を行った。
結果、午後には三つの部隊に分かれ、黒い森に入ることが決定した。
そして実際、現地に向かったのだが。
不思議な出来事が起きた。
空に不思議な兆しが何度も現れた。
東の空に、何度も雨雲が現れ、時に雷鳴が鳴り、消える。
西の空には、竜巻のようなものが現れ、すぐに消える。
南の空では、火球のようなものが何度も目撃された。
北の空で、季節はずれの雪がちらついた。
何かが起きている。
だがこの変化を吉と捉えるべきか、凶と捉えるべきかが、分からない。
四聖獣が召喚されたのは、400年近く前のこと。
聖獣が召喚される際の兆しがどんなものであるか、ウィルは当然見たことがない。
それに四聖獣の召喚に必要とされるクリスタルが失われていることを、王族であるウィルは知っていた。そしてそのクリスタルは、未だ発見されていない。ゆえに空で見られる不思議な兆しが、四聖獣の召喚の兆しだと気づくのは、さすがに無理だった。
吉凶の判断がつかないまま、時間だけが無為に流れる。
ウィルは何度も、黒い森に踏み込もうとし、それを断念する。
自分は魔力が強いが、それはクリスには及ばない。
そのクリスが負けた。
実際に戦ったウィル自身も、その強さは実感している。
ギリス王国の魔女は、只者ではない。
焦ってはいけない。
焦れば負ける。
ウィルは根競べと、腹を括った。
こうして時が流れる。
日没が近づいた。
夜の森へ入るわけにはいかない。
ウィルは万が一を考え、撤退を決意する。
撤退の連絡が三つの部隊に行き渡り、移動を開始した時だった。
突然、とんでもない魔力の気配を察知した。
黒い森を囲むように、壮大なスケールの防御魔法が展開されていく。
最初は、魔女に気づかれたと思い、皆焦ったという。
だがすぐにウィルは、それがクリスの魔力で展開された防御魔法であると気付く。
さらにその場にいた全員が、奇跡を目の辺りにする。
そう、東西南北に現れた四聖獣を目にしたのだ。
すぐに伝令が走り、次期大魔法使いが動いたと知らされた。
三つの部隊は集結し、様子を見守ることになる。
これだけの防御魔法が展開され、四聖獣が現れたということは……。
間違いなく、次期大魔法使いは、魔女を迎え撃つつもりだと。
この後、もう1話、公開します!
準備出来次第、公開します。11時半までに公開します!
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