40:切ない声に涙が出そうになる
「わあ」
馬ぐらいの大きさだから、やはり高さを感じる。
銀狼が、てくてくとゆっくり歩き出す。
落ちないように首の辺りの毛を自分の手に巻き付けるようにし、さらに太股の力でその体をぐっと挟む。
その様子を銀狼は確認すると、突然、岩壁の突き出た石にジャンプした。
「!!」
ゴツゴツした岩壁の飛び出た部分に、次々と器用にジャンプして乗り移っていくと……。
あっという間に縦穴から出ることができた。
周囲には沢山の木々があるが、銀狼はその木々の中の、道なき道を進んでいく。そのスピードは想像以上に速く、私は降り落とされないよう、背中にしがみつくので必死だ。
黒い森と言われ、月明りもない夜だが……。
空は満点の星空で、その光が弱くだが、ここにも届いている。
どこに向かっているのだろう?
まさか、逃げるつもり……?
尋ねたいが、スピードは緩まず、声を出すのは無理だ。
そのままどれぐらい走ったのだろう?
不意に木々が切れ、舗装された道が見えた。
銀狼の走る速度も落ちている。
心臓がドキドキし始めた。
ここから屋敷まで、どれぐらいで帰られるだろうか……?
あと数歩で道に出られるという場所で、銀狼が完全に停止した。
「くぅん」
私の方を振り返る。
「降りた方がいい?」
銀狼は頷き、その場で姿勢を低くしてくれる。
私はその体からゆっくり降りた。
すると、銀狼は首を動かし、道の方へと促す。
「その道の方へ行け、ということね?」
銀狼は頷く。
私は歩き出し、「ねえ」と声をかけたが、横にいると思った銀狼がいない。驚いて振り返ると、銀狼はその場に座り、動かない。
「え、どうしたの?」
私が戻ろうとすると、しきりに顔を動かし、まるで追い払うような動作をしている。
まさか……。
銀狼はこの森から出られないの?
心臓が苦しい鼓動を響かせている。
あのオリエンタル美女は、一体クリスにどんな魔法をかけたのだ?
本当に、あの縦穴に、こんな姿に変えたクリスを一生閉じ込めるつもりなの?
……許せない。
オリエンタル美女に対し、許せないという気持ちがわき上がった。
絶対に、クリスを助け出す。
でも私の魔力では無理だ。
ウィルやジェラルド、ウィンスレット辺境伯に頼んで、必ず、クリスをこの黒い森から連れ出す。
そう心に誓った。
だから私を追い払おうとする動作を無視し、銀狼の元に戻った。
低い唸り声を出すのを聞かなかったことにして、その体を抱きしめた。
「必ず、あなたを救いだすから。一人になんかしない。見つけたのだから。絶対に助ける」
「きゅうん」
その切ない声に涙が出そうになる。
3年間。
それ以前の再会を願った6年間。
通算で9年間、クリスは私に会える日を待っていた。
そしてこんな形だが、再会できた。
でも私を逃がすため、再びここで別れることになる。
その胸の内を思うと、自然と涙がこぼれていた。
クリスのことは顔も分からない。
どんな人かは断片的な情報でしか知らない。
ようやく会えたら、銀狼という姿だった。
それでも、ほんの短い時間一緒にいただけでも。
優しさが感じられた。
「くぅん」
なぐさめるように触れる鼻先がくすぐったく、笑顔になれた。
「ちゃんと迎えに来るから、待っていて」
「うわん」
返事をするかのような鳴き声に励まされ、私は今度こそ銀狼から離れた。
本日もお読みいただき、ありがとうございます!
せっかく出会えたクリスとニーナ。
でも再び別れが……(T-T*)
次回は「なんで!?」を公開します。
明日もよろしくお願いいたします。
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