24:こんな話をするのは……とても恥ずかしい
「いずれにせよ、彼は約束を果たすためにここへ来た。そしてその約束は……果たせたのか、果たせなかったのか。ともかくそれを最後に彼は王都に戻らなかった。彼は自由人だったが、約束は守るタイプだ。よって約束が果たされていれば……王都へ戻るはず。戻らないのは約束が果たせていないか、戻りたくても戻れない状況にあるか。いずれかだと思っている」
「その約束が私との約束で、果たせていないなら……。それを果たすために、私に接触しますよね? 記憶を消されている……かもしれませんが、少なくともこの3年の間に、彼と思われる人物に会った記憶はないです。それに彼は『奇跡の子』であり、魔力は規格外の強さのはずですよね。戻りたいのに戻れない状況にある……なんてことがあるのでしょうか?」
「そうだね。ニーナの言いたいことはよく分かる」
そう言うと、ウィルは伸びをした。
「僕としては君に辿り着けただけでも、今は大きな収穫だ。君からすると、謎だらけで納得できないかもしれないけどね。ところでニーナ、彼と会ったと思われるネモフィラの花畑の場所が分かったのだろう? そこに案内してもらいたい」
!! これは聞かれると思っていたが、実際に尋ねられると……。
どう答えたものか。
「ニーナ……?」
こんな話をするのは……とても恥ずかしい。
でも話さないと先に進めない。
意を決し、アンソニーの交換条件について話した。
「……本当にそんな交換条件を? それは……うーん、アンソニーらしくないな。でも……彼にとってはニーナが初恋なのだろう。そしてどうしてもニーナと結ばれたいという気持ちが、彼から冷静な判断を奪ったのかもしれないな」
驚きながらもウィルは冷静に状況を分析してくれる。
「結局ニーナは、『諦めて欲しい』と言ったわけだろう? でもそれに対するアンソニーの返答はもらっていなかったと。そんな状況なら、花畑の場所を聞き出すのは、難しいだろうな」
申し訳ない思いで項垂れると……。
「なあ、ニーナ。アンソニーから花畑の場所を教えてもらう件は、気にしないでいい。それより、明日も学校がある。ニーナはアンソニーと同じ馬車だ。……もし気まずいなら、僕の馬車に乗るか?」
そんな気遣いができるウィルの優しさに、思わず感動する。「ぜひ、そうしてください!」という返事が、喉元まで出かかるが……。
「それは……そうしたいところですが、私がウィルと二人で馬車に乗るとジェシカが……」
チラリとウィルを見ると、「ああ」という顔になる。
「ジェシカは……どうやら僕に好意を持ってくれているようだ。光栄だよ。でも、僕は婚約する予定だから。その件はおいおいジェシカに伝えるつもりだが、これはタイミングが重要。僕から婚約する予定があるなんて言えば、ジェシカに恥をかかせてしまう。そうならないよう、気を使い、タイミングを見極める必要がある」
! ウィルに婚約の話があるの!? 相手は誰なのだろう……?
マジパラでは、ウィリアムがヒロイン以外と結ばれるなんて話、なかった。知っているゲームの世界とはいえ、ゲーム通りの部分もあれば、違う部分もあるわけで。
「ニーナ?」
「は、はいっ」
「アンソニーの件も同じだ。彼は思いがけない交換条件を出したけど、それは君への想いが強くて、つい切ってしまったカードだと思う。だから少し気持ちが落ち着けば、そんな交換条件とは関係なく、花畑の場所を教えてくれるだろう。でも尋ねるとしても、タイミングを見誤ってはいけない。ちなみにアンソニーとはさっき話したけど、さすがウィンスレット辺境伯家の嫡男だと思った。彼が家督を継いでも間違いないと思えた」
ウィルのこの考えを聞けてよかった。
客観的にアンソニーのことを見ることができた気がする。
確かにアンソニーは自分の意に沿わないからと言って、意地悪をするような人ではない。
それは共にこの家で育ってきたからよく分かる。
「そうですね。アンソニーは私から見ても、立派だと思います。だからウィルの言う通り、そんな交換条件なしで教えてくれると思います。……とはいえ、現状はなかなか厳しく。できればアンソニーとは近々は二人きりになりたくないのですが、もし明朝、ジェシカがウィルの馬車で登校したいとなると……」
するとウィルがウィンクした。
「ではこうしよう。僕がウィンスレット辺境伯家の馬車に乗せてもらおう」
本日もお読みいただき、ありがとうございます!
次回は「二人の王子様」を公開します。
明日はプチサプライズ!
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