23:彼の目的は?
彼は誕生したその瞬間から『奇跡の子』として、赤ん坊の状態で引き取られ、王宮で大切に育てられることになった。
だが彼は好奇心が旺盛で、王宮の中で守られるように育てられることを嫌っていた。だからしょっちゅう王宮を抜けだし、街へ遊びに出ていた。
成長すると、街へ出るだけでは飽き足らず、馬車を乗り継いで王都から離れた地方都市にまで足を延ばすようになる。
もちろん、彼を止めようとするのだが、その強い魔力と魔法の前ではどうにもならない。
それにただやみくもにあちこちへいっているわけではないことは、彼が携行しているノートからも明らかだった。そのノートには、彼が訪れた場所の様々な情報が、書き込まれていた。
魔法で使う鉱石や植物の情報、地形、気候など多岐にわたる。これを見ると、もう彼の行動を制限することなく、自由に動くことを許すようになった。
学校へはほとんど顔を出さないが、テストを受ければ満点。魔法の実技も召喚もすべて完璧。そして彼の膨大なノートは、王宮の書庫に大切に保管されており、今も魔法の研究のために役立てられている。
ちなみにブルンデルクへ向かうにあたり、ウィルはそのノートを見直した。その結果、彼は12歳の春にブルンデルクへ来ていたことが明らかになる。
ブルンデルクに関する情報が、ノートには記載されていた。さらに既に色褪せていたが、そこにはネモフィラが押し花になり、挟まれていた。
ウィルの言う彼は確かに12歳の春、ブルンデルクに来た。そしてそこで摘んだネモフィラを押し花にしてノートに挟んでいた。これに加え、ウィルが彼と私の会った少年が同一だと考える理由の決定打を明かした。
「彼はね、何かを約束する時、言葉だけの約束はしない。必ず『証』をつける。例えば、『約束だよ』と言って握手をする。『約束だよ』と言ってハグをする。ニーナとも『約束の証』として額にキスをしている。彼らしいと思う」
ウィルは再びチョコレートを口に運んだ。
「8歳の私は12歳の彼と会った……。それは……そうなのかもしれないです。出会いは偶然だったのでしょう。でもそこで6年後に再び会うことを約束したのでしょうか?」
「6年後に会う約束……。その約束は再会だけが目的だったのか、別に目的があったのか。そこが謎だ」
再会の約束だけだったとしても、なぜ6年後なのかも分からない。あ、でもこれは成人したことと関係しているのだろうか? 絵葉書には「自分のした約束を果たせる年齢になったことを意味する。僕は6年前、ある約束をした。『ネモフィラの花畑の約束』だ。この約束を果たすため、この地にやってきている」と書かれていた。つまりその約束は18歳になったら果たせる約束だった、ということか。
この考えをウィルに話すと「そうだと思う」と同意してくれた。その点は解決したが、再会以外の別の目的については……思いつかない。
するとウィルが確認するように私に尋ねた。
「ニーナの目が遠視になったのも、魔力が弱くなったのもブルンデルクに来てから?」
「そうですね」
「『約束の証』として額にキスをした時。何か囁いたというなら、その時に魔法の詠唱をした可能性が高いな。つまり8歳のニーナに魔力を抑える魔法と遠視になる魔法をかけた」
「そう言われると……。そうだったのかもしれないです。あと、私、子供の頃から記憶力はいい方です。それなのに、ネモフィラの花畑を探し回っていたことを覚えていない……。これにも彼は関わっていると思いますか? もし関わっているなら、3年前にここに来た時に、記憶を消す魔法も彼は私にかけたのでしょうか……?」
8歳の私に魔力を抑える魔法と遠視になる魔法をかけた。その上で14歳の私に、今度は記憶を消す魔法をかけたなら……。彼は本当に私をどうしたかったのだろう? 厄介な魔法を次々に私へかける理由がさっぱり思いつかない。
一方、私と同じように思案していたウィルは、深々と頷いた。
「大ありだろう。彼が18歳になり再びこの地に来た。その時、ニーナは14歳だ。そして14歳の春から花畑を探すのを止めた。その時に君と接触があった可能性が高い。そこで君から記憶を消した……のかもしれない」
「でも14歳の時に彼と会った記憶なんてないです。それも消された……? もしかして3年前にここにきた彼の目的は、花畑を探そうとした私の記憶を消すことだったのでしょうか?」
「うーん、どうだろう。でも記憶を消すにしては中途半端だ。消すならすべて消せばいいのに。約束を交わした時の記憶だけ残すと言うのは……。結局、情報は集まったけど、まだまだ何も見えてこないな」
ウィルが腕組みをして唸った。
それから宙を睨み、話を再開する。
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次回は「こんな話をするのは……とても恥ずかしい」を公開します。
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