14:魔法にかけられて
「え……」
ウィルの言葉に凍り付く。
「何せ君には彼の魔力の痕跡がある。つまり、彼がかけた魔法が君にはかかっている。でもあの彼がかけた魔法だ。僕で解術できるか分からないからな。彼ほどではないが、王都には僕より強い魔力の持ち主もいる。もし僕で解術できなかったら、王都に連れて行く……という可能性もゼロではないが、無理矢理連れて行くつもりはない。なにせ君はその魔法がかかった状態で、今まで生きているわけだ。これから先もその魔法がかかった状態で、生きていくこともできるだろうからね」
なるほど。そういうことか。
マジパラにおいて、ウィルは「魔力が恐ろしいほど強い」という設定だった。
容姿はかなり激変しているが、魔力の強さはゲームの設定そのままだと思う。
あ。
唐突に気づく。
ウィルの容姿が私の知るマジパラのウィリアムと全然違うのは……。
本物の兄と慕う彼が姿を消し、彼を探すためにもっと逞しくならなければならないと、体を鍛えたのではないか……?
きっと、そうなのだろう。
ウィルを変えてしまうほどの彼って何者?
それにウィルをもってしても解けない魔法って……。
そもそも魔法は、かけた本人ならたやすく解除できる。
でも他人がかけた魔法を解術するのは厄介だ。
だから、他人にかけられた魔法を解除することを生業とする解術師という者も存在している。解術師になれるのは、とても強い魔力の持ち主だ。
マジパラの設定通りのウィルだったら間違いなく、解術師になれると思う。もちろん王子という立場だし、解術師になるわけはないが。
しかし、それぐらい強い魔力を持つウィルをもってしても、解術できるかどうかって……。
ウィルの言う彼は、よっぽどの魔力の持ち主なのだろう。
それにしても私には、一体どんな魔法がかけられているというのだ!?
というか、ウィンスレット辺境伯だって魔力は強いと思うのだが、魔法がかかっているなんて指摘されたことがない。
「そのごめんなさい。疑うわけではないのですが、本当に私に魔法なんてかかっているのですか? それに一体どんな魔法がかけられているというのですか?」
「その疑問は尤もだと思う。彼は本当に破格な魔力を持っている。僕はそんな彼と共に過ごした時間が長かったから、彼の使う複雑な魔法の組み合わせや魔力も見慣れていた。それに僕の瞳には彼が解読魔法をかけてくれた。解読魔法というのは、彼が発明した魔法で、一般的な魔法ではないし、とても特殊な魔法だ」
そこでウィルはグラスの水を口に運ぶ。
「僕はうんと子供の頃に、誘拐されかけたことがある。魔法で体の動きを奪われてね。でも僕は魔力が強いし、かけられた魔法を解術するだけの魔力はあった。ただ、かけられた魔法の解析ができなかった。結局、当時の筆頭魔法騎士の手で、犯人は捕らえられ、僕も王宮から外へ連れ出されることはなかった」
王族の誘拐や暗殺というのは、今でこそ減ったが、ちょっと前までは起きていたと聞いている。ウィルもその魔の手に落ちそうになっていたとは……。
「複雑な魔法というのは、いくつもの魔法が組み合わせられている。どんな魔法が組み合わせられているか読み解くことができなければ、いくら強い魔力を持っていても、解術はできない。僕は彼からその読み解く方法を学び、沢山の魔法を覚えた。そして僕の中で記憶されている魔法と、目の前にある魔法が一致するか瞬時に検索できるような魔法を、解読魔法を、彼は僕の瞳にかけてくれた」
そう言って私を見るウィルのオパールグリーンの瞳が、キラリと輝く。
その輝きは、学園まで運んでもらう時にも見た輝きだ。
「解読魔法で君を見たら、とんでもなく複雑な組み合わせの魔法が見えた。……複雑過ぎてすべてを解析しきれなかった。そしてその複雑な魔法のいくつかが、彼が編み出した魔法だと分かった。だから、彼が君に魔法をかけたことは間違いないだろう」
そこで1時間目の授業の終了を知らせるベルの音が鳴り響く。
「タイムアップだ。君にかけられた魔法は今言った通り複雑だが、ざっくりまとめるとこういう魔法と表現することができる。その件は……家に帰ってからかな? それとも昼休みを僕と過ごすかい?」
「……実は『ネモフィラの花畑の約束』について話せることがあります」
ウィルの顔が真剣そのものになる。
「本当かい、ニーナ? その件を僕に話す気持ちは?」
「あります。……その、本当に、最初に失礼な態度をとってしまい、ごめんなさい。いろいろ勘違いしていました。ウィルは『君が抱えている問題の解決に、力を貸せるかもしれない』と言っていましたが、それは本当にそうなのだと思えました。だから私が話せることは、ウィルに話したいと思います。どれだけ役に立つ情報かは分かりませんが……」
「ありがとう、ニーナ、助かるよ。となると……。昼休みでは、話しきれずに終わりそうだ。今晩、夕食会の後で、部屋で話そう」
私は頷き、ウィルと握手を交わした。
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次回は「なぜ……?」を公開します。
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