12:じっくり話し、説得し、王都に連れ戻す?
もうまさに連行される。
そんな感じだった。
両サイドをウィリアム、ジェラルドにサンドされ、先頭に魔法騎士一人、後ろに魔法騎士二名。
もう逃げられない……。
今となって理解する。
ウィリアムが私の名前や年齢に興味を持った理由が。
ゲームの抑止力がウィリアムに働きかけていたのだろう。
この女こそ、悪役令嬢のニーナだ。
この女を王都に連れ帰り、悪役令嬢にするのだと。
「ノヴァ家といえば、王都にノヴァ伯爵がいるが、そのノヴァ伯爵家の遠縁か?」
ウィリアムが気さくに話しかけてくる。
もう逃げようがないのでとりあえず答える。
「いえ、そのノヴァ伯爵家の長女です。病弱ゆえ、療養のため、叔父であるウィンスレット辺境伯家に8歳の頃からお世話になっております」
「ウィリアムさま、この話、聞いたことがあります。なんでも車から出る排気ガスが呼吸器系に問題を引き起こすとノヴァ伯爵が発表し、我が国における排ガス規制法案の成立につながりました。ノヴァ伯爵がこの問題を提起することになったきっかけ、それがこちらのニーナ嬢にあると、お聞きしたことがあります」
ジェラルドの言葉に「なるほど」と深々と頷き、ウィリアムが口を開く。
「今はその病気の症状は、改善されたのか?」
「はい、そうですね。学校を卒業したら王都に帰ることも検討しています」
一応、卒業したら帰るつもりだとアピールしておく。
だから、今は帰るつもりはないと。
「それは良かった。あ、そうだ、ジェラルドのことを紹介していなかったな」
ウィリアムはジェラルドについて紹介してくれるが、それは私がマジパラで知った情報と一致している。ジェラルドの紹介を終えると、改めて私を見て、ウィリアムは呟く。
「それで君は現在ウィンスレット辺境伯家のところにいると……。ジェラルド、今日から世話になるのは……」
「はい、ウィンスレット辺境伯家です、ウィリアムさま」
「そうだよな。なんだ、同じ居候の身になるわけか。だったら急がずともじっくり話す時間があるな」
ウィリアムの言葉を聞き、背中に汗が伝う。
じっくり話し、説得し、王都に連れ戻すつもりか……。
「では教頭との約束もある。まずは王国史について話そう。ジェラルド、飲み物を頼む」
「かしこまりました、ウィリアムさま」
ジェラルドは飲み物を買いに行き、私とウィリアムは、カフェテリアの個室に入った。
◇
カフェテリアの個室は、入口の対面は一面がガラス張りになっており、庭園を眺めることができる。左右は壁だ。
ちらっとみると、窓の外に魔法騎士が二人立っている。
ドアの外にも魔法騎士が一人、そしてジェラルド。
やはり逃走は……難しそうだ。
「では始めようか」
ウィリアムは自らダージリンティーをいれ、私の前にティーカップを置く。
二つの意味で不思議な気持ちになる。
この国の第三王子が、私のために紅茶をいれてくれたということに。
あのマジパラのウィリアムが、紅茶をいれてくれたことに。
それにしても。
私の知るマジパラのウィリアムとは別人過ぎて、どう反応していいか分からない。
そんな私の胸中などウィリアムは知るわけもなく。
王国史について話しだした。
まさか本当に、ウィリアムから王国史について聞くとは思わなかった。
最初はどう逃げ出すか思案していたが、ウィリアムの話は……面白かった。
ウィリアムにとってはご先祖の話をするようなものだ。だから……。
「僕のひぃひぃひぃひぃ……つまりは12代前のじいちゃんが、この法案を通して、ギリス王国との交易が初めて始まった。この交易開始をきっかけに、我が国にバームクーヘンがもたらされた。だからじいちゃんには感謝だよな」
そんな感じだから……。
ついつい、話に聞き入ってしまう。
正直、楽しかったし、本当に面白かった。
ウィリアムが教師をやれば、王国史はみんな満点をとれるのでは?と思ってしまう。
「さて。歴史の勉強はこれでお終いだ」
そう言われた瞬間、楽しい気持ちは吹き飛んだ。
本日もお読みいただき、ありがとうございます!
次回は「どうして僕はニーナに嫌われている?」を公開します。
明日もよろしくお願いいたします。