出所当日のお話(幕間)
遅れを取り戻せキャンペーン中。連続投稿その④。ラスト。
「お世話になりました」
「世話になってやったヨ!」
「あーりーがーとーうーごーざーいーまー」
「あぁ!もう、さっさと行きなってイライラするなぁ!」
鉄の門がどエライ音を立てて閉まった。
あのおやっさん、ツンデレだなきっと。
態度は厳しかったけど何かと気にかけてくれたしな。
「やっと出れたヨ!」
「しーたー」
「セイジツ兄貴、もう居ないって」
獣人でもめずらしい、ナマケモノ族の兄貴はいっつもこうだ。
すでに閉められた門に向かっていまだお辞儀をしている。
「はぁ、長かったね一ヶ月」
「楽しかったネ!」
「姉貴はいつもそういうじゃん……」
「ガサラには物事を楽しむ余裕がないネ!」
「獄中を楽しめるのはナナイロ姉貴だけだよ……」
俺たちは一ヶ月、正確にいうと29日間を拘留施設で過ごした。
罪状は『特殊魔法具ならびに銃刀法違反』。
本来ならもっと重い実刑が下されても文句は言えない罪だったけど、所属しているトレジャーハンター協会のおかげで刑を軽くして貰ったらしい。
とはいっても、俺たち『兄弟』の中で協会のお偉方と渡りをつけられるのはセイジツ兄貴だけだ。
ナマケモノ族らしいおっとりとした兄貴だけど、これでもトレジャーライセンスはA級を持っていて、国内でも十名しかいない『龍殺し』の認定を受けた凄腕だ。
『龍殺し』と言ったって、実際に龍を退治した事があるわけじゃない。
A+指定以上のダンジョンを踏破したトレジャーハンター、しかもその中でも最も活躍したハンターに贈られる、いわば一級の称号だ。
トレジャーハンターにとって一番の腕と栄誉を認められた証と言える。
セイジツ兄貴は本当に凄い。
おっとりしているようでも、いざダンジョンに潜れば兄貴ほど頼れるリーダーはいない。
去年ライセンスを取得したばかりの俺や、武器を持つと暴走しがちなナナイロ姉貴をしっかり補佐しつつ、確かな経験と技量でダンジョンを踏破していく姿は俺の憧れでもある。
獅子族の落ちこぼれで、しかも魔症持ちの俺を拾ってくれた大恩人。
兄貴が居なかったら、俺は今でも『穢れた都市』の物漁りをしていた筈だ。
10年前、まだ7歳だった俺を暗黒から救い上げてくれた兄貴。
そしていつも俺を助けてくれるナナイロ姉貴。
二人には一生頭が上がらないだろう。
「んで、まずはアジトに帰るとして、この先どうするの?」
俺の失態により、あと5ヶ月はダンジョンに潜れない。
兄貴と姉貴の蓄えはびっくりするほどあるから生活には困らないけれど、俺には見栄を張って買った重力魔法砲のローンが残っている。
購入者名義は兄貴だけど、俺のわがままで買った高級品だ。
ライセンス取得料すら出してもらった分際で、これ以上兄貴たちのおんぶに抱っこはかっこ悪すぎる。せめて重力魔法砲の代金は稼ぎたい。
なにか無いかな。ダンジョンに潜らなくても稼げる方法。
「きょーうーかーいーちょーかーらー」
「ベモン協会長から直々の依頼があったんだヨ!一回アジトに帰ってまたこの町に来るヨ!」
「協会長?指名依頼なんて受けて良かったの?」
この町で俺たちに何をやれって言うのさ。
正直俺のトラウマになりつつあるこの町から早く出たいんだけど。
「じーきーじーきーにー」
「協会の口利きで刑を軽くして貰ったからネ!断れないんだヨ!あのおっさん、アタイにセクハラしてくるから嫌いなんだけどネ!」
うん。
俺もあのデブ嫌いだ。
大嘴鳥族のナナイロ姉貴はスタイルも良いし、珍しい七色の羽を持つ鳥族だ。人間にはイマイチだけど鳥系や一部の獣人からはアイドル視されていて、トレジャーハンターに人気の専門誌『月間メイズ・メイズ』からグラビアの依頼が来たこともある。
兄貴一筋のナナイロ姉貴は断ったけど、正直もったいない。
あの本に載れば、モデルやCMだけで食っていけるのに。
「うー、俺のせいかな……」
自信なくすなぁ。
この町での俺たちの仕事は、大失敗だった。
とあるタレコミを駄目元で信じて、あのゆるーいダンジョンに潜ったまでは良かった。
俺の持ち込んできたタレコミ情報に兄貴たちはあんまり乗り気じゃなかったけど、ダンジョンの頂上に到着したときには心躍ったもんだ。
まさか本物の龍が本当に巣を作っていて、しかも産卵直後だなんてさすがに出来過ぎだ。
すぐさま計画を見直し役割分担をした。
フロントアタッカーのナナイロ姉貴を囮にして、バックアップの兄貴が短距離転移の準備。
サイドフォローの俺が卵を確保して速やかに退却。
これが、うまくいかなかった。
主に俺のせいで。
ナナイロ姉貴は『龍殺し』の称号は持っていないけれど、西日本で五本の指に入るアタッカーだ。
信じられないことに、龍相手に一人で30分も持ちこたえてみせた。
セイジツ兄貴はさすがの腕前で、頂上から入り口までという距離の転移魔方陣を絶妙なコントロールで構築した。
魔族にとっては簡単な魔方陣だけど、魔力を持たない俺たち獣人や人間にとっては困難な作業だ。一時的に体力を魔力に変換する練気法を使えるだけでも凄いのに。
そして大失態の俺だ。
ナナイロ姉貴の奮闘を尻目に巣へ突入し、やけに生活感のある巣穴の中のベッドで卵を発見した。
そこに、卵が二つあった。
俺は歓喜と狂乱に陥った。
一個あれば人生4回は遊びながら生活できる価値のある物が、二つ。
欲張ってしまった。
持ってきたバックパックに入れられるのはせいぜい一つ。
余計な時間を使って巣穴を物色して、ようやく見つけた風呂敷に卵を包んで巣を出た頃には、ナナイロ姉貴は満身創痍。
予定の時間以上に魔方陣を維持していたセイジツ兄貴の体力は空っぽ。
なんとかダンジョンを降り、森を抜けて車に乗り込んだ瞬間に母龍に追いつかれ、雷でフロントタイヤは両方パンク。
タイヤを交換してる間逃げ回る役目を嫌々任されるも、乱入してきた謎の一般人にノされて一発KO。
笑えてくる。
しかも兄貴が申請していた区間以外で、魔法具とナイフを使ってしまったから余計に悪い。
到着した現地の警察に言い訳も出来ずに逮捕、拘留。
終わったと思ったなぁ。
最悪、ライセンス剥奪の上に懲役刑も覚悟したもんだ。
ほんと、俺何やってるんだろう……。
「こーのーまーちーにーもーどーるー」
「というわけで、協会に借りを返さなきゃならないヨ!ガサラも多少の失敗にクヨクヨしてる暇は無いんだからネ!」
「う、うん」
やはり、姉貴にはお見通しだったか。
俺たちの装備は、協会に返却されているらしいし、どうしたって協会長に挨拶しにいかなければならなかったんだ。
すぐにマイナス思考になるのは俺の悪い癖だ。
心機一転、ここからもう一度やり直そう。
俺の夢は兄貴のように頼れる、姉貴のように強いトレジャーハンターだ。
やがては『楽園兄弟』の末弟として名を馳せて、兄貴たちに恩返しをしなければならない。
こんな事で躓いてはいけないんだ!
冴え渡る青空の下、俺たち兄弟は並んで歩く。
兄貴はまだ説明が終わってないようだし、姉貴は楽しそうに鼻歌を歌っている。
協会長の依頼がなんだかわからないけど、今度こそ失敗はしない。
『楽園兄弟』の末っ子。このガサライオ・ライオットの名に懸けて。





