文学少女と桃色引きこもりドラゴン⑩
本当は昨日の夜に更新しようと思ってましたが、気になる箇所を直してたらかなり遅れてしまいました…………申し訳ごじゃいましぇん!!(土下寝)
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「さ、さっきは失礼しました。初めまして、ボクは海龍王カロリアリゼル・ドラグリーナの娘、アリスレイア・ドラグリーナです。名前が長いから、アリスで良いよ」
隣に立つテセアラさんと一緒に、桃色のウェーブがかった髪が地面に付きそうな程、アリスは深々と頭を下げた。
身支度を整えたアリスは水色の軽装なワンピースに、腰に白いパレオみたいなのを纏っている。
聞いてた話じゃアオイやルージュよりも年上らしいんだが、どこをどう見ても小学校低学年に見えるんだが。
「こちらこそ初めまして。空龍王ユーリエルの娘、アオイノウンです。私もアオイって呼んでください」
「地龍王の娘、ルージュリヒテー。ルージュで良いよ」
今ここに龍王の娘が全員揃っていると考えると、なんか不思議な気持ちになるな。
アリスは頭を上げてアオイとルージュの顔を見ると、続いて視線を下へ下へと動かし、そしてまたがっくりと頭を下げた。
「ボクなんかより全然育っちゃてるじゃん……一番歳上なのに……分かってたとは言え、凹むなぁ」
ぼそぼそと何かを呟いて、アリスは顔を上げた。
「と、ところで向こうの君はどうしたの?」
アリスの視線の移った先は三隈だ。
俺が今まで見た事も無いくらい目を輝かせて、うず高く積まれた本や背の何倍も高い本棚の列をキョロキョロと見回し、鼻息荒く興奮している。
「あっ、あのっ、私は三隈夕乃って言います」
三隈は広い割に本で埋め尽くされて足の踏み場を確保するのも難しいこの部屋を、忙しなく歩き回りながら挨拶をする。
こんな行儀の悪い三隈夕乃も珍しい。
いつもは相手の目を見て話すなんて礼儀を絶対に忘れないアイツが、挨拶も中途半端にこうも取り乱しているなんて。
「アリスさん凄いねこれ! 入手が難しくて名前しか聞いた事ない本や、伝聞でしか存在が伝わっていない無い古書のタイトルが……こんなにっ!」
三隈は喋りながらもそこら辺の本を一冊手に取っては開き、中身をパラパラと見てはまた次の本を探し、本棚の端から端へ背表紙を指でついーとなぞりながら、まるで初めて遊園地に訪れた子供みたいに動き回る。
「──むふんっ」
アリスのワンピースの下に隠れている──おそらく尻尾であろう物がぴくんと動いた。
「きっ、きききっ、君は書物にご興味があるみみみっ、みたいだなっ?」
アリスは舌も回らないほどの早口で捲し立て、すすすいーっと床に積まれた本のタワーの隙間を滑る様に移動する。
「うん! わぁ、本当に凄いねぇ……あれは獣人集落の探訪記で有名なジャムストン・F・ニールベルケルの北方探訪編かな? 南方滞在編の改訂版は図書館でも読めるけど、北方探訪は世界衝突の時に原本の殆どが紛失したとかで幻とまで言われているのに……」
「ううううっ、うんうんっ! まだ世界がぶつかる前の獣人社会じゃ書物なんてそもそも狭い流通の範囲内でしか出回ってなくてさ! 向こうの世界じゃ印刷技術なんか全然未熟だったからっ、真贋の区別もつかない偽書がたくさんあるんだ! でもあの本は著者がまだ北方に滞在している時に直接版元から購入したものだから、間違いなく本物なんだよ! ほら、これも!」
アリスは慌ててバタバタと本の山から一冊を取り出して、自慢する様に頭の上に掲げる。
「こここっ、この本が何かわかるかい!?」
「この表紙にある紋章って、魔法研究家で小説家でもあるアーレン・ヌチカリオスの旧魔法体系神話蒐集!? 弟子の何名かにしか与えてないって言われてて、その数は十冊も無いって言われている物!?」
「うっ、うんうんっ! 昔のダイラン王家の王子の一人が、アーレンに直接教えを受けていたんだ! これはその王子の没後にママが王家から預かっていた品でね? ほら、現代魔法では考えられないぐらい迂遠で複雑な魔法式がかけられているでしょ? これはもう失伝された魔法なんだけど、アーレンが自ら開発した固有の魔法で、その保存性は現代の簡略化された術式よりもコストこそかかるけれど、比べ物にならないくらい効果が抜群だから、この本もほら新品みたいでしょ!? この状態で本が現存している事こそがアーレンの直筆本である証左にもなっているんだ! しかも活版印刷じゃなくて原本から魔法によって複製されているから、その筆跡もアーレン本人の物なんだよ! 他にもね!?」
ん?
んん?
何か突然、二人して凄い早口で会話をし始めたけど、何を言ってるのか全然分かんないんだけど。
「翔平。これって俺ら、絶対忘れられてるよな?」
「まだ自己紹介も終わってないしね?」
男二人、部屋の入り口付近に並べられたクラシック調の椅子に座って首を傾げる。
なぜか女性陣とは別に用意されていたのだ。
「申し訳ございません皆様。アリスレイア様はその……いわゆるマニアでして」
困り顔に眉毛をハの字に下げて、テセアラさんが俺らに頭を下げる。
いや、謝られても逆に困るんだけど……。
「本当に凄い本の量ですねぇ……」
テセアラさんの言葉に頷きながら、アオイは周囲を見回した。
広い上に天井も高い部屋なのに、まるで大型の図書館の様に並べられている本棚のせいで、とても手狭に見える。
ここから見えるだけでも本棚の数は二十を有に超えていて、学校の図書館とかで良く嗅いだあの匂いが奥からかすかにする位だ。
「海龍はもともと知識欲の高い龍種族だからな。アリスはこの宮殿から一歩も出た事が無いから、手軽に知識を得られる書物に余計に没頭しちまったんだろ」
ベッドの上でジャジャとナナを遊ばせているユールがアオイの声に応えた。
「だあぅ」
「んー? ナナはばぁばの尻尾がお気に入りかい? お前も大きくなったら綺麗で立派な尻尾になるだろうさ。今の尻尾も可愛いから、捨て難いなぁ」
「あぁい!」
「こらジャジャ、そこを噛んだりしたらダメだろ? お前は小さい頃のママそっくりだなぁ。なんでも口に入れやがって。ほら、べーってしな」
双子はもうすっかりおばあちゃんに慣れていて、くすぐられたり抱き抱えられたりする度に嬉しそうな声を上げている。
やはり、母親経験者は凄いな。
ナナに尻尾を思いっきり引っ張られようが、ジャジャに色んな所を力一杯噛まれようが、穏やかな笑みを少しも崩さずに冷静に対処している。
……この数十分でなんだかユールに対するイメージがガラリと変わってしまいそうだ。
「ねぇ夕乃、こっちも見てよ! ボクはそれが本であればジャンルを問わない雑食家でね!? ほら、君たちの国──日本だよね? ボクは日本の本もかなり集めてるんだ! こっちが地図でしょ? それでこっちが辞典で……こっちの本棚は歴史書! そっちが小説で、こっちは────」
アリスと三隈の会話は徐々にヒートアップしていて、最早俺らがここで待っている事なんか頭の片隅にも残っていないようだ。
「あ、私この本持ってるよ! この作者のファンで、特に恋愛小説のあのシリーズが────」
「それ最近の新刊!? 新しい物は他の海龍種の子が持ってきてくれないと手に入らないからさぁ! 羨ましいなぁ!」
んー、まぁ三隈とアリスが楽しいなら別に良いんだけどさぁ。
そろそろ話を始めないと、夜になっちまうぞ?
「兄ちゃん、僕お腹減った」
「ああ、実は俺もだ」
「申し訳ございません。今こちらにお食事とお飲み物をお持ちしますので、少々お待ちください」
「あ、テセアラさん。お手洗いもお借りしたいんですけど」
「かしこまりました。ご案内致します」
「母さん、その間にジャジャとナナの着替えとおしめの交換、お願いできる?」
「ああ。水着のままだと寒くなっちまうかな? わかったよ」
「ん、おば様。私も手伝う。任せて」
三隈とアリスのあの熱量に水を刺すのもどうかなって空気なので、放っておく事にしよう。
それからしばらくしてテセアラさんが食事を持ってきてくれて、みんなでテーブルを囲んで早めの夕食を頂いた。
それを全部食べ終わっても三隈とアリスのオタク談義はまだ終わってなかったのは、素直に凄いと感心した。
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「外出、ですか?」
「うん、ちょっと行ってみたいところがあってさ」
ようやく二人が落ち着いた頃には、外の日光柱の光もかなり弱くなって、海龍の島全体が薄暗くなった頃──つまり夜だ。
俺と翔平は扉に近い位置で、女性陣はアリスのベッドの上の本をどけてその上に座ったり寝転んだりしている。
ちなみに寝ているのはユールとジャジャとナナ。
双子達を並べてその横を陣取り、尻尾を布団代わりにしてすやすやと寝息を立てている。
そういやこの人、休養の為にこの島に来たとか言ってたな。
やっぱ相変わらず疲れていたんだろう。
寝付くまでが驚くほど早かったからな。
そのおかげで三隈達が会話を止めて、起こさない様に小声で話し始めた感じだ。
「フランシオンってところで、大規模な魔道具の博覧会が開かれるって聞いたんだ。外に出てた海龍の娘がパンフレットと企業向けカタログを持って来てくれたんだけど、とても気になる魔道具が出品されててね? どうしても直に見て確認しないといけないんだ」
すっかり冷めてしまった紅茶のカップを握りしめて、アリスはなにやら複雑そうにそう話す。
「でもさ。アリスは病気でこの島から出られないって聞いたぞ?」
ベッドまで結構離れているから、少し大声で聞いてみる。
「ぴっ」
俺の声を聞いた途端、アリスは肩を竦めて身を引いた。
「ん?」
え、なんでそんな驚くの? 俺の音量調節、そんなミスってた?
「う、うん。ボクは自分以外の魔力に影響を受けやすい身体をしてるから、海龍王の力で満たされていて外部の魔力を排除しているこの島以外だと、この身が腐り落ちてしまうんだ」
「く、腐り落ちる!?」
「た、大変じゃないですか!?」
「ん、それでは外には出られないんじゃ?」
三隈、アオイ、ルージュの順番にアリスの言葉に反応した。
おいおいおい、思った以上に大変な病気じゃないか。
確かアトルの場合は、自分の身体の中の魔力が多すぎて、内側から傷つけられる病気だった筈。
アリスの場合は、その逆……か。
俺は人間だから持っていないんで良くわからないんだけど、魔力ってなそんなあぶなっかしい力なのかよ。
おっかねぇな。
「うん、それでね? 次期龍王であるアオイとルージュの力を貸して欲しいんだ。他の龍種の力じゃ無理でも、アオイとルージュが二人居れば、ボクを保護する結界を展開しながら行動できるじゃない? ちょうど二人が良いタイミングで球大陸に来てるって聞いてさ。ママとパ──アルバおじ様にわがままを聞いて貰ったんだよ」
この件にもやはり噛んでやがったか、あのクソ鼠め。少しは事前に説明ぐらいしてくれってんだ。
「私と──」
「──私?」
アオイとルージュがお互いを見る。
「そう、アークドラゴンの熱操作を使って極めて高い温度で魔力を純化させて、スカイドラゴンの気流操作を使ってその魔力を風で外部へ向けて散らし、球状の真空結界を張る。そしてマリーンドラゴンであるボクの液体操作で水から酸素を取り出して結界内に満たせば、移動できる簡易的な浄室を作り出す事ができるでしょう? 気圧に関しては僕ら龍なら大して問題にもならないし」
「おいおいおい、大丈夫かそれ」
聞いてるだけでも凄く複雑そうに聞こえるぞ?
俺が思わず口を挟んでしまうぐらいにはかなり難しい事を言っている。
「ぴぃっ」
「え、また?」
今度はちゃんと音量調節しましたけど?
声の大きさじゃなくて声質にビビってるとか?
「だ、大丈夫だよ? ねぇアオイ、ルージュ」
明らかに俺から目を逸らして、アリスはアオイとルージュに向き直る。
「まぁ、その程度なら」
「ん、別に難しい事じゃない」
二人してしれっと返事をしやがった。
「あ、そう?」
俺が頭悪すぎて理解できてないだけで、実はそんな難しい事じゃないって事?
「いやいやいや、大型の炉も使わずに空気中の魔力の不純物を取り除く程の熱なんてそもそも周りが危ないし、密閉もされてない場所で真空状態を維持したままそれを自在に移動させるなんて──そんなのできるわけないじゃない!」
三隈が眼鏡を光らせて否定する。
だ、だよね!?
俺間違ってないよね!?
「で、でも。そういう修行は小さい頃から母さんとやってきましたし。気流の操作なんて初歩の初歩ですよ? お家の周りの風を弱めたり、雨を少し避けたりなんかしょっちゅうやってますし」
「ん。私も魔力の純化なら何万回と練習してきてる。今じゃテレビを見ながらでも出来る。風待のお家に来てからは、毎日夕ご飯の前にジャジャ達とテレビを見ながらお庭の魔力を純化している」
「へ?」
ぽかんと口を開く三隈。
「え? お前ら、そんな事してたっけ?」
毎日一緒に居るけど、そんなの見た事ないんだが?
「風でお洗濯物が飛びそうだったり、お買い物に出て傘を忘れた時なんかは」
「ん、家のお庭はダンジョンと隣接してるから、汚れた魔力が流れてきやすい。汚染された魔力が身体に蓄積していくと、私達は良いとしても遠い将来薫平や翔平や父に変な影響が出る。それにジャジャやナナにそんなの触れさせたくない」
「私も前から、龍気を付与した風であの町の魔力を散らしてました。えっと、いつからだっけ。母さんが出て行ってからはずっとしてたと思います」
「そ、そんな──」
ポカンと、大きく口を開けたまま三隈が固まっている。
「み、三隈?」
「くん……ぺいくん」
ギギギと金属音が聞こえそうな動きで俺を見て、三隈はゆっくりと口を開く。
「な、なんだ?」
その動きがちょっと怖かったから、俺は身を引いて返事を返した。
翔平。お前も怖いのは分かったから、そんなに強く俺の腰の肉を掴むな。すっごい痛い。
「私達は、勘違いをしていたみたい」
「な、なにを?」
三隈はそのままアオイ、ルージュ、アリス、そしてユールや双子達を見回し、最後に俺を見た。
「私達は慣れすぎていた。やっぱり──龍種と言う存在は規格外の生命。その力は、凄まじいどころの話じゃ済まされないモノなんだよ」
興奮してるのか、困惑しているのか。
どちらともとれない三隈のその表情で、何も話を理解できてない俺ですら、ゴクリと生唾を飲み込んだ。





