文学少女と桃色引きこもりドラゴン⑤
更新少し遅れました。申し訳ございません!
俺らをその背中に乗せたテセアラさんが、もの凄いスピードで海底深くへと潜っていく。
その姿はさっきまでの人間に近い物ではなく、長くて大きな『大龍』の姿だ。
龍種がその強い力を本気で行使する時になるこの姿を、俺はアオイ以外で初めて見た。
滑かで白くキラキラと輝いたその姿は、まさしく本来の『龍』の言葉のイメージそのまま。
ガトル王子に促されるまま乗った背中は不思議な力強さを感じ、俺らが全員乗ってもびくともしなかった。
雄叫びを一つあげて勢いよく水中に潜った時なんかは、溺れちまうと身構えてしまったが、これは海龍の持つ力の一つなんだろうか。
その身体から半径10メートルぐらいの円状に謎の力場を形成し、その効果範囲に沿って周囲の水が勝手に俺たちを避けていた。
潜り初めてもう数分ぐらい。
俺は今だに、この自由落下にも似た奇妙な感覚にビビりまくっている。
「うぉおおっ、こっわぁあああ!」
そろそろカッコつけるのも限界だったから、こんな変な悲鳴を上げてしまうのも無理は無いと思うんだ。ねぇ?
「に、兄ちゃん変な声出すのやめてよ! 僕だって怖いんだから!」
俺のあぐらをかいた股の間に座る翔平がクレームを付けてきた。
「しかたねぇだろ!」
「たっ、確かに怖いねこれ」
左腕に力の限りしがみつくのは、三隈である。
ブルブルと震えるそのお胸が、にゅんわりやんわりと俺の二の腕に絡みつき、さっきから少し冷静で居られない理由の一つとなっている。
「そうです?」
「ん。そうでもない」
ジャジャを抱いたアオイと、ナナを抱いたルージュはキョトンと小首を傾げる。
お前らはなんて言うか、元の身体能力が凄いからこう言うの平気なんだろうなぁ。
アオイなんて普通に空飛べるし。
「こっ、この内臓がフワってなる感覚苦手なんだよ……ジェットコースター以来だぜ」
「兄ちゃん絶叫系ダメだもんね」
「えぇ! 意外! 風待くんそんな硬派っぽい格好しといて、ジェットコースターダメなの!?」
あぁ! 翔平お前いらんこと言うのやめろ!
特にこの魔族型音波兵器であらせられるウタイにそんな情報与えたら、絶対に余計な奴にまで広がってしまう可能性があるんだから!
こいつ内緒話とか壊滅的に無理なんだぞ!?
学校での休み時間とか。隣のクラスの俺らにまで聞こえるぐらいデカイ声でくっちゃべってんだからな!
絶対ガサラとかにバレてめちゃくちゃ弄れられんだから!
「ふんっ、お子ちゃまめ」
「あら、お可愛らしいじゃないですか」
その隣で腕を組んで無言で座っていたアトルとカヨーネが口を挟んできた。
「それにそんな事仰るアトル様だって、千葉の方にあるテーマパークに視察に行った際に、あのお部屋が落っこちるアトラクションで悲鳴を上げてたじゃないですか」
「カヨーネ! いらんこと言うな!」
「はっはぁ! ざまぁねぇなアトル! お前だって大概じゃねぇか!」
「でも兄ちゃんもアレに初めて乗った時、腰抜かしてしばらく立てなかったよね」
「翔平! 翔平、お願いだから!!!!!」
俺の恥部を話のオチに使うクセ、直そ?
「み、三隈さん、少しくっつきすぎじゃ無いですか?」
よじよじと膝立ちで俺の背中まで近づいて、アオイは三隈をジト目で睨んだ。
「そ、そうかな? ご、ごめんね薫平くん。あんまりにも怖かったから、思わずしがみついちゃった」
「お、おう。気にすんな」
どう答えてもアオイが怒る予感がして、一番無難な答えを返してしまった。
「べ、別に良いんですけどぉ……じゃあ、私はこっちで」
半裸の背中に、ひんやりとしたアオイの肌を感じる。
あ、あのアオイちゃん? 何気にそう言う風に抱きつかれるの初めてで、俺結構ドキドキしちゃうかなーって。
水着越しのアオイの小さな小さな膨らみが、背中に直にダイレクトにど直球に押しつけられてしまっている。
左腕は三隈の大きな大きな夢の丘。
翔平、ちょっと股から降りてくれ。
そろそろ水着の裏地じゃ誤魔化しきれなくなってきたから。
「だぁ!」
アオイの胸と俺にサンドイッチされちゃったジャジャが、小さい手でパチパチと背中を叩く。
「おっ、ご機嫌だなジャジャ。お前は平気かこの感じ」
「うぁだ!」
背中に両手を回して、ジャジャのお尻を受け止める。
「ナナはまだ怖がってますけど、ジャジャはなんて言うか図太いですよねぇ」
「おおらかって言ってやれよ」
この元気爆発娘ときたら、ほんと物怖じしないんだ。
「う、う、だぁ、あぅだ!」
「痛い痛い。ジャジャ、パパ今裸ん坊だから、そう強く叩くと地味に痛いんだって」
テンション爆上げ中でノリに乗っている我が長女様と来たら、俺に全く遠慮が無い。
「ぐぉおおおおおおっ!」
「うわっ」
俺らが乗っている部分からかなり前方、『大龍』の姿に変身したテセアラさんが雄叫びを上げた。
突然の声にビクッと身体を揺らしたのは翔平である。
「び、びっくりしたぁ」
「ん。もう少しで到着するって」
「ルージュ姉ちゃん、なんて言ってるのか分かるの?」
「分かる。アオイも分かるはず」
「はい。本来の龍種の言語ですから」
確かアオイ達は精霊の不思議な力を借りて、魔導具『|言球《スフィア
》』と同じ効果の術を使っているとか言ってたな。
そのおかげで誰にでも言葉が通じるし、誰の言葉でも理解できるんだっけか。
「アトル、アレを見てごらん?」
ニコニコと背筋を伸ばし座っていたガトル王子が、弟のアトルを呼んで正面を指差した。
浅黒い肌が海中の暗さのせいで余計に黒く見え、真っ白い歯が暗闇の中で浮いている様にも見える。
「ど、どれですか兄上」
指の先に何があるのかを見ようと、アトルが身を乗り出して注視する。
「ほら、あのぼんやりと明るい光。アレが我が国が魔力を供給している『日光柱』の光だ。その存在は聞いた事ぐらいあるだろう?」
「はるか昔の王家が龍様に献上した、魔力で陽光を再現する魔導具でございますね?」
「そう。『海龍の島』は龍様方がその御身を安らかに過ごせる様、海中深くに沈めた島だ。我らダイランは恵みの力を引き換えに、あの魔導具の整備・点検と永続性を担保している。言うなれば持ちつ持たれつ。決して欠かしてはいけない、大事な事さ。覚えておきなさい」
「は、はい」
神妙な顔でそう頷くアトルの顔が、いつもよりなんだか幼く見える。
無愛想でしかめっ面がデフォのアイツも、一番上の兄貴の前じゃ只の弟でしか無いってことか。
なんだか変な親近感が湧いてきたぞ?
「さて、では皆様。降りる準備を致しましょうか!」
エロ黒紐ビキニのガーシャさんが、ニッコリ笑って俺らへと振り向いた。
「あれが海龍の島かぁ」
なんでダイランの地下深くにこんな大きな水溜まりがあって、なんでそんなところに島なんて沈んでるのか。
馬鹿な俺が考えたって分かるはずもない。
分かるのはあそこにアオイの母親のユーリエル、ルージュの母親のルビーネインさんに続く大三の龍王が居ると言うこと。
俺らになんの用事があるのかさっぱりだが、なんとなくまた面倒に巻き込まれる気がしてならない。
アオイに抱かれる上機嫌なジャジャと、ルージュに抱かれて不安げなナナを見る。
「よし、パパ頑張るからな」
ぼそりと呟いて、また正面を向き直した。
何にせよ、この国に来たのは双子達の身体の為。
何があろうと俺が頑張らないで、何が父親だろうか。
「兄ちゃん、なんか言った?」
「ん? 何でもねーよ」
翔平の頭のつむじをぐわしぐわしと撫で回す。
「ちょ、やめてよもう!」
「はははっ」
そうこうしている間に、『日光柱』と呼ばれるらしい発光体が俺らの目にもはっきりと見える距離まで来た。
高層ビルなみに大きな柱が突き立てられているのが、『海龍の島』で間違いなさそうだ。
次回更新は11月14日(木)19時を予定しています。前後しちゃうかも知れません。





