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兄ちゃんといっしょ③


「お土産、どうしよっか」


 目当ての店が若干混雑していたから、店員さんから整理券を貰って外のベンチで待っている。

 待ち時間に手持ち無沙汰の翔平がベンチで足をぶらぶらさせながら俺に聞いた、


「いや、今買っても荷物になるだけだろ。帰りの日取りが決まった買おうぜ」


「そうだけどさ。ユリーさんたちやいちか姉ちゃんとこうちゃん、井上巡査とかガサラ兄ちゃんたち、あと学校のみんなとかにも買っていかなくちゃ。あ、近所のおばあちゃんにも。結構買わないといけないんだから、今から何買うか決めとかないと」


「偉いなお前。兄ちゃん全然考えてなかったわ」


 そういやそうだよな。

 ガサラはともかく、ユリーさん達には返しても返しきれないほど世話になってルシな。

 特に近所の人にはちゃんとお土産渡さないと。

 田舎ならではにウチと隣の家は離れているが、全然付き合いが無いかと言えばそうでも無い。

 引っ越した当初はアオイや双子達を隠すように暮らしていたからあんまり接点はなかったが、牙岩の事件からは普通に挨拶をするレベルには仲良くなっている。

 ジャジャやナナを散歩させてる時は挨拶してくれるし、農家の人だから野菜のお裾分けなんかも貰ってしまってたり。

 子供が少ない地域だから、双子達は特に可愛がられてるようだ。

 年寄りが多いんだよ。あそこ。


「兄ちゃんだってクラスの皆に買っていった方がいいよ。仲良くしたいんでしょ?」


「牧雄ぐらいには買っていこうかなって思ってけどさ。クラスの奴は俺から貰って喜ぶんだろうか」


 そもそも受け取ってくれるかどうかなんだよなぁ。

 

 牙岩事件が終わって牧雄が普通に戻った事で、俺のイメージは本当に若干だけ良くなってるらしい。

 実感はないけど、牧雄が言うんだからそうなんだろう。

 委員長の猫の獣人、牧雄の幼馴染であるリーナなんかは俺に普通に話しかけれるようになったしな。

 女子のウチ、コミュ力が高そうな奴もだんだん俺と会話してくれるようになってきた。


 ああ、田舎に引っ越して本当に良かった!

 牧雄には本当に感謝しています!


「牧雄兄ちゃんにもあげるの? 雛ちゃんには僕からあげるから、お菓子はやめといてね」


「ん?」


 あれ?


「牧雄は別としても、クラスの奴らにあげるんだからお菓子の詰め合わせとか考えてたんだけど、お前は違うのか?」


 旅行の土産もんって言ったら食いもんだとばっかり思ってたんだけど。

 あ、雛ちゃんと翔平ってそもそも別のクラスじゃなかったか?


「あ、えっと」


 俺の言葉に翔平が俯いた。

 耳を真っ赤にして。


 お?

 おおっ?


 なんだこの反応。

 翔平が生まれてこの方ずっと兄ちゃんしてるけど、初めて見る反応だぞ?


「あ、あのほら。雛ちゃんは結構ウチに遊びに来たりするしさ。牧雄兄ちゃんだって兄ちゃんの友達だから、ちょっと他の女の子とは違うかなって」


「そりゃそうだけどさ」


 実際、牧雄の家とは家族ぐるみで付き合ってるみたいなもんだしな。


 休みの日にウチに遊びに来たり、そん時に手土産でケーキとか持って来てくれたりしてるし。


 別にそこはおかしくもなんともないんだけど、なんで恥ずかしがる必要が?


「それにほらっ、牧雄兄ちゃんにあげて雛ちゃんにあげないの変じゃん!」


「お、おお」


 そ、そうか。

 そうか?

 

 いやそうなんだろうけど、そこまで語気を強めて主張しなくても……あっ。


「……はーん?」


「な、なんだよ! 別に変な事言ってないでしょ!?」


 俺の視線に何かを感じとった翔平は全力で目を逸らし、体を逆に向けた。

 もう耳なんか発火するんじゃないかぐらい真っ赤だ。


 なるほどなるほど。

 クールだし大人ぶった奴だから今までそんな話聞いた事なかったけど、こいつももう男の子として異性を意識するようになっちゃったかー。


 考えてみればちっちゃい頃は学校も休みがちだったし、家の仕事もあるから寄り道もせずに帰って来ていた。

 それが今じゃアオイもユリーさんもいるから、二人に少しだけ任せて放課後に友達と遊びに行く事ができるようになって来ている。

 前は家の事がいっぱいっぱいでそんな余裕もなかったけど、女子との接点が増えたわけだ。

 そこに雛ちゃんだ。

 兄貴のダチの妹として、他の女子より接点が一つ多いからな。

 意識、しちゃったんだな?

 なんて事ない仕草にときめいちゃった訳だ。


 思春期の到来だ。

 我が弟がまた一つ成長したようだ。嬉しいやら寂しいやら。

 親父に報告したら喜ぶだろうか、悲しむだろうか。

 赤飯炊けって言ったらどうしよう。

 今日の夜ぐらいに電話で伝えてやろう。楽しみです。


 そうかー。

 雛ちゃんかー。


 大人しいけどしっかりもので、小さな子の面倒も見れるとってもいい子だ。

 翔平の初恋相手としてなんの問題も無い。

 むしろ応援してやれる子だ。


 問題は牧雄の妹だって事ぐらいかな。

 アイツ、俺やガサラには隠そうとしてる見たいだけど、結構なシスコンだからな。

 反対とかして来そう。


 それを宥めるのは、兄貴であり牧雄のダチでもある俺の仕事だ。

 妹が大事なのはわかるけど、俺だって弟の初恋を応援してやりたいしな。


 牧雄、すまん。

 今後の状況如何によっては、俺はお前の敵となって立ちはだかるかもしれん。


 そん時は覚悟してほしい。


「そっかー。翔平もそんな歳かー。おっきくなったなお前ー」


 そのサラサラヘアをガッシと掴んでグワングワンと揺らしてやる。

 ほれほれ。


「や、やめてよね! 変な勘違いしないでよ!」


「勘違いじゃないだろー? 好きなんだろ? LOVEしちゃってんだろ?」


 恋、しちゃいましたか?

 同級生の可愛い子に惚れちゃいましたかー!?


 いやー、弟の恋バナとか!

 ちょっと憧れてたんだよ。

 こいつ俺よりしっかりしてるもんだからさー。

 こんな話今までしてこなかったもんなー。


「うぅううううう、もう! 兄ちゃんウザい! オジさんみたいだよ!」


「あははっ、悪い悪い。なんか嬉しくてな」


 そう、嬉しいのです兄ちゃんは。

 だから少しぐらいはしゃぐのは許してほしい。


「兄ちゃんだってアオイ姉ちゃんとか、夕乃姉ちゃんとかいるでしょ!? 僕なんかより自分の事考えなよ!」


「お前、それを言ったらお終いですよ」


 何も言えなくなるじゃないか。

 わかってんだよ。そんくらい。

 今日の今日まで結論先送りで、あの二人には酷いことをしてるって自覚してる。

 男として、真面目に好意を寄せてくれている女子二人にしっかりと誠実に向き合わなければならない。

 たとえそれで恨まれる結果になろうとも、それは俺が背負わなきゃいけない事だ。

 

 ……まぁ、アオイも三隈もそんなタイプの女の子では無い。

 泣かれるかもしれないけれど、俺を恨んだりはしないはずだ。


 それがまた辛かったりもする。


 なんだこの悩みは。

 こんな悩みを持って許されるのはイケメンに限るだろうに。

 二人とも、なんで俺みたいな粗野で野蛮な奴に惚れたんだろう。

 そういう風に思う事がまたあの二人に失礼なんじゃ無いかと思うけれど、思わずには居られない。


 俺を俯瞰で見て見ても、惚れる要素が見つからないんだよ。本当に。


「どうしたもんかなぁ」


「……アオイ姉ちゃんも夕乃姉ちゃんも、好きなの?」


「好きか嫌いかで言ったら、そりゃ好きだぞ? あんなに健気で優しく奴ら、探してもそうそう見つからないはずだ」


 だけど、この思いが恋かと言われたら、それがわからない。

 

 ……ただ最近、少し変わりつつあるのは。


 アオイへの、感じ方だ。


 双子達と居る時、居ない時。

 アオイが側にいる時に、自然と落ち着いてる俺が居る。


 まるで二人で居るのが当たり前のような、居ない事がおかしいと思っている俺が居る。


 これは明らかに、三隈と居る時と違う感覚。

 

 三隈夕乃は昔馴染みだ。

 小学生の頃から知っていて、付き合いだけならアオイに比べて遥かに長い。

 だけどアイツはやっぱり同級生の女の子で、俺にとって未知の異性だ。

 

 他の女子よりは気心が知れているけれど、それでも一挙手一投足に気を遣っちまう女の子。


 だけどアオイはどうなんだろう。

 アイツといるときに、何かを気にした事なんて本当に最初の頃だけだ。

 今では朝最初に見る顔はアオイだし、最後に見る顔もアオイだ。

 そこに違和感なんて一切無い。

 

 おはようからおやすみまで、俺とアオイは自然体のまま一緒に居られる。


 ……双子たちの存在が大きいのも認識してるんだ。

 それは俺とアオイにとっては切っても切り離せないものだから。

 それを抜きにしても、アイツと居る時間は心地良い。


 素直に甘えてくれる時も、実はまんざらでもなかったりする。


「……多分、結論はもうとっくに出てるんだよな」


「兄ちゃん?」


 少しばかり考え込んでいた俺を、翔平が心配そうに覗き込んでくる。

 

「大丈夫?」


「ん? ああ、大丈夫だ。心配すんな」


「それならいいけどさ。あ、呼ばれたみたい」


 店の外でさっき整理券をくれた女の店員が笑顔でこっちに手を振っている。

 結構待たされたけれど、人気店らしいからしょうがないか。


「行こっか」


 勢いよくベンチから降りた翔平が先に店へと足を動かした。


「ああ」


 俺もベンチを立ち上がり、一度大きく背を伸ばした。

 空を見ると、ここが球大陸だと思い知らされる。

 遥か上空に岩でできた天井があり、その所々に大きな穴が空いている。


 そこから照らされる日光が街へと明るく降り注ぐ。

 外気温が熱い地域なのにこんなに過ごし易いのは、あの天井のおかげなんだろう。

 不思議なのがその季節感で、ほぼ同じ位置にあるオーストラリアは今冬真っ最中なのに、球大陸は常に常夏だ。

 なんでも大陸に施された大規模防御魔法の弊害なんだそうだが、詳しくは聞いてもあんまり理解できなかった。


 店を見る。

 店内は大勢の客で賑わっていた。


 ダイラン独特の麺料理のお店で、テイクアウトも可能らしい。

 ここでお昼を買って行って、アトルの屋敷でみんなで頂くつもりだ。


「……あとは、俺の覚悟だけなんだよな」


 自分を戒めるように呟いて、翔平の後を追う。


 そう、足りないのは勇気と覚悟。


 一人の女の子を泣かせるという現実と、ちゃんと向き合う為の覚悟。


 わかってる。

 酷い事をする。

 殴られても文句は言わない。殴ってこない事を知っているから、卑怯だと思うけれど。


 三隈夕乃。


 強くて、優しくて、俺の事を好きだと言ってくれた女の子。


 俺は、アイツの想いにちゃんと向き合い、そして答えを告げなければならないんだ。

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