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ガーデニングドラゴンズ(エピソードEP)

 

「にゃにゃ丸にゃー」


「だぁ!」


「ポン五郎も来ーたぞー」


「あばぁ!」


「タケル君もオル子ちゃんもなーかよーしだー」


「だぁい!」


 ハードディスクに録画されているいつもの幼児番組のオープニングに合わせて、ルージュとジャジャが歌う。

 テレビ正面に配置したソファに座り、両腿にジャジャとナナを乗せながら、ゆらりゆらりと左右に揺れて。


「リリカとジャジャとナナはもっとなかよしだよね」


「きゃあ!」


「うぁう?」


 さらりとジャジャの頭を撫でて、ルージュはうっすら微笑んだ。

 その言葉を理解したのかしてないのか、ジャジャは元気よく万歳をした。

 そんなジャジャを不思議そうに見ているのは、お気に入りの猫さんのぬいぐるみを抱いたナナだ。


 生まれて初めてのペンションへのお泊まりから一夜明けて、今日も双子達は元気一杯だ。

 いつもの幼児番組を見るジャジャのテンションは、心なしか以前より高い気もしないでもない。

 たぬき獣人の着ぐるみキャラ、ポン五郎くんをリリカちゃんだと思ってるのかもしれない。

 似てるっちゃあ似てるけどさ。リリカちゃん、女の子なんだよね。


 今日の双子達は牛耳のベビーオール。お揃いの幼児用ツナギだ。白黒のまだらがとっても愛らしい。

 ここんところ成長が著しいので、もう少ししたら秋物を買いに行くついでに双子達の服も一新しないとな。

 気がついたらあっという間に大きくなるから、父親として結構気が気ではない。

 俺の懐具合も言ってしまえば戦慄するぐらい寂しいが、それよりも怖いのが日に日に成長していく双子達の姿を見落とす事だ。

 今のジャジャとナナは今しか居ない。

 一度眠る度、いや俺が一回目を離す度にやれなかった事をやれていたりする。

 本当なら余す事なくそれをこの目で収めておきたい。1秒1秒そのすべてを見届けてやりたいと、心の底から願っている。


 まぁ無理なんだけどね?

 学校あるし。


 俺がいない時にハイハイしたり立ち上がったりしたらどうしよう。

 ハイハイに至っては双子達がその気になればもうできそうな気がするんだよな。

 なまじ飛べるもんだから滅多に地面を移動しないだけで、体格や筋量で言えばもう立派に乳児を終えている。

 嫌だなぁ。見たいなぁ。

 この夏休みの間になんとか頑張ってもらえないだろうか。いや、でも無理やりさせるのはそれはそれでかわいそうな気もするし。

 できるだけ無理なく、チビ達のペースで成長させたい。

 世のママさんやパパさん達も同じような事、考えてたりするんだろうか。


 そんな事を考えながら、俺はルージュの横に座りソファの肘掛けで頬杖をつきながら双子達を見ている。


 リビングの窓の向こうでは、アオイが旅行で出た洗濯物を一気に干している。

 双子達の服だったり俺や親父のシャツだったりと、大変そうだ。

 見かねて手伝おうかと腰をあげたら、アオイに断られて今に至る。

 家事ならなんでもできちゃう翔平がいるもんだから、アオイはせめて自分にできる事を必死にこなそうとするのだ。

 この家に来て初めに任されたのが洗濯だったもんだから、何がなんでも自分が全部やりたいらしい。

 そんなに意固地にならなくても、手伝いなんて軽く考えてくれたら良いのにって思ってる。そこらへんはもう少し経ってから話し合おう。今はアオイの満足度を優先してやりたい。


 翔平は昼過ぎに友達と図書館へ出かけて行った。

 球大陸への出発までに、夏休みの宿題を終わらせておきたいそうだ。

 家族の中で旅行を一番楽しみにしてるのはアイツだからな。

 旅行と言っても目的がある旅だ。

 観光できるのかどうかもまだ分からない。

 ていうか、何泊するのかも定かでは無いってどうよ?


 アルバの野郎と何時いつ落ち合うのか。何処で何をするのかすら知らない。

 不安だ。不安しかない。


 一応、アトル王子達のはからいで宿泊先だけは確保してある。

 なんでもダイランの王都にはアトル王子の為だけの屋敷があって、そこなら何泊でもして良いと言ってくれている。

 我が家の家計を考えればその言葉に甘えないわけにはいかない。

 もし1週間分のホテル代なんてかかってしまったら、夏休み明けに我が家は食べられる野草のみの生活を強いられるかも知れないからな!

 貰えるもんは遠慮なく貰うぜ。みっともないとか言ってられない!


 なんせ我が家は今、増えに増えて九人家族だ。

 あれー?

 この町に来る前は三人しか居なかったはずなのに、なんでなんだろう?


「すごいわすごいわ! ここ、本当にすごいわ!」


「薫平! すごいねこの森!」


 今期加入の新メンバー達が、興奮冷めやらぬ様子で庭から顔を出した。


「おう。戻ったか。どうだった?」


 俺はソファから立ち上がり、窓へと進んで腰を下ろした。


「すっごいの! 魔力も濃厚で、さらに精霊もたっくさん! それに土だって健康そのものよ! ここなら良い霊草が育つわ!」


「龍王女様! 空龍王女様! 僕ここ気に入っちゃた!」


 ウエラとアズイの二人が、翔平のお下がりのTシャツと半ズボンを泥だらけにして喜んでいる。

 その姿はどこからどう見ても小学校低学年の女児だ。


「そりゃ良かった。でも庭園にして良いのは家の裏手だけだぞ。フェンスの向こうはすぐ先がダンジョンになっちまってるから、できるだけ近づくなよ?」


「近づかないわ! 怖いもの!」


「近づかないよ! 死んじゃうもの!」


 素直で宜しいなおい。


 このちびっ子草龍(ハーブドラゴン)達は、めでたく我が家の保護下に置かれる事になった。

 リリカちゃん達と別れてからのペンションで、『うち来る?』的なノリで聞いてみたら、『行く行く!』って感じでホイホイ付いて来たのだ。本当に心配になるぐらいのあっけなさだった。

 知らない人には付いて行ってはいけないって、これからみっちり教えてやろう。


 なんでもこの二匹。世界衝突の際に里からかなり遠くに飛ばされてしまい、それからはこそこそと獣人や人間、動物なんかを避けて生活をして居たらしい。

 本来の草龍(ハーブドラゴン)という龍種は、非力なその身を他の地龍達に守られながら薬草や野菜なんかを育てて生活する種族なんだそうだ。

 これもアルバの言う龍種の本能なのだろうか。

 植物の育成はあいつら草龍ハーブドラゴンにとっては最大の娯楽であり、なおかつ史上の喜びらしい。

 あの山には剛熊(ベアラ)族の他にも野生動物が沢山生息しているため一つの場所でじっくり植物を育てる事が難しく、今までずっと歯がゆい思いをして来たそうな。


 我が家の周辺は牙岩ダンジョン拡張の影響で森が深くなっているし、何より他の生物の脅威からも守ってくれる存在がいるからな。

 地龍王の娘にして、龍種最強の種族。アークドラゴンのルージュが居るし、空龍王の娘であるアオイだって普通の龍達より遥かに強い。

 あそこで二匹で隠れ住むより全然安全なのは確かだ。


 さらにはちびっ子地龍達が初めて食べた人間のご飯にとても感動したのも決め手となって、二匹はあっさりと移住を決断した。


「ウエラウエラ! どうしましょう!? 何を育てたらいい!?」


「落ちついてアズイ! どうしよっか! 薬草も育てたいけれど、お野菜や果物も捨てがたいよね!?」


 と言うわけで。

 我が家に二人の幼女が新規加入した訳だが、実際問題もう我が風待家の家計は火の車である。

 翔平は朝から家計簿を見て苦虫を噛み潰したような顔をしたし、親父も寝る前に少し頭を抱えていた。とは言ってもアズイとウエラを保護する事は家族会議で決めた事だ。

 親父も翔平も賛成した事である。

 決して無理はしていないはずだ。

 俺も夏休みが明けたら、バイトするつもりだからな。


「ウエラさん! アズイさん! そんな泥だらけでお家に入っちゃダメですよ!」


「は、ハイ!」


「ご、ごめんなさいです!」


 きゃっきゃきゃっきゃとはしゃぐ二匹に、アオイの雷が落ちた。

 とは言っても実際に落とした訳ではなく、叱りつけたと言う意味だ。

 アオイだったら本当に雷が落とせちゃうからこそのネタなのだが、普通の人には分かってもらえそうに無い。


「空龍王女様……ごめんなさい」


「僕達、ちょっとハイになっちゃって……」


 二匹身を寄せ合って反省する。

 このレズっ気のある幼女龍たち、どっちもアオイより年上な筈なんだけどなぁ。

 どっからどう見ても姉に叱られて居る妹みたいな図で俺ちょっと混乱しちゃう。


「いえいえ、ちゃんと手と足を洗えば問題ないんです。(ウチ)にはジャジャとナナが居ますから、清潔には気を遣ってくださいね?」


「わ、分かったわ!」


「うん! 僕も!」


 ……本当に年上なんだよね?


「それと、私の事はアオイで良いですよ? 私はアズイさんたちより全然若いんですから。空龍王女なんてなんかくすぐったいです」


「ん。私もルージュで良い。王女ってガラじゃない」


 アオイの言葉にソファに座るルージュが同意した。

 ジャジャとナナはテレビの着ぐるみ劇に夢中なようだ。


「そ、そう言うわけにはいかないわ! えっとウエラ、どうしましょう?」


「んー。じゃあ、アオイさまとルージュさまでどうかな」


 突然目上の人間に畏るなって言われると困るもんな。俺も覚えがある。

 前の学校で唯一と言っていいほど尊敬してた先輩に、『呼び捨てでいいし、敬語も要らねぇ』って言われてどうしたら良いか分からなかった。一応は『さん』付けだけは許して貰ったが。


「まぁ、それでもちょっと恥ずかしいんですが」


「ん。あんまり人前では言わないようにしてね?」


 当の本人達はあんまり納得してないようだ。

 難しいもんだな。


「慣れたら気にしなくなるって。それよりウエラ。庭園はどんぐらい大きくする予定だ? 俺に手伝えることあるか?」


「手伝ってくれるの? じゃあ、土を耕すの手伝ってよ! 大きさも君が許してくれるなら大きければ大きいほど嬉しいな! 早速見繕ってくれないかい!?」


「わぁ! 素敵! どうしましょうどうしましょう! 嬉しいわ嬉しいわ楽しいわ! 行きましょうウエラ!」


 テンションを急にマックスに振り切らせた二匹が、手を取って家の裏手へと走っていく。


「おいおい。ちょっと待てって」


 慌てて窓の外に用意したサンダルを履く。


「少し行ってくるな」


「はい。お洗濯は任せてください!」


 鼻息荒く返事を返すアオイ。


「ん。行ってらっしゃい。私にも手伝える事があったら教えて」


 ヒラヒラと手を振るルージュ。


 夏の日差しがジリジリと肌を焼き、汗がすぐに浮き出てくるほどの暑さ。

 穏やかな風が吹く度にアオイが干した洗濯物が揺れ、少しだけ涼しさを感じさせる。

 洗濯物の中に例の水着が干されているのは、いまは見なかった事にしよう。

 この町での初めての夏は、去年に比べてかなり賑やかだ。


「だぁ!」


「あぅ?」


 ジャジャとナナの声が、家の中から聞こえてくる。





 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 この時作った庭園が、半年後の風待家の財政の救世主になるとは。


 まだ誰も予想さえしていなかった。

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