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俺とお前の為のアッパーカット④

 親父の運転する車が長い坂道を登り終え様としている。

 助手席に座る俺はシートベルトを外しながら周囲の景色を確認した。


「ここで良いのか?」


 広いスペースに車を停めながら親父は俺に尋ねて来た。


「ああ、合ってるよ。ほら」


 俺は車の前を指差す。

 その先には見覚えのある人が立っていた。


「よく来たネ! ガサラのお友達たチ!」


 色取り取りの長髪をブンブンと振って、楽園兄妹の紅一点、鳥族の獣人であるナナイロさんが両手を広げて俺達を出迎えてくれた。


「今日はありがとうございますナナイロさん。ガサラとセイジツさんは?」

「リングの整備をしてるヨ! ロープとかウチが適当に張ってたからネ!」


 ルージュの歓迎会から一夜明けて、俺達は我が家から少しばかり離れた場所にある一軒家を訪ねている。

 目の前にあるのはトタンでできたボロボロの平家だ。

 これがガサラ達が寝床として使って居る、楽園兄妹のアジトらしい。

 拡張してしまった牙岩きばいわダンジョンからほど近く、その周囲の森の変化を一目で確認できる小高い丘。

 ここからなら何があってもすぐに対応できるだろう。

 トレジャーハンター達の詰所となっている公民館も近いし、良い立地だと思う。

 車があればな。なんだよあの目の前の長い坂。

 ほとんど直角じゃないか!


「決闘すんだっテ? 羨ましいよネ!」

「いや別にやりたくて決闘する訳じゃ……」

「ウチもたまにはバッキバキに()り合いたいのにサ! 兄貴がなかなか()らしてくれないんだよネ! ガサラじゃ物足りないシ、兄貴は殴れないじゃン!?」


 バトルジャンキー怖いなぁ。

 セイジツさんがこの女性(ひと)の手綱を握ってくれていて本当に助かるわ。

 ナナイロさんを野放しにしてたら今頃この町のヤンキー供はみんな病院送りだろう。危ない危ない。


「んジャ! リングはアジトの裏手に用意してるかラ! ウチも手伝って来るネ!」


 そう言ってナナイロさんは平家を迂回して走り去った。

 忙しない人だなぁ。


「薫平さん、本当にあの人達大丈夫なんですか……?」


 車から降りた俺の後に続いて、後部座席からアオイが降りて来た。

 アオイは楽園兄妹にまだ若干のわだかまりを持っているから、その心配も分からないでもない。


「大丈夫だってば。ジャジャ達も留守番させてるし、問題はないだろ?」


 これから俺がやる事を見せる訳にはいかないしな。あの双子達にはできるだけ穏便に育って欲しいし。


「でも心配だなぁ……。いくら薫平くんが喧嘩が強いからって、相手は魔族だし」


 反対側のドアからは三隈が降りてくる。

 佐伯と三隈は昨日の夜から我が家にお泊まりしている。

 佐伯とルージュと翔平はジャジャとナナと一緒にお留守番。心配性の三隈とアオイは俺の付き添いをすると言って聞かなかった。

 本当なら俺と親父だけが来るはずだったんだけどな。

 正直勝つ可能性はそんなに高くないし、無様なところは見せたくなかった。


「心配すんな。その為のボクシングルールと見届け人だ」


 浮かない顔の二人を安心させようと返事を返した。

 俺と王子はぶっちゃけ素人だし、いくらボクシングのルールを適用したからってキチンと守れるとは思えない。

 そこで買って出て来てくれたのがナナイロさんとセイジツさんだ。

 プロのトレジャーハンターな上に業界でも屈指の実力を持つ二人が見届け人なら、いくらか心配も減るだろう。

 この二人なら腕前は確かだし、俺なんかより全然強いしな。

 王子がこの二人を超えるほど強いなら一瞬で終わるだろう。それならそれで心配はなくなる。


「それでもやっぱり心配だよ……。『海龍の僕』なんて殆ど軍人さんみたいなもんだし……」

「いやぁ、しかしビビるよなぁ。三年もストリートファイトをする儀式とは思わなかったぜ」


 我が家のブレインである三隈の調べで分かった事だが、ダイラン国に古くから続く『海龍の僕』の選定の儀式は壮絶なモノだった。

 十年に一度催される、ダイラン国の伝統儀式。『海龍祭』のメインイベント。

 期間は三年。

 殺人・多対一・武器使用を除けばなんでもありのバトルロワイヤル。

 参加するのは一〇歳以上の男子に限り、参戦の意思があれば身分を問わず、そして誰にも止められない。

 儀式の場所はダイラン全土。参加者は右腕に金色の腕輪を一つはめて、普通に生活をする。

 街中だろうがどこだろうが、例えそれが就寝時だろうとトイレ中だろうと、参加者同士がお互いを発見したら儀式の開始。前述のルールに触れない手段で相手を戦闘不能にした者は、参加者の資格である腕輪を剥奪できる。

 それを延々と繰り返すのだ。

 最後の半年を迎えるまでに腕輪を五つ集めた者のみ本戦に出場する資格が与えられ、ダイラン王都で催される祭りと共に本戦がスタートする。

 同じ様に王都の都内全てを使った本戦もこれまた同じ様な形式で進み、最後の一人になるまで祭りは終わらない。

 見事最後の一人になった者が、『海龍の僕』という名誉を一生涯手にする事ができるという、あまりにも暴力的な儀式だ。

 つまり3年かけて選ばれた猛者の称号。

 それがアトル・ケツァ・コアトー・ダイランが誇る、『海龍の僕』という名誉なのだ。


「毎日気を張りながら生活して、なおかつそれに勝ち続けるとか尋常じゃないな」

「よくよく調べたら魔法ありきのルールだったし、王子様は魔法が使えないのに勝ち残ったんでしょう? もしかして相当強いんじゃない?」


 三隈の言う通り、もしかしなくても相当強い筈なんだよなぁ。

 前に俺が王子に感じた、『喧嘩慣れした猛者の雰囲気』は大正解だ。

 三年もの間、生活の全てを戦いに費やしていたらそりゃ強くもなる。

 街のチンピラ相手に大立ち回りしていた俺と違い、王子が戦って来た相手は全員が覚悟と目的を持った戦士だ。

 その上魔法も使えるとなると、そこらのヤンキーと比べるのは失礼すぎるだろう。


「ボクシングルールが上手く働いてくれれば、もしかしたら勝つ可能性もあるかもな」


 トランクから荷物を出しながら親父が告げる。

 そうかなぁ。なんだか余計に俺に不利に働く様な気がして来たぞ。


「でもまぁ、勝たなきゃいけないんだよな」


 本当に憂鬱だけど、俺には負けられない理由がある。

 ジャジャとナナの為にも、球大陸には絶対に行かなきゃならない。勝たなくても行ける事は行けるのだが、勝利した際の褒賞である帰りの飛行機は絶対に欠かせない。

 うちの経済状況から考えて、飛行機のチケットなんて逆立ちしても手が出せないからな。


「あ、あの。いざとなったら私だけ行くって事も出来ますから。薫平さんがわざわざ危ない事しなくても」


 アオイは浮かない顔をして俺の右腕にそっと触れた。


「それが出来ないから困ってるんだろうに。お前が飛んで行こうにも1週間はかかるんだろ? 帰りはもっと速く帰れるとしても、その間のジャジャとナナの授乳はどうすんだよ。心配すんなって。無茶はしないから」


 なんだか放っておくと泣き出しそうだったから、その頭を乱暴に撫でてやった。

 アオイの細くい髪は手触りが良くて病みつきになりそう。


「うぅ……。でも薫平さんが怪我するのはやっぱり嫌ですよお……」


 うーん。そりゃ俺も嫌だけどさ。


「私は、薫平くんの無茶しないって言葉……。あんまり信用してないからね?」


 反対の左腕を三隈が掴んだ。


「いや、それは」

「双子ちゃんの事になると、特に無茶しがちになるでしょう?」


 ひ、否定は出来ない。

 今回に関しては、あのネズミがわざわざ事情を説明してるからな。

 いつも大切な事だけしか伝えないあのアルバが、手紙まで残して球大陸に来る様に言いつけるなんて、双子達にとってとても重要な事なんだろう。

 なら、俺にできる事はできる限りやっておきたい。


「それは……私も思ってますけど……。一番大事なのは薫平さんがジャジャとナナの隣に居る事ですからね?」

「そうだよ? 双子ちゃん達も怪我をしたパパなんて見たくないに決まってるんだから」


 おおう。

 両側から浴びせられる心配の視線がなんだかとっても痛いぞ?

 分かってる。分かってるから。


「お三人方、イチャつくのも結構なんだけどさぁ。そろそろ父ちゃんを手伝ってくれても良くない?」


 あ、親父忘れてた。荷物全部持たしてたわ。すまんすまん。


「あっ! ごめんなさいお義父(とう)様!」

「すいません今手伝いますから!」


 アオイと三隈が慌てて親父へと駆け寄って行った。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 荷物を担いで平家の裏手に回ると、ジャージ姿のガサラとセイジツさんがリングの上で暴れ回っていた。


「なにやってんですか?」


 ロープに首を置いて観戦しているナナイロさんに問いかける。


「最終チェックだっテ。ウチを呼べばいいのに勝手に始めちゃっテ。つまんなイ」


 ブーたれてくちばしを尖らせながらナナイロさんはガサラとセイジツさんを見ている。

 ガサラが右手に握っているのは、ナイフ? いやでもなんか黒っぽい。ああ、ゴムでできてんのか。

 キュキュっと靴底がリングのマットに擦れる音を鳴らしながら、軽快なステップでセイジツさん目掛けて黒いナイフを突き、薙ぎ、払う。

 対してセイジツさんは素手でその全てをいなしていて、傍目から見ていても手を抜いているのがモロ分かりだ。なんせ片手しか使っていない。


「楽しそうだナー。いいナー。乱入しちゃおうかナー」


 ロープを揺らしながら恐ろしい事を呟くナナイロさん。

 やめてください。貴女が暴れたらせっかく準備したリングが壊れちゃいます。


「あ」


 そんなナナイロさんの怖い呟きが聞こえたのかどうかは分からないが、リング上で暴れる二人に決着がついた様だ。

 迂闊に攻め込んだガサラの黒ナイフを手刀で弾き落として、そのままみぞおちに突きを差し入れるセイジツさん。

 その動きの流れはあまりにも速く、ほとんど一瞬で終わっていた。


「引き。油断したな?」

「う、うう。ごめんよ兄貴……」


 みぞおちへの一撃は寸止めか。

 汗で全身しっとりしているガサラが呻く様に声を漏らした。

 全身モッサモサなのはセイジツさんも同じなのに、こちらは汗ひとつかいていない。


「ふぅ……よーうーこーそー。わーがーアージートへー」


 あ、ナマケモノスイッチが入った。

 セイジツさんは一回深呼吸をして、俺達の方へと向きなおる。

 そのままトコトコと可愛らしい歩みでロープへと近づくと、ゆっくりとその下を潜って降りてきた。

 ガサラはリングの真ん中で荒い息を吐きながらへたり混んでいる。相当やられたんだろうなぁ。

 避難所での一ヶ月で分かった事だけど、このイライラするぐらいゆっくりで優しそうな声で喋るセイジツさんが本来の姿だ。

 本気出したり必要になったら急に素早くなり、声色も鋭くなる。

 その変化の合図は目つきだ。

 普段は開いているかどうかも怪しい眠そうな目で、小動物を思わせるつぶらなまなこをしているのに、別人の様に険しくなる。

 するとその動きはまるで一陣の風の様にシャープで、俺なんかじゃとてもじゃないが捉える事が出来ない。


「あ、今日はありがとうございます。よろしくお願いします」


 なんだかこの人とナナイロさんには自然と敬語になっちゃうんだよな。

 ナナイロさんは単純に怖いってのもあるけど、セイジツさんは牙岩の事件の時に見た働きやその強さから単純に尊敬している。

 荒くれ者が多いトレジャーハンター達をビシっと統率し、現場で振るわれたその手腕はさすがA級ハンターだと賞賛するしかない。

 その時のセイジツさんと、普段のセイジツさんのギャップには初めは困惑したもんだ。

 何もしてない時は本当に生きてるのかどうかも怪しいぐらいピクリとも動かないからな。


「ああ、世話になるよ。すまんね」


 親父が右手に持ったビニール袋をセイジツさんへと手渡した。


「昨日我が家でバーベキューをしてね。その残りで悪いが肉やら野菜やらを差し入れだ。早めに食べてくれ」


 親父とセイジツさんは避難所での生活で大分親しくなっていた。

 片や避難者のお父さん衆での一番の働き頭。片やトレジャーハンター達のまとめ役。

 話す機会は多かったらしい。


「あーりーがーとーうーごー」

「肉! やったネ!」


 セイジツさんの言葉を遮って袋を奪い喜ぶナナイロさん。

 いや、奪い取るなよ。絶対後で怒られるよそれ。


「ガサラー。生きてるかー」

「うっせえよ馬鹿野郎……ヒィ、ヒィ」


 ちょっとしっとりしすぎじゃないかそのたてがみ。どんだけ可愛がられてたんだよ。

 いつもはフワフワのご自慢のチャームポイントが、今じゃ見る影もない。


「こ、こんにちわ」

「初めまして……」


 アオイと三隈が後ろで小さく挨拶をした。

 ああ、そういや三隈は初対面だっけか。


 なんか二人とも一定の距離を取っていて近づこうとしてこない。

 そういやこの二人、もともと人見知りするタイプだったし、アオイに関してはもう言わずもがなだしな。


「よろしくネ! あれ? おチビちゃんたちは今日はいないノ?」

「ああ、留守番させてます。ほら、一応殴りあうわけだし」

「ふーン。それもそうだネ! あの強いお姉ちゃんモ?」

「はい。ルージュも留守番です」


 ルージュが居ないと留守番させられねぇよ。

 ちなみになんだが、アオイやルージュ、そして双子達が龍だと言う事をナナイロさんは知らない。

 ガサラ曰く、『姉貴は深く考えずに物を喋るから言わない方が良い。まぁ、無いと思うけど念のため』らしく、セイジツさんにだけ事情を説明していてナナイロさんには伝えてないのだ。

 それでも筋金入りのバトルジャンキーなナナイロさんはその野生的な勘でルージュとアオイの強さを察した様で、実は二人とも気に入ってたりする。本当に怖いよこの人。


「そっカ! 残念だネ!」


 全然残念じゃないけど?

 隙あらば喧嘩売るつもりだったろこの人。


「風待、時間まで少しあるんだ。アジト使って良いから体温めてこいよ。色々器具揃ってるから」


 その大きな体を重たそうに持ち上げ、ガサラはトタンの平家を指差した。


「ああ、悪いな。着替えてくるわ」

「俺も少し運動すっかな。最近運動不足だし。良いかな?」


 そういや親父も着替え持ってきてたな。


「どーうーぞー」

「なんならウチが相手しよっカ!? オジサンも結構強そうなんだヨ!」


 目をキラキラさせたナナイロさんが親父に詰め寄る。


「ははっ、やめてくれよ。おっさんが若い子に勝てるわけないだろ?」


 そうか?

 なんとなくだけど、親父なら良い線行ってそうな気がするんだが、これは身内贔屓なんだろうか。


「残念だヨ! おろロ? 車の音がするネ」


 ん? 何も聞こえないけど?

 耳を澄ませてみても、聞こえるのは周りの森から聞こえてくる鳥の声と、うるさいぐらい合唱する蝉の鳴き声だけだ。


「姉貴の耳は異常だからな。王子達が来たんじゃね?」


 リングのトップロープに体を預けたガサラが答えてくれた。

 この騒音の中から遠くの車の音を聞き分けるとかどんな聴力してんだよ。


「あ、ほんとですね。車の音です」


 アオイが右耳に手を当てて目を閉じた。

 なんで聞こえんの?


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「皆様、大変お待たせして申し訳ございません」

「こんにちわー!!」


 最初にリムジンのドアから現れたのはカヨーネとウタイだ。

 カヨーネは恭しく両足を揃えて頭を下げ、ウタイは無駄にデカイ声で右手をあげて挨拶をする。

 周囲の森から大量の鳥達が一斉に飛び立ち、はるか彼方の空にウタイの声が木霊こだまする。

 野生の鳥にまで迷惑かけんじゃないよ。


「元気良いネ! そのちっこい巨乳ハ!」

「はい元気です! 初めまして鳥の獣人のお姉さん! ウタイ・ケツァ・インテイラって言います!!」

「ウチはナナイロ・オオハシだヨ!」

「わぁ! 綺麗な羽ぇ! 素敵っ!」

「オッ!? 嬉しい事言ってくれるじゃン! 分かってるネ!」


 ヤベェ。

 もともとノリが軽くてお喋りなナナイロさんと、元気の塊が爆発し続けているウタイの組み合わせが想像以上にうるさい。

 なんだか意気投合してるみたいだから、少しだけ離れておこう。

 こっちの鼓膜が破れかねん。


「……ふん。小汚い場所だ」

「よぉ、王子」


 開口一番に失礼な事を言いながら不機嫌そうな顔でリムジンから降りてくるアトル王子に右手を上げて挨拶をする。


「馴れ馴れしく挨拶なんかするな。オレ達はこれから殴りあうんだぞ?」


 まぁ、言われてみればそれもそうか。と言っても殺しあう訳でもなければ憎みあっている訳でもない。

 多少ムカつきあってるだけだ。挨拶ぐらいしても大丈夫だろう。


「カヨーネ。ウタイ。俺は着替えるぞ。荷物はどこだ。どこで着替えれば良い」

「お待ちください殿下。先に場所を提供してくれたトレジャーハンター様方にお礼を申し上げねば」

「殿下! 待ってよ!」


 腕を組んでスタスタとトタン平家に向かう王子をカヨーネとウタイが追いかける。

 うわぁ、自己中。


「薫平、お前もさっさと着替えてアップしてろ。柔軟は怠るなよ」

「おっと、了解了解」


 親父に急かされて俺も平家へと急ぐ。親父にはセコンドをやってもらう手筈だからな。いわばトレーナーの立ち位置。指示には従うべきだ。

 なんだかこれから決闘をする雰囲気が全く感じられない。なんでだろうか。


 これから俺と王子はどちらかが負けを認めるまでお互いをボコボコにしあう筈なのに、どうにも緊張感ってものが生まれない。


「薫平さん、これお着替えです」

「私たち、ここで待ってるね?」

「ああ、サンキュ」


 平家の扉の前でアオイからリュックを受け取り、三隈に見送られながら扉を潜った。

 雑に置かれたソファやらテレビやらと、あんまり綺麗とは言えない大きな部屋だ。

 奥の方には扉が4つ並んでいて、どうやらここがリビングらしい。


「おう、お前は俺の部屋で着替えろ。部屋は土足禁止だからな。あと余計なモンに触るなよ。高い魔法具とかあるんだから。王子は先に兄貴の部屋に案内しといたぞ」

「ああ、ありがとな」


 未だ汗でしっとりしているガサラが4つある扉のうちの右端の扉を指差す。


「試合開始は一時間後だ。俺と姉貴で呼ぶから、それまでは好きにしとけ。俺は一っ風呂浴びてくるぜ」

「わかった」


 風呂、ね。

 あいつのあの毛の量、水を浴びたらどうなるんだろうか。

 以外に細い体してたりしたら大ウケなんだが。いや、そういやあいつもパワータイプだったな。

 鍛えてそうだし、見た目通り筋肉モリモリか?


 そんなくだならな事を考えながら扉を開ける。

 さぁて、試合開始までにモチベーション、上げとかなきゃな。


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