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心配、かけたね②

 俺の背中と、ガサラの肩の治療は殆ど同時に終わった。

 寝台から降りた俺は痛みと動き辛さの確認の為にグルグルと右肩を回す。


「あくまでも応急処置なんですからあまり無理しちゃダメですよ。魔法薬のおかげで痛みは少ないですけど、本当なら絶対安静レベルの怪我なんですから」


「はい。ありがとうございます」


 施術してくれた救急隊員さんは笑顔を一つ浮かべて頭を下げると、すぐに次の怪我人の元に飛んでいく。

 この公民館の体育館の中は、避難してきた人たちの中でも気分を悪くしたり怪我をした人たちが集められてるようだ。

 周りを見渡すと、小さな子供達やご老人が身内に付き添われて列を作っている。

 俺やガサラが施術を受けていた救護スペースは、どうやら重傷者を優先して診る為の場所だったらしくあまり人が居ない。

 多分この中で一番の重傷者は、俺だ。


「薫平さん。どうですか?」


「薫平、平気?」


 寝台の横で待機していたアオイが心配そうに俺の顔を伺っている。

 その背中にはルージュがベッタリとくっついている。


 つい先ほど感動の再会を果たしたアオイとルージュは、一通り抱き合って騒いだ後に周囲の空気を読んで静かになった。

 まぁ、周りは今回の事件で混乱したり怪我した人ばっかりだ。

 そんな場所で場違いにも大騒ぎして喜んでなんかいられないからな。

 未だ家族の安否確認が取れて無い人もいるみたいだし、二人に再会を喜んでもらうのはもう少し我慢してもらおう。


「ああ、やっぱぎこちねぇな。動きづらいや」


「そりゃ、あれだけ怪我してたらそうなりますよ……早くジャジャとナナの所に行きましょう?お顔見てあげてください」


「ん。私も行きたい」


 心配そうな顔のアオイの肩から両腕をかけて抱くルージュが頷いた。

 小柄なアオイの頭に顎を乗せ、ほんのり頬を上気させている。


「んじゃ、行くか。仮眠室ってこっちか?」


 スマートフォンの充電、出来たらいいなぁ。親父や三隈にも連絡しておかないと。


「お前はどうすんだ?」


「あ?俺か?」


 その趣味の悪い金色のダウンジャケットを羽織ながら、ガサラが返事を返した。


「俺は、兄貴たちと合流だ。怪我してるから多分ここの警護に回されるんだろうが、お仕事しなきゃな」


 いや、だってお前充分仕事してたじゃん。


「休ませて貰えないのか?疲れてんだろうに」


「そんなガキみたいな事言ったら兄貴にドヤされちまう。一応駆け出しとはいえ、プロなんでな。できる事はしっかりやらないとな」


「そうか。後で代わって……」


「駄目ですよ!」


「うおっ!」


 急に大声を上げて俺の言葉を遮ったアオイ。

 顔を真っ赤にして俺の腕を抱いた。


「無理するなって、言われたばかりじゃ無いですか!薫平さん、ハンターさんじゃ無いんですよ!?」


「わ、分かったから。ごめん!」


 違うんだ。大変だなーって思ってたら無意識に口から出ただけなんだ。

 だからそれ以上腕に力を込めないで!

 当たってるっていうか挟まれてんだよなんか柔らかい物に!

 小さいけど確かに柔らかい物に!


「お気遣いありがとうよ。だがこっからはプロの仕事だ。お前は彼女と家族守ってろ」


「彼女じゃなくて、妻です!」


 未だ俺の腕を慎ましいもので挟みながら、アオイは力一杯ガサラの言葉を否定する。


「お、おぉ?」


 ガサラが軽く首を捻った。


「私は、薫平さんの妻ですから!間違えないでください!」


 うーん。いつものが出てしまった。


 アオイはいかなる場合でも、自分の立場に強くこだわる。彼女でも妹でもなく、『妻』何だと。

 二人で夕飯の買い物に出る場合などに、よく兄妹や友人、彼女とか言われるんだが、そういう時は決まって自分は『妻』だと否定する。

 さっきの救急隊員さんの時もそうだが、大抵の人は困惑するか驚愕する。もしくは軽く笑い飛ばすかだ。

 何度か注意はしてるんだ。

 俺たちの関係性を感づかれれば、下手したら龍だとバレるからやめとこうと。

 それでもアオイは時々我を忘れて主張する。

 まるで自分の価値はそこにしか無いとでも言わんばかりに。


 そんな事は絶対にないんだがなぁ。

 ジャジャとナナのママだし、アオイ自体は物凄い気立てが良くて頑張り屋だ。

 そうでなくても美少女で、しかも龍だ。

 最低限の接触だけど、ご近所さんとの関係も良好だ。

 俺なんかと比べれば全然凄いんだけど、なんだか自信が足りてない。


「いいですか!私はアオイノウン・ドラゴライン・風待!歴とした風待家の嫁です!」


「あ、ああ。すまん」


「分かればいいんです!分かれば!」


「アオイ、落ち着いて」


「だってルゥ姉様……」


「よしよし」


 フンッと鼻息を荒くして、アオイは俺の腕をもう一度強く抱きしめた。

 その後ろでは未だにルージュがアオイの背中にべったりとくっ付いて、その頭を撫でて宥めている。

 なんだこの構図。


「あ、アオイ。分かったから離してくれ」


「絶対!絶対駄目ですからね!?」


 う、上目遣いはずるいなぁ。

 渋々俺の腕を解放するアオイ。


「……風待。少し話があるんだが」


 ガサラが俺の肩を掴み、耳元で囁いた。


「話?」


 真剣な顔で俺を見下ろすガサラ。

 こいつ身長が俺より高いから、見下ろされると圧迫感があるんだよな。


「こっち来い」


「お、おい。なんだよ」


 腕をやんわりと引っ張られて、体育館の端まで連れてこられた。

 アオイとルージュも不思議そうな顔で付いてくる。


「……いや、こいつとだけ話がしたいんだけど」


 付いてくるアオイ達を見て、ガサラは顔をしかめた。

 その反応を見たアオイとルージュはお互いを見やり、渋々と離れていく。


「……よし。えっと風待。憶測だし凄い失礼な事言うかも知れないんだが、その時は遠慮なく殴ってくれてもいいんだが」


「あぁ?なんだよ一体」


 二人が離れていくのを確認した後に、ガサラは俺の腕から手を離してたてがみをボリボリと掻き毟る。


「んー。あのな。その」


 何だろう。何かを言い淀んでいるガサラは周りを気にしたりアオイとルージュを見たりと忙しない。


「おい。俺行きたい所あるんだよ。早くしてくれ」


 娘達に顔が見たくてたまらないんだけど。

 それにそんなにモジモジされると何だか危険な想像しちまうだろうが。

 俺は男に興味なんて一切ないぞ。


「あー、分かった」


 ガサラはダウンジャケットの襟元を正し、背筋を伸ばした。

 まっすぐと俺の目を見据え、その瞳にはなんかいろんな感情が渦巻いている。

 決意、覚悟、怯え、困惑。

 こう見えて俺は人の感情を読むと言う点ではそこそこ鍛えられてんだ。

 中学に上がってから俺の周りに居る連中は本心を隠して俺と接する奴らばっかりだったからな。

 くだらない野心やゲスい下心を持って近づいてくる奴も居れば、本当は怖くて仕方ないのに仕方なく俺と接してくる奴も居たからな。そりゃ表情から感情を読み取る必要だって出てくるさ。

 その点、牧雄は凄いと思う。

 あんなに怖がりなのに、勇気を振り絞って俺の側に居続けたからな。しかもそれを俺に隠し通して居たし。


 今のガサラの目には、複数の感情が複雑に絡み合って酷く分かりづらい。


「あのな。風待」


「何だよ」


 いい加減、はっきり言ってくれないか?

 何で勿体ぶんの?


「お前の彼女。あん時の龍だよな?」


 おっと。

 おーっと。


 そりゃまずいぜ?ガサライオさん。

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