心配、かけたね③
「なななな、何言っちゃってんのこの毛玉。アホちゃうかホンマに。かーっ!えげつない事言わしますなぁ。何やねんホンマ。かなんわぁこの子。したっけどうやったらそんな話になるんどすかぁ。はげぇびっくりしたわ。にりんどーやー!」
「落ち着け。どこの方言だそれ」
まずい。
まずいまずいまずい!
失敗だ!これは俺の落ち度だ!ちょっと色々油断しすぎた!
考えりゃ当然だろう。
アオイがこいつらの前に姿を出した時点でアウトだったんだ。
どうする。
どうしよう。
どうしたらいいの!
助けて三隈さん!翔平くん!
我が家の頭脳担当が不在だから、どうしたらいいのかサッパリわからない!
「おお、おおおおおお前が何言ってんのか、ちょちょちょっちょっと薫平わかんないっ!」
「……お前、ごまかすの下手すぎだろ」
うるさい!
そんな可哀想な人を見る目で俺を見るな!
「だっ!おまっ!なっ!あの!いやえっとっ!違うんだ!」
「落ち着けってば。話を最後まで聞け」
ガサラが俺の両肩を掴んで宥めて来る。
「薫平さん!どうしたんですか!?この犯罪ライオンさんに虐められたんですか!?」
「薫平、どうしたの?面白い事になってる」
「ひっ!」
俺の様子を遠巻きで見て居たアオイとルージュが駆け寄って来た。
ガサラは二人の姿を見るや否や、短い悲鳴を上げてバックステップで俺から距離を取る。
「ん。薫平、深呼吸。吸って、吐く」
スー、ハー。
「何されたんですか!?大丈夫ですよ!私が居ますから!」
後ろからルージュに肩を掴まれ固定された。
前からはアオイが俺の両手を握って胸元に寄せ、肉薄して来る。
「いや、あの、ガサラは、ほら、だから」
「風待!本当に落ち着いてくれ!別にどうこうする気は無いんだ!」
俺よりワタワタし出したガサラが少し離れた所で必死に声を上げる。
あれ?
何でアイツが焦ってるんだ?
「確認したいだけだったんだ!元々俺たちは今回の仕事に乗り気じゃなかったんだよ!適当に時間潰してとっととこの町から離れようって最初から決めてたんだ!龍を見つけても触らず放っておこうって!」
「え?」
そんなガサラの姿を見て、俺は何だか落ち着いて来た。
どういう事?
こいつやこいつの兄貴達は龍を探しに戻って来たんじゃ無いのか?
少なくても西日本トレジャーハンター協会は、アオイ目的で大規模調査を計画したんだろ?
「あ、えっとガサラ。ごめん落ち着いた。ちょっと話聞かせてくれないか?」
そうだ。落ち着け。考えて行動しろ。
冷静だ薫平。冷静に行け。
ここで俺の取るべき行動は、情報を集める事だ。
頭脳担当の三隈や翔平、親父なんかがキチンと判断できるようにな。
アオイとルージュを引き剥がして、ガサラに近づく。
ガサラは何だか二人に怯えているようだし、俺とだけなら気兼ね無く話しができそうだ。
この数時間一緒に行動して、この獅子族がそんなに悪い奴じゃない事は分かっている。
トレジャーハンターという立場さえ抜きにしたら、こいつを警戒する理由がなくなる程度には良い奴だ。
初対面が最悪だったからって、最初から敵と認定するべきでは無い。
話し合いをしよう。
対話って、大事。
「わ、悪いな。お前が俺達トレジャーハンターを警戒する理由も敵視している理由も何となくだが理解してるんだ。その娘を見て全部合点がいったからな」
「俺の方こそ、スマン。とりあえず話をしてくれ。対応は聞いてから決めたい」
ついに地面にへたり込んだガサラは、俺を見上げて申し訳なさそうな顔をする。
チラチラとアオイを見て警戒するあたり、ガサラがビビってるのはアオイだ。
そりゃそうか。初めて見たときは泣きながら逃げ回ってたし、死ななかったとはいえ結構な威力の雷球を見舞われたんだからな。
「……俺たち楽園兄妹は、もう龍とは関わらねぇって方針を決めたんだ。元々あんまり信用してなかったタレコミが的中したもんで、主に俺が舞い上がった結果だったんだが、兄貴は最初から乗り気じゃなかったからな。あのバトルジャンキーの姉貴が勝てる気がしないって言ったのも初めてだった」
「ん?それは、卵の誘拐の話か?」
そういや、アオイはナナイロさんに勝ってんだよな。
アルバから聞いた話だと、龍は産卵前後は力が弱まり万全な状況になるのにそう短く無い時間が必要らしいんだが、そんな状態でもアオイはナナイロさんに競り勝っている。
セイジツさんはどうやら色々と実力と判断力のある人だから、そんな実力差のある生き物と再び敵対するなんて判断はしないだろう。
「ああ、数年前から何度かハンター協会に送られて来てた胡散臭い情報でな。俺らや他のハンターも本気にしてなかったんだ。大きな仕事を終えてちょうど暇してたから、軽い気持ちで確認しに行ったら本当に龍が居てビビったぜ」
「情報?」
牙岩の頂上にアオイとユールが居るって、他に知ってる奴が居た?
それも結構前から?
「んであのザマだろ?だから俺達は大分反省したんだよ。龍に関わるにはまだ実力が足りなかったってな。俺たちが軽い罪になったのはハンター協会の口利きだったから今回の依頼を断る事は出来なかったけど、そもそもダンジョンに潜れない俺たちができる事なんか殆ど無い。だから適当に時間潰すつもりだったんだ。本気で龍を探しに戻って来た訳じゃねーんだよ」
俺は顎に指を掛けて考える。
さっき見たナナイロさんとセイジツさんは、素人の俺から見ても凄腕とすぐに分かる実力の持ち主だった。
いくらアオイが龍で、今日からはルージュも居てくれるとは言え、あまり敵対したいとは思わない。
ガサラにしても、不器用で粗暴、かつテンパりやすく若干頼りないとはいえ、プロのハンターだ。
双子の事を本当に見逃して貰えるなら、事情を話しても良いんじゃ無いか?
うーん。
どうするか。
いかんせん、こいつらを簡単に信用して良いのかどうかの判断がつかない。
そりゃ、個人的には嫌ってない。
むしろガサラに関していえば好印象と言っても良い。
ただ、俺は俺の人を見る目に関して自信が無い。
今まで他人を信用できるかどうかという観点で見た事が無いからな。
だって、家族以外の人間からは嫌われるか怖がられるかしか無かったんだもん。
もちろん俺の噂を知らない好意的な人達も居た事は居たけど、そこまで深い仲の人たちじゃ無い。
ジャジャとナナ、そしてアオイの今後に影響するとなると、俺は俺の判断を疑う必要がある。
「薫平、話が見えない。説明してもらっても良い?」
「うわっ、ルージュ」
考え込む俺の視界にルージュがニョキっと姿を現した。
「えっと、アオイの子供達の卵を盗もうとしたの、こいつらなんだ」
ガサラに聞こえないようにルージュに耳打ちする。
「む」
しかめっ面に少しばかりの怒りを込めて、ルージュが唸る。
「アオイ、この獅子族に虐められた?」
グルンと首を回してアオイを見るルージュ。
アオイは少しビックリしたようで、肩を竦めた。
「え?別に虐められてはいないですよ?それに実際に戦ったのは何だかカラフルな鳥族の女の人でした」
目線をガサラに移してアオイは答える。
「でもジャジャとナナの卵を持って逃げたのはこのライオンさんです」
いつもにこやかなアオイにしては珍しく、眉間に皺を寄せている。
うん。
まぁ気持ちは分かる。
ついさっきまで俺も全く同じ感情をガサラに向けてたからな。
双子達の姿を思い浮かべて見ると、今でも少しばかり複雑な思いになる。
「え、いや!あん時はそんな!助けてくれ風待!」
何かを察したガサラは、アオイの視線から逃げるようにワタワタと移動する。
やはりコイツ。アオイの事がトラウマになってんだな?
「嬢ちゃんが龍だって知ってんのは俺たちだけだ!兄貴に至っては龍の姿の時しか見てない!姉貴はあんまり細かい事を覚えないからその姿を知らないし、俺は誰にも言ってない!警察には信じてもらえなかったし、そもそも俺たち楽園兄妹は協会のお偉方から嫌われてるから情報だって伝えて無いんだ!信じてくれ!」
「アオイ、あの時その姿を見せたのって」
「薫平さんだけです。巣で襲われた時は結構前から気配を感じて大龍の姿になってました。一度撃退したあと、卵が無くなってるって気付いてからはずっとあの姿です。このライオンさんも、多分あのスーパーの前でしか私のこの姿を見てません」
うーん。判断材料が少ない。
やっぱりこういう時は三隈の助言が欲しくなってくるなぁ。
俺のスマートフォンはもう電池切れだし、公民館の電話は聞いた限りだとしばらくは空きそうも無い。
どうにかならんものか。
「獅子族の人。子供というものはそれがどんな生き物でも守るべきモノ。貴方のした事はとても悪い事。二度目は無い。絶対に無い」
「わ、分かってる!あん時は俺もどうかしてた!絶対やらない!風待ぃ!」
ルージュの静かなプレッシャーから逃れようと、俺に救いを求めるガサラ。
俺としては、こいつの言う事は信用できると思っている。
ここに来るまでの間のガサラは、雛ちゃんや子供達とは距離を取っていたものの凄く気にかけていたからな。
と言うか、アオイの姿を知るヤツがコイツだけって言うのであれば、敵対するメリットが無い。
ガサラやナナイロさん、セイジツさんを取り込んじまえば、アオイのこの姿を知る敵は居なくなるからな。
ならばコイツら楽園兄妹を、絶対に味方に取り込む必要がある。
ではどう説き伏せる?
俺はガサラはともかくナナイロさんとセイジツさんの性格を把握して居ない。
龍に関するアレコレが莫大な価値を持つのならば、欲目に釣られて協会や他のヤツに情報を売られたら厄介だ。
どうにかして、それをできなくする方法は無いものか。
例えば、罪悪感を持たせる、とか。
ん?
罪悪感?
あ、そうか。
何だ。結構簡単な事じゃん。
今考えついたこの方法なら、いけるんじゃ無いだろうか。
ウチのおもちゃのラインナップ的にもイケる気がする。買ってきた親父に感謝しよう。
つかこれしか無いんじゃ無いだろうか。うん。
なぜなら俺の娘達は、超可愛いからな。





