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恋人ごっこ

冒険者達の活動拠点になる迷宮の町の中心地に向かい、私はシリクさんと歩いている。


私の肩を抱きながら歩くシリクさんは嬉しそうに話しかけ、私も頷いたり返事をしている。




ーーー少し前


「お前が欲しい。お前、俺の物になれよ」

「あ……う、うーん」


私の返事が了承したと間違われたようで、


「やったぜ!」


言うなり抱きしめてくる。


「ちょちょー、ちょーっと待って! 私いいなんて言ってないんですよ!」

「でも今うんって言ったろ?」

「うんではなく、うーんですっ!」


抱きしめていた体を離し、ガックリしているシリクさんを見てちょっと可哀想に思ってしまう。


「町の中心地に着いて、知り合いに会うまでの間だけでいいなら……その、恋人のフリだけだったらいいですよ?」


冗談のつもりが喜ばれてしまい、言い出しっぺの私は恋人のフリをすることになってしまう。そしてこれが後々ピンチに陥ることになるとは夢にも思わなかったーーー




あるぇ? また曲がった。


シリクさんはすこぶる機嫌良く話しかけてくる。時折腰を抱き寄せピッタリ張り付いてきたりしたけど、約束した以上嫌がるわけにもいかず、おとなしくなされるがままになっていた。


「あのぉ、なんだか遠回りしてませんか? 中心地から逸れてる気がするんですけど……」

「ん、あぁこれから良いところ連れてこうと思ってな」


ええぇぇぇぇえ! 確かに中心地に着いて知り合いに会うまでの約束だけど、遠回りとか寄り道は……ダメって言ってなかった……


シリクさんに連れて行かれるままついて行くと、古城の方角に向かっていっている。

古城が見える、開けた湖のほとりまで来るとそこには幻想的な空間が広がっていた。


「凄い、綺麗な場所」


そのあまりの光景に、自分でも気がつかないうちに自然と言葉にしていた。


「だろぉ? ここ俺のとっておきの秘密の場所なんだぜ?」

「へぇ〜、水浴びなんかしたら気持ち良さそうですね〜」


しまったと即座に思った。まさに思う壺になってしまいかねない。


「いいねぇ、俺もサーラの裸が見れて万々歳。ってとこなんだけどよ、そいつはやめたほうがいいぜ」


ところが意外な返事が返ってくる。


「確か騎士魔法には感知(センス)っていう、生物とかの位置を知るやつあったろ? 使ってみな」


言われるまま感知(センス)を使ってみると、湖に魚のように動いていない何かが結構いるのが分かった。


「うわ、何これ」


シリクさんがここに初めて来たときの話で、いい場所を見つけたと思って水浴びしようと水辺に近寄った時、とんでもないものが現れたそうで、必死に逃げてその時は凌いだと言う。


「ありゃあ怪物だったわ。

でもまぁ水辺まで行かなきゃ景色の良い場所……サーラッ!」


ザッパァァァとその時後ろで音がしたかと思って振り返ると、巨大な爬虫類の顎が大きく開いていた。

感知(センス)以外何も使っていなかった私が振り返った時は既に遅く、噛みつかれる寸前まで来ていて回避も間に合いそうになかった。


時の流れが遅くなったように、ゆっくりと頭に噛みつこうと近づいてくる顎をただ呆然と見つめる。


「ボケっとしてんな!」


間一髪でシリクさんに腕を引っ張られ、私の頭があった辺りでバクンッと顎が閉じられる音が聞こえた。


私を噛みつこうとした顎の正体は、5メートルに達するであろう巨大なワニだった。


「走れ! 顎に喰われるぞ!」


手を引っ張られるがまま走る。

振り返るとワニが追いかけていた。


はっ早い! ワニってこんなに早く走れるの!?




限界が近く、もう無理と思ったところでシリクさんが立ち止まる。

振り返ればワニが諦めたのか湖に戻っていった。



「危なかったぜ。一歩間違ったら死なせちまうとこだった。サーラ済まない」


息を切らせ、地べたに座って休みながらシリクさんが謝ってきた。


「助けてくれてありがとう」

「怒って、ないのか? わざと遠回りして、あげく危険な目にあわせちまったんだぞ?」

「わざと危険な目にあわせようとしたわけじゃ無いんですよね?」

「当たり前だ。ただ長くいたかっただけだよ」

「なら、怒ってません」


ハァとため息をつくシリクさんの声が聞こえたと思ったら、立ち上がって私を見つめてくる。


「かなわねぇな。かなわねぇけど、ますますお前を俺の物にしたくなった」

「あはは……」


返答に困り、から笑いしているとシリクさんが抱きしめてきて、耳元で囁いてくる。


「待ってろ。いずれ振り向かせてやる」


うわわ……まただ。また胸がなんか締め付けられちゃう感じがするよ。


顔が真っ赤になるのが分かる。


シリクさんが離れ、手を差し出してくる。


「そろそろごっこ遊びは終わりにしようぜ」

「え?」

「今は恋人ごっこだろ? 続きはいずれ、俺に振り向いた時だ」


シリクさんの差し出した手を取って私たちは町に戻っていった。





中心地に辿り着く頃には夕方になっていた。未だ友人知人と出会うことがなくシリクさんと一緒に歩いている。


「案外こういう時って会わねぇもんだなぁ」

「そ、そうですね」


予想に反して誰とも出会さない。どうしようと困っていると急にシリクさんが立ち止まる。


「まぁ、ここまででいいわ。ごっこ遊びだったが十分楽しめたよ、じゃあな」

「あ……はい」


振り返ることなくシリクさんは人波の中にあっという間に消えていき、代わりにアリエルの姿が見えた。


「あ! サーラ、すぐって言ったのに遅かったじゃない」

「ご、ごめんなさい」

「んー? 怪しい臭いがするなぁ」

「ななな、ないないない。全然ないよ。そうだ! アリエル、大事な話があるんだった」


うまく切り替えしてなんとかその場をしのぐと、食事を済ませて宿屋に戻った私はアリエルに従属の話をする。



本日分の更新です。


明日また更新します。


一応ワニという存在を知らない設定で、(アゴ)とわざと表現しています。

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