recorent(4)
「あ、鴻上くんに神崎さん!」 「奈津さん!ハルさん!」
「あ?」「え?」「ん?」「…。」
背後からの声に振り向くと、大人しそうな知らない男に、美也。
「あ、じゃあこちらがさっき言ってた??」「はい!私のお友達のハルさんと奈津さんです!」
周りの者は頭がついて行かないのか、気の抜けた顔だ。俺は静かにマフラーを口元まで上げ、瞳を閉じる。無事でよかった。
「おいてめぇ、」「ちょっと、バカノ。」
「え?神崎さんバカノって。え、ちょ、ちょっと待って!何そんな怒って、」「歯喰いしばれ!!」
バカノと言われた彼がひどい目にあったのは勿論言うまでもない。静かに迎い入れるこっちとは対照的だな。もっとも、騒がないだけだが。横目で見たハルは、手をわなわなとさせながら美也の心配をしている。昔からああだったのだろう。
「鴻上くんいたひ。」
頬をつねられながら口を開いていた彼だが、女…神崎の姿を見るや否や目を大きく見開き、顔つきを変え、鴻上の腕を振り抜けて彼女に駆け寄る。少し驚いた女が反射的に傷ついた腕を隠したが、彼はその手を掴み、前へと伸ばした。こいつ…
「神崎さん、この腕、どうしたの?」
いつになく真剣な叶の声に私は少なからず動揺した。限界を超えたコップの中の水が音もなく零れる。それと同じように、彼の言葉からは静かな怒りが滲み出ていたから。
「これは、ガラスで切っただけよ。」
奈津さんにやられてしまっただなんて言えないし、考えて出た言葉はどうしても強い口調になる。この後にいつも後悔するんだけど。
「違うで「俺がやった。」
五十嵐奈津。
「え?奈津さん?!」「どういうこと?」
「敵と勘違いしたから斬った。」
「でもさっき和解したし、私から仕掛けたから!」
「そんなこと聞いてない!!」
庇い合う私たちに叶の怒号が響く。
「なんで人間同士が傷つけあってんのさっ…」
悔しさを押し潰し、漏れたような声だった。
「この世界で、怪我をすることは何よりも避けなくちゃいけないことだよ。医者もいなければ、治療器具もない。一つの切り傷が命を奪うかもしれないんだ…。」
空気が、今まで感じたことないようなものへと変わる。あぁこの人は素敵な人だ。人の命を大切に思っていて、きっと意思は誰よりも強いんだ。
「神崎さん、行こう。」
「え?どこに?」
「ここは学校だし、保健室にまだ使える道具があるはずだよ。」
大丈夫だと首を振る神崎さんという女の人を、彼は半ば強引に連れて行く。勿論誰も何も言わない。でも、空気は重くない。なんというか、表現するのは難しいけれど叶さんが作る空気は少し違った。
「叶さん!私、保健室の場所知ってます!」
駆け足で2人に近づき、笑顔の魔法をかける。
「一緒に行きましょう!」
美也が初対面の人に笑うなんて…あいつやるじゃん。最初はどんなまったり屋さんだよとか思っちゃったけど、俺が馬鹿だっただけみたいだ。うん!安心!安心!
「美也が行くならおーれも。また連れ去られてもたまんないし。」
「…俺にも責任あるからな。同行させてもらう。」
「勿論、俺も行くぜ。バカノ再発防止のために。」
「みなさん…!」
「…じゃあ、行きましょ。叶。」
「うん…そうだね!」
美也の魔法に皆がかかる。気づけば雨も止み、分厚い雲から光が射し込んでいた。
「そういや、美也はなんで保健室の場所知ってんの??」
軽い気持ちで聞いた一言に美也が笑顔で返す。
「拐われた先が保健室だったからです!」
…え。
遅くなり申し訳ありません。脳内で話が進んでいくばかりです。一刻も早くこの妄想と化している話を形にしたい…。




