rencontre(5)
「え?美也、今なんて…」
「?拐われた先が保健室だったからです…?」
それ大問題じゃないですか。
「待ってるように言われたんですけど、怖くて逃げちゃいました。今はみんながいるから平気です!」
俺は平気じゃないんだけど。叶くんや鴻上くんも笑顔が硬くなっている。なんで美也はいつも肝心なことを…とか言ってもしょうがないか。神崎の手当てするためには保健室に行かなくちゃだし。それに、何より俺らが誘拐犯さんに用があるからね。
「行くよね?」
「勿論」 「へぁ!う、うん!!」
なんか叶くん変な声出したけど。気にかけるもこいつはビビリなだけだから気にすんな。と言われる。なんだか不思議な人だな、叶くんは…
そのまま美也の案内に沿い、俺たちは保健室に辿り着いた。ついさっきまで強気だったバカノは今ではすっかり縮こまっている。このインクが落ちて血が滴ったように見える保健室の字を見ればわからなくもないが…人の気配は勿論、物音すら中からは聞こえてこない。女とビビリを後ろにやり、息を吐いて、扉を強く開けた。
「誰もいねえ。」
「良かった。」
胸を撫で下ろすように安堵の胸を撫で下ろした美也に続き、バカノが息を吐く。ビビり。だが、1番に中に入って行ったのはそのビビりだった。棚を見て何かを探してる。多分消毒液だ。俺はあいつのことを特に気に留めず周囲を散歩しに廊下へ出る。ここも数年前まではガキがわんさかいたんだよな。複雑な思いを抱きながら、そっと赤黒い壁に手を伸ばし、眉を寄せる。これは月日と比例して現れたただの汚れなのだろうか、それとも
「殺されたのか…」
この言葉を放つほど虚しくなる気持ちはなんだろう。見ず知らずの他人なのに。
「はっ、バカバカしい。」
そんなこと微塵も思っていないのに。
「誰が死のうが関係ねぇ。俺が生きていればそれでいい。」
壁を背に立っていたハルは小さく息を吐いた。
馬鹿な…
私の心を支配しているのはアニメの悪役が、主人公に不意をつかれた時に発するそれと同じもの。驚きというより、驚愕。だってまさか、叶の手際がこんなに良いなんてっ…。洗礼されたかのような無駄の無い手の動き。シワひとつなく伸ばされる、端の茶色い包帯。気づけば治療と言える処置は終わっていた。小さい子供が硝子越しにあるおもちゃを眺めるように、私と美也はそれに魅入っている。すごい…という小さな声に我に返った。
「なんか2人とも信じられないって顔してるんだけど。」
「だって…」
叶だし。できることなんにもないかと思ってた。すごい。自己主張しないだけで、他にもできることがあるのかもしれない。上からになっちゃうけど、なんだか見直した。
「ありがとう。」
器具を戻している彼の背に言葉を投げかける。肩越しに振り返った彼は優しい笑顔を浮かべて言う。
「どういたしまして。」
何処か悲しげに見えるのは気のせいだろうか。言葉にさせまい、とでもいうようにコンコンっとノックが響いた。
今月は大量更新します。




