救罪
花は移ろうもの。
咲いては閉じ、いつかは枯れる。
それは目の前の花も例外ではないのだろう。
「……あ」
瞬き一つ、たったそれだけの刹那の時間。
目の前を一筋の光が駆け抜け貫く。
「ふふ、流石に光には追いつけませんね」
聞き慣れた銃声とほぼ同時。
煌めくような剣閃が花を上へと跳ね飛ばした。
「追いついてたらいよいよ持ってバケモンだぜ、あんた」
聞き慣れた声とタバコの匂い。
少女はそっと息を吐き、光がきた方へ視線を向ける。
黒いコートに黒い帽子、怪しげな装いの男。
「……遅かったね、リーダー」
「いや〜、わるいわるい、ちょっと色々あってな」
苦笑いを浮かべる男がため息混じりに手を差し出す。
「そうなんだ……色々ね」
コートの男に引き上げられながら、少女は未だ迫る怪物達を尻目に向かい合う、騎士と聖女を眺めていた。
「レティシア!」
「ふふ、どうやらこっちも面倒なことになってるみたいですね、ロザネラさん」
なんてことない会話をしながら、レティシアは次々と花の魔物を切り伏せていく。
鎧や顔に付着した緑の液体、どうやらレティシアの方も似たようなことになっていたようだ。
「まったく……嫌になるほど、面倒ね」
緩んだ口元を誰にも気づかせぬよう、そっと息を吐き、杖を構え直す。
依然として数は多く先は見えない。
「やる気があるのはいいと思うが、このままじゃジリ貧だぜ?」
数発の銃声を響かせながらコートの男がため息をつく。
「同感」
短く肯定の意を返しながら少女は先ほど同様に魔物の首を掻き切っていく。
共に疲労の色こそないがこの状況に嫌気がさしているのは確かだろう。
「ふふ、そこで祈りを捧げてる方が剣を抜けばすぐに片付くと思いますけどね」
レティシアの目が老人の方へ向けられる。
老人は祈りを終えゆっくりと立ち上がるとゆっくりとその目を騎士に向けた。
「……なぜそう思う?」
「あなたが相当強いから……と答えたいところですけど」
振り向き様に後ろに来ていた魔物を切りながら、レティシアは魔物の死体に触れる。
「この魔物達、ただ救いを求めているだけのようなので」
レティシアの発言にコートの男とロザネラが顔をしかめる。
確かに行動に意味はありそうだったが魔物がそんなことをするとは思えない。
「……そうか、貴殿は」
そんな2人とは違い老人は騎士の発言に目を丸くする。
「ふふ」
老人の様子に騎士はただ微笑むと剣を一つ老人に向けて投げ渡した。
「……仕方あるまい」
受け取った山賊刀をゆっくりと引き抜きながら老人は思考を巡らせる。
旧友の死、黒薔薇の聖女、帝国、花の魔物……そして今、目の前に立つ英雄たり得る騎士。
「手を貸す気はなく、全て流れるままにと思っていたが……救いを求められたなら応えねばなるまい」
老人が静かに剣を構える。
足元を覆う泥が次々と消え失せ、光が辺りを満たす。
「其は救済その剣、魔女は既にここに無く救済の座は空なれど、剣はここに変わりなく」
老人を中心に風が吹き荒れる。
その光景をこの場でただ1人知るロザネラは目を閉じる。
「救罪の名の下に、今ここで汝の罪を断ち切ろう」
それは執行官にのみ許された断罪の魔法。
どのような罪であれ、この剣の前では斬られるだけのものになる。
例えその対象が……魔女であろうとも。
「──救罪剣リリース・プライド」




