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囚人ちゃんと盲目お嬢  作者: 睦月微糖
9/16

王国へ帰宅

「ちょっとオバケさん……そんなに急がなくても」




少女の言葉を後ろから聞きながら行き先を阻む草木をチビ影をかき分けながら進む。




「オバケさ、きゃっ!?」




後ろの少女が小さな悲鳴をあげた瞬間、影の範囲を広げ少女を抱えるように包み込む。そして、少女が悲鳴をあげた元凶である地面から出た小さな木の根っこを凝視する。




「何かにつまづいてしまったみたい……オバケさん、驚かしてごめんなさい」




申し訳なさそうに謝る少女を宥めるように本体と同じように音を出そうとする、が。




プ、プキュー……プポッ。




このチビ影。生まれてから数分しかたってない、そもそもどうあの本体はどうやって音を出してるんだ? と疑問を持つくらいに音を出すのが下手だった。全生物同様、影も呼吸をする。しかし、影は空気ではなく魔力によって生きるため、口などはない。そのため音を出したとしても、出るのは息のような音だけだ。




本体と同じ音を思うように出せない事に不満に思っていると、頭上から聞こえるクスクスと笑う声。




「ごめんなさい、オバケさん。可愛い音が聞こえてつい……うふふっ」




影は視線だけ上に向けるとそこには少女が笑みを浮かべていた。チビ影は恥ずかしそうに音を鳴らすが、風船から空気が抜けるような音しか鳴らない。




不機嫌そうに目を細め音を止める。そして少女を抱えながら歩みを進めた。




~~~~~~




森を抜けしばらく歩き進めていくと、王国の入り口が見えてきた。入り口には王国の兵士が数名、少女の姿を見つけると慌てて駆け寄ってきた。




少女よりはるかに大きい、しかも大人数の人がこちらに向かってくる、何もかも初めての事に驚いたチビ影が少女を静かに下ろすと素早く少女が手にしていた傘の中に潜り込んだ。




「クラウディア様!また抜け出してお一人で外出ですか!あれほど、出かける時はお気をつけくださいと言っておりましたのに!」


「ごめんなさい」




クラウディアと呼ばれた少女は兵士達に向かって苦笑いを向ける。兵士ははぁとため息をつきながら、少女に手を伸ばした。




「御当主様が出発されるお時間まであと少しでございます、ご同行を」


「うん、今行くわ」




クラウディアは大人しく返事をして兵士の手を握り共に王国の中へ入っていく。別の兵士がクラウディアの荷物にならないように傘に手を伸ばそうとしたが、突然手の甲を叩かれたような痛みを感じ思わず手を引っ込める。




「痛っ!?」


「どうした?」


「あ、いや……今クラウディア様の傘に触ろうとしたら、なんて言うか……バチーンって感じで叩かれたんだよ」


「はぁ?なんで傘を触っただけでそんなことが起こるんだよ」




兵士は不思議そうに首を傾げる。その時、傘の中に潜んでいたチビ影がクラウディア以外の人間が傘に触ろうとしてきたことに不満そうに目をつり上げていた事は誰も知るよしもない。




クラウディアを連れて王国内を歩くこと数分。馬車が止まっているであろう広場までたどり着くと、そこには多くの兵士や使用人達の姿があり、その中にクラウディアの父親であるテンペスター家の現当主の姿と。




「あら、クラウディア。まったく勝手にどこに行ってたのかしら?」




ドレスを身に纏った、煌びやかな金髪の女性がクラウディアに話しかけてきた。




「お義母様……その、申し訳ありません……」


「謝るなら私じゃなくてあの人に、でしょう?」




クラウディアを冷たくあしらう女性。クラウディアの義母である、クレアはふんっと鼻を鳴らしテンペスター家の当主を見た。テンペスター家の当主、ジャック・テンペスターはクラウディアに気づくと馬車に積もうとしていた荷物を使用人に手渡すと、こちらに近づいてきた。




「クラウディア、またどこに行っていたんだな?」


「ご、ごめんなさい……お父様」


「好奇心旺盛なのは良い事だ、だがあまり心配をかけるんじゃないぞ?」


「はい、お父様」




素直にクラウディアが頷くと、ジャックは微笑みながら彼女の頭を優しく撫でた。頭を撫でられたクラウディアは嬉しそうに頬を緩める。




「クラウディア、今回の仕事はかなりの距離を移動することになる。……クレア達と共に待っててくれるかね?」


「はい、わかりました。お父様」


「すまない」




ジャックは申し訳なさそうに呟くとクラウディアは首を縦に振り、ジャックの大きな手を優しく握る。




「大丈夫です、お父様。また帰ってきたら、外の世界の話を聞かせてくださいね」


「あぁ、わかった。約束しよう……それでは行ってくる」




最後にクラウディアの頭を優しく撫でるとジャックは使用人のいる馬車に乗り込んだ。そして扉が閉まると馬車はゆっくりと王国から出発していった。




「お父様、お気をつけて……」




小さくなっていく馬車に向かって小さく呟いた。

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