子犬王太子と元悪役令嬢と、狸の王は同時に踊る。
「私のことはルードと呼んでくれ、レイ」
「ルードさん?」
「もしくはエルかリア」
「ではルードさんとお呼びします」
相変わらず素直な奴だった。うんとうなずき、嬉しそうに廊下を歩いていく。
ディーンは不貞の罪により、公爵から訴えがあり、王太子を廃されることになった。
それ以前にいろいろやらかして不適格の烙印を押されていたらしい。
レイモンドのほうがふさわしいという声がたくさんあったそうだ。
そうだな、まずレイモンドは真面目だ。明るいし素直だ。
幼い時からそうだったがこうやってみると性質は変わっていない。
レイモンドからいい王太子になるだろう。
「ルード・エルは素晴らしい魔法研究家だって父上もお褒めになられていましたよ」
「いや、だからさレイ、ルード・エルは元ディーンの婚約者だったってこと陛下はご存知なのか?」
「いえまだお伝えしていませんが」
「どうやって王太子妃を選ぶと伝えたんだ?」
目を丸くしてこちらを見上げるレイ、ああ、相変わらず可愛いな。
思わず頭をなでそうになってしまった。
「うーん、̪シアさんを王太子妃に迎えると伝えました」
「はあ」
「そうしたら猛反対にあいました」
「普通そうだな」
ルード・エルとしての身分証タグを身に着けて歩いているせいか、呼び止められはしない。
たまに衛兵に声をかけられるが、身分証を見せるとフリーパスだ。
「ルード・エルは素晴らしい魔法研究家だからとよくいわれていましたから、シアさんだとわかれば陛下もご納得……」
私ははっきりいって性別不詳といわれている。
魔法研究でいろいろな薬やアイテム、新しい魔法を作り出したことで最年少で賞も頂いた。
だが誰もアデリシアだと気が付かず今に至る。
男だと思われているらしくラブレターまでもらった。女子にだ。
「悪いが、私は子は産めない。多分な」
「え?」
「もう年だ」
「でもまだ」
「それにな、私は研究をやめるつもりもない」
「魔法研究をする王太子妃って素敵です」
どうやってもこいつはアリシアみたいだ。
絶対にアインと結婚すると言い続けもう10年、アインの彼女に嫌がらせ、アインに絶対結婚するといまだに言い続けるアリシア。
ああ、うん……子供って怖いな。
目をキラキラさせて言われると私が悪いことやっている気分になるぞ。
「ルード・エルはシアさんだって僕わかってました。受賞をされた二年前に気が付いてました」
「はあ」
「あれからずっと見てたんです」
「ほう」
しかしいきなり突然やってきたのは今日、どうして? と聞いてみると王太子妃を今年中に選べといわれたらしい。
ああもう今年は3日しかないぞ。
それで焦ってやってきたらしい。
「僕、シアさん以外と結婚、いえルードさん以外と結婚するつもりはないです!」
「どうしてそこにいきなり飛ぶ!」
「僕の初恋ですから!」
「初恋こじらせてないで、適当な令嬢相手に選べよ!」
「いやです!」
ああうん、まあ、陛下は絶対にお断りになる。
まず私はもう公爵令嬢ではなく、破棄されて断罪された人間。
しかも12歳も年上、あげくのはてに男か女かよくわからんなぞの研究者だ。
こんな相手、絶対私なら王太子妃になんぞせん!
レイが一緒だからなすぐに陛下に会えることになった。というかおーい、予算が絶対減らされているとは思っていたが、どうしてこんなに使用人の数も減っているんだ?
侍女の案内で陛下の私室にノックしてはいると、久しぶりだなとにっこりと陛下が笑って立っていたのだった。
「ルード・エル、いやアデリシア、久しぶりだな。レイ、良い伴侶を見つけた! ルード・エルが王太子妃とはすばらしい!」
「いや、陛下、私は12歳も……」
「ふむ、レイモンドが君を王太子妃にと望むならそれでよい、公爵令嬢の地位も戻そう。あれは私が愚かだった許してくれ、アデリシア」
「いやあの陛下」
私が後ろに下がると、ありがとうございます父上と満面の笑みをするレイ。
いやあの、絶対反対されるものと……。
昔は金髪碧眼の美青年だったが髪がこう、そしてでっぷり。
もっと太ったのではないか?
私がへらっと笑うと、悪かったと頭を陛下が下げられた。
「いやあの陛下、頭をお上げください」
「いや、私はディーンの口車に乗らされて、君を追放などしたことを後悔していた。ルードとして数々の功績を遺す君なら王太子妃としてふさわしい! よろしくお願いする」
ルードとしての魔法研究の活動が裏目にでた。陛下は狸だ。
そうだ、よく考えたら隣国のフロンティアからも誘いがきていた。
くっ、そうかルードとしての私の価値を考えたら、王太子妃にして……。
「いえ私は」
「そうだ、立太子と合わせて、お披露目をしよう!」
「父上、僕シアさんがうんと言ってくださるまで王太子妃は……」
盛り上がる二人、おい、私の意思を聞け! 私はルードとしての自分はもうアデリシアではないから、王太子妃としてもふさわしくないからお断りするといった途端、ルードとしての君ならふさわしいと狸が笑った。
神様助けてくれ、外堀が埋められていく。
「婚姻の儀はどうするレイモンド?」
「私の意思を聞いてほしい、陛下、私は!」
「僕、シアさんがうんと言ってくださるまで待ちます」
「そうかそうか、うんうん」
レイモンドの頭をやさしくなでる陛下、ああうん、だめだこりゃとてもうれしそうに笑われている。
末っ子を猫かわいがりされてましたね。
あとは王女ばかりですから。
「そうだな、ではアデリシアの」
「ルードとお呼びください陛下」
私は臣下としての礼をとるとわかったと陛下が……いや意地悪く笑われた。
フロンティアからの使者がきたのがばれているのか?
「フロンティアの魔法研究所から……そうだなルード」
「何のお話で?」
「そうだな、うんまあこれはおいおい、レイモンド、一緒に食事などどうだ?」
「はい父上!」
「……」
私は黙り込むしかなかった。陛下はにっこりと笑って食事を用意させよう公爵もお呼びしようといわれてしまった。
そして私は侍女に連れられて着替えをと言われてしまい……。
ああ悪夢だ誰か助けてくれ。