子犬王太子、元王太子(兄)から悪役令嬢を守る。
「これがアデリシア……」
「お前ほどじゃないけどな変わったのは」
『ディーン様、お菓子を作りましたの。お食べになって』
ピンクのドレス、ふわふわの金の髪、身長は150センチ足らず。
ディーンより頭二つは低かったが今はほぼ並んでいる。
ふっ、私の方が少し高いな。縮んだか?
多分記憶にあるのはこんなロリ幼女だろう。
13歳ほどによく見られたもんだ。
「……どう見ても男だ」
「胸はないが一応私は女だ」
「ルード、お前、聖なる夜にすごい偶然というかついてないな」
「私は昔からついてないやつだよ。アイン」
黒のズボンにシャツ、上から白衣。
カードキーのついた鎖。
金の髪は一つにリボンで括っている。しかも黒いものだ。
エリスが似合うからといって贈り物でくれた。
眼鏡をついっとあげると嘘だろうとディーンが後ずさった。
「本物だよ」
「しかし、いやルード? ルード・エルといえば確か最年少で魔法研究の」
「一応それは私だ」
レイが私にぎゅうっとしがみつく。いやだからくっつくなよ。レイにお前が王太子なんぞふざけるなと再び怒鳴りつけるディーン。
自分勝手でプライド高いやつだったから、王太子ではなくなったらおしまいだろう。
「僕、兄上は義姉上と仲良く田舎で暮らすのがいいと思います。父上も言われてました!」
「あれと田舎で二人きりなんて嫌だ!」
「……アイン、すごい話になってたんだな」
「年末近くになると研究所にルードは籠るから知らなかったみたいな。僕も詳しく走らされてなかったけど、もうすぐ立太子の儀式で第二王子のレイモンド様が王太子になることは決定だ」
ふうんと頷くと、ディーンが私を強い目で睨みつけてきた。おい、お前のせいとか怒鳴るが私はお前のことなんぞ半分忘れていたぞ。
いや、たまにうなされて悪夢を見たがあれはアリスのせいだ。
「アデリシア、お前が私を恨みに思って!」
「実際、ルード・エルとしての私は地位もできたし、魔法研究では名前もあげた。お前なんぞと関わりあになりたくなかったぞ」
にやりと笑って、煙草を取り出し吸いだすと、馬鹿にするなと怒鳴りつける。
実際、王太子妃を決めないと確か儀式はできない。
だからこそすぐ妃を探しているんだろう。
レイには婚約者はいなかったからな。
「アイン、こいつは今どうなっている?」
「へ? ディーン王子? 一応王子としての地位はまだあるが、もうしばらくしたら田舎に確か」
「追放?」
「そんな感じ」
賭けポーカーの時に何か言いたそうにしてやめたのはこれかい、カインもエリスもそういえば王宮には行くなと最近煩く、仕事を振ってきたが……。
「あー、あのマダムが何か話しかけてカインが慌てて止めたのはこれか」
「うんまあ噂はかなり広まってるからな」
エリスにいたっては、あのねあの人の依頼は私が受けるからとかすごく興奮していたが、ゴシップ話が好きな夫人から遠ざけたかったのだろう。
「おい私を無視するな、アデリシア!」
「おう、ディーン、アリスは元気か?」
「……やはり本当にアデリシアなのか? もっとこう」
「あら、ディーン様御機嫌よう、どうされましたの?」
アインがあさっての方向を向いて笑っている。ディーンが目を白黒させている。怖いとアインが呟くと嬉しそうにレイが笑った。
「うわあ、シアお姉ちゃん、懐かしい」
「しかし、アリスはどうした? アリスのところに帰っておっぱいでものんでねんねしておけよディーン」
クスクスと私が笑った瞬間、ディーンが私に魔法を放ってきた。お、別に防御してもいいがと思った瞬間、防御呪文をレイが唱えて火の矢を消し去った。
「水属性、へえ成長したな」
「どうしてよけようとしないの? シアさん!」
「いや私は一応攻撃魔法キャンセルできるアイテムを持っているんだ。せっかく庇ってくれたのにすまんなレイ、ありがとう」
クスクスとまた笑うと、茫然とディーンが座り込んだ。
ガタガタと震え、顔も青白い。レイがどうしてそういつも自分勝手なんですと強い目で私を睨みつけた。
「おい、お前に言われたくないぞレイ」
「だっていつも自分勝手で、勝手に決めて、何でも自分自分って! そこが僕好きなんですけど」
頬を赤らめて言う台詞か? 怒ったと思ったらこれだ。ガキはわからん。
私はふっと笑う。どうもこの笑い方は男には不評だった。
エリス曰くかっこいいけど、女に見えない笑いらしい。
「私は私だ、私は私の人生、自分の生きたいように生きる。公爵令嬢とか王太子妃とかばかばかしい。魔法は答えてくれる。研究はすればするほど私の手元に残る。なぁ、ガキ、私は王太子妃になんぞなりたくないんだよ。お前の嫁なんてまっぴらごめんだ!」
「僕、諦めません!」
「……アイン、こいつどうにかしろ!」
「子供っていうのは中々言う事を聞かないもんだって僕は知っている。アリシアちゃんも僕のお嫁さんになるといまだに言っている」
遠い目で今は17歳のカインの娘の名前を出すアイン。
そういえばお前もいまだにアリシアに求婚されていたな。
「お前の気持ちとやらに応えるつもりはない!」
「僕諦めません!」
何を言っても平行線の会話だった。茫然と座り込むディーンをしり目に私はレイとにらみ合っていた。
不毛な時間だと思うが、しかしこいつ私のどこがいいのかわけがわからん。
一度陛下と話してみた方がいいかもな。
「わかった一度陛下と話してみよう」
「え? 本当シアさん!」
「ああ」
陛下だってこんなのが息子の嫁になりたいんですとか来たら反対するだろう。
私はくくっと笑い、懐から今度はブランデーを取り出す。
きゅっとふたを開けて茫然と座り込むディーンの頭の上からかけてやった。
気つけにと思ったが凄い目でこちらを睨むぞ、うーん、覚えておけとか怒鳴りつけて走り去って行ったが、相変わらずだな。
私がはあとため息をつくと、アインもあさっての方向を見るし。
前途多難のようだった。




