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違うっすよ


 「はぁ?!」


 アーサーの口から出た“盗賊王”という言葉に、ミヤビは驚愕した。

 よりにもよって奴に頼ったかという驚きと、盗賊王もよく了承したなという意外性が混じり、ミヤビの思考を停止させる。


 「俺も聞いただけだからな。実際に見た訳では無い。しかし、オオバがそんなくだらん嘘をつくとは思えん」

 「たしかに……そうだけど」


 頼もしいのか、恐ろしいのか、冷静な判断が出来ない。後でヨツバによく聞いておく必要があるだろう。


 「そんなことはどうでもいい! 速く俺を元の場所に戻せ! 戦いは終わってない!」

 「えー? 一旦引いた方がいいよ。気づいてないかもしれないけど、ボロボロだよ?」

 「もう少しで、“残刀”を習得できる気がするんだ!」


 ―――このワガママな感じ、良くも悪くもヨツバっちに似てきたな……。

 とミヤビは思いつつ、ため息をつく。


 「―――見つけたっすよ」


 その瞬間、背後から聞こえる不吉な声。

 アーサーが剣柄を握ると同時、ミヤビは咄嗟に振り返る。

 そこには、等身と変わらない程の斧を構えこちらへ飛び掛って来るアズラの姿―――。

 その、面倒事を処理するような冷たい瞳は、ミヤビの呼吸を一瞬止めるのに十分なものであった。

 危ないと思うより早く、ミヤビはアーサーを掴むと、その場から“飛ぶ”。

 慌てていたせいか、移動先は街の上空になってしまった。


 「くっ……。せっかく向こうから来たのだぞ!?」

 「“アレ”はヤバいよ……。やっぱり立て直した方がいい」


 ミヤビの経験則上、“あの目”ができる人間は人殺しに躊躇なんてしない。そんな奴と対峙するならば、こちらも万全の体制にしなければならない。

 アーサーを連れて、一度学園へ戻ろうとした、その時だった。


 「―――中々速いんすね」


 再度頭上から聞こえるアズラの声。

 今度は大きな鎌を手にし、ミヤビ達の首にその刃を掛けていた。

 ミヤビの頭に?マークが浮かび、鎌の刃が首に掠ろうという瞬間、ギリギリのところで“瞬間移動(テレポート)”が行使される。

 次に飛ばされた先は何処かの民家の屋根。しかし、連続で“飛んだ”為上手く着地ができず、二人は屋根の上に打ち付けられた。


 「どういう事だ?!」


 すかさずアーサーが叫ぶ。


 「貴様、“移動魔術”の“転生者”であろう?! 何故奴が追いつけるのだ」

 「そんなの私が聞きたいくらいだよ」


 明らかにおかしい……。

 最初屋根に飛び、今さっきも空中に飛んだが、どちらも“元の場所”より大分離れていた。

 それなのにアズラは、一瞬のうちにミヤビ達を見つけ、次の瞬間には肉薄してきたのだ。―――凡そ人間ができる領域では無い。仮に魔術で身体能力を強化しようと、“テレポーター”に一瞬で追いつくなど不可能である。


 「考えられるとすれば―――」


 考えうる最悪の予想が脳裏に過ぎる。


 「あの子も私と同じテレ―――」

 

 「違うっすよ」


 その発言すらも遮る、アズラの声。

 ミヤビはうんざりしながら、声の方を向けば、槍を手に持ったアズラが平然と立っていた。


 「“瞬間移動”なんてチンケなもんじゃ無いんすよ」

 「へー、チンケなものねぇ。それは中々酷い評価だ……」


 ミヤビは冷汗を掻きながら、後ポケットに手を回す。

 逃げるのは無意味だと分かったし、恐れるのも馬鹿らしく思えてきた。せっかく過去と折り合いが付けられ、戦う決意が出来たのだ。―――やるなら“昔のやり方”で。

 ミヤビはポケットから、三本の“ペン”を取り出した。

 アズラはご機嫌な様子で胸を張り、自慢でもするように語りだす。


 「こう見えても私、“熾従者(セラフ)”の一人なんすよ。これ、中々凄いことなんすよ? 何万といる信者の中でたった四人すからね。そんな私に、オーゼ“さん”は素晴らしい“魔術”を授け―――」


 その時、アズラの言葉が止まり、彼女は膝を着いた。

 自分の意思に背いた身体の行動に、アズラは困惑しながらを顔を下に向けると、膝の関節に“ペン”が挟まっていた。


 「―――っ?!」

  

 驚愕と痛みに叫ぼうとするが、掠れた声しか出ない。“喉元”にも同じような“ペン”が刺さっていると気づいたのはその直後だった。


 「“チンケな魔術”でも、応用性は高いわけよ。例えば関節の間に、私が元の世界で愛用してたシャーペンを入れて立てなくしたり、喉に刺して致命傷を負わせたり……」


 手元に残ったペンを回しながらミヤビは得意げに鼻を鳴らす。

 勝利を確信しているのか、苦しみながらも笑っているアズラに気を止めもしない。


 「おい貴様、俺の敵なんだぞ?!」

 「いいじゃん、いいじゃん。倒せたんだからさ。チームプレイだよ」

 「そうっすよ。“不意打ち”ってのも大事な戦略っす」


 あまりにも平然と、溶け込むアズラの声色。―――しかも、彼女が居た逆方向から。

 二人が咄嗟に振り返れば、“無傷の”アズラが大剣を担いで佇んでいた。


 「でも、私が楽しく話してる最中はやめてもらいたいっすね。話の腰を折られるの嫌いなんすよ」


 ミヤビはとうとう分からなくなった。

 “瞬間移動”に追いつき、致命傷を与えても無傷で再び現れる。そんな魔術あるはずが無いのだ。


 「にしても酷いもんすね……。可憐な女の子の喉元にペンを刺すなんて……」


 今度は再び背後から声がする。

 そこにあった光景を見て、ミヤビは目を見開いた。

 ペンを刺され、“倒れ付すアズラ”。そして、そのアズラを哀愁漂う瞳で見下ろす、もう一人の“アズラ”。そこには、合計二人のアズラが存在していたのだ。

 ―――違う!

 凝り固まった視野を広げてみれば、ミヤビ達の背後にも“大剣をもったアズラ”がいる。つまり、計三人である。

 この時点で、ミヤビの脳裏に一つの魔術が浮かんでいた。とんでもない理論ではあるものの、不可能を可能にする単純な魔術が―――。


 「―――“増殖魔術”ってわけ……」

 「「御明答っす」」


 正面と背後のアズラが同時に答える。


 「オーゼ“さん”の“聖遺骸”のひとつっすよ」

 「これのお陰で私は無限に増えることができます」

 「おっと、本体を倒せばいいなんて考えない方がいいっすよ?」

 「私は“本物”で、そっちの“私”も“本物”。全員“本物”で、誰一人として劣化なんてしてません」

 「思考も独立してるんすよ? しかも、全員が思考を共有もできます」


 同じ声色が交互に前後から聞こえるため、それだけで頭がおかしくなりそうだ。

 “二人のアズラ”が語る最中にも、様々な武器を持った“他のアズラ”がどんどん集まってくる。

 気づけば“数十人のアズラ”に、ミヤビとアーサーは囲まれていた。二人は自ずと背中合わせになる。


 「さっきは一旦引こう……とか言ってたけどさ……」


 ミヤビは腰に手を回し、ペンを数本掴み取る。


 「やっぱり辞めよう。久しぶりに興奮してきた……!」

 「そう来なくてはな……」


 アーサーは鼻を鳴らし、剣を中段に構える。


 「一応聞いとくけど、“崩剣”使う予定は―――?」

 「あるわけないだろう。これは飾りだ」


 アーサーは腰に携えた“崩剣”の術具に一瞥もせず目の前の“アズラ達”に目を向け続けていた。

             

思ったように進まないですね。

さて、今回は3話ぶりのミヤビ&アーサー視点です。彼ら関連の話が終わると一区切りできそうです。

何だかんだ、タチバナやブリール辺りが動いてませんからね。これからが楽しみです。


次回は日曜日です。

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