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相手してあげるよ


 旧校舎、新聞部部室。

 窓から夕焼けがさす中、イスの背板に足をかけたミヤビが、お腹に置かれた木箱を見つめていた。

 寂しげな面持ちで蓋を開けると、中にはシャーペンやボールペンなどの筆記用具が詰められていた。

 その中の一本を手に取り、物思いにふけていると突然、部屋全体が揺れる。

 

 「わわわわわっ! 何なに地震?!」

 

 散らばったガラクタが更に乱れ、ミヤビ自身も椅子から転げ落ちる。

 床に打ち付けた尻部を摩っていると、先程よりも大きく再び揺れた。

 

 「ったく、何なんだよ!」

 

 耳をすませれば、隣部屋から交戦音が漏れてくる。どうやら隣で“異常な”何かが行われているらしい。

 

 「もうちょい隣人への計らいを持ってほしいね」

 

 ミヤビは素早く詠唱を済ませ、プロメとミノリの住居である隣の部屋に跳んだ。

 

 

 ――――――――――――――――――

 

 

 イールがうでをふり、旧校舎が揺れた瞬間、ミノリは壁に打ち付けられた。

 腕剣に切られたのか、それとも衝撃波で飛ばされたのか、刃渡りから考えると後者だが、それを理解出来ないほどミノリの思考は停止しかけていた。

 

 「ミノリっ!」

 

 プロメの声でハッと我に返る。

 顔を上げれば、既にイールが二撃目のため右腕を振り下ろそうとしていた。

 

 「“波動魔術”(バキニス)!」

 

 咄嗟にミノリが叫ぶ。

 イールの剣撃による衝撃波と、ミノリの“バキニスの波動魔術”がぶつかり合った。

 更に激しく揺れる旧校舎。

 

 「波動魔術で、直撃を避けたか……」

 

 イールが自身に言い聞かせるように呟く。

 

 「ミノリ大丈夫か?!」

 「下がっててくださいプロメ様……」

 

 壁を伝いながら立ち上がる。額から垂れる血に気づいて手で拭う。

 

 「……僕が何としてでも倒します」

 「詠唱を破棄する、│愚弄者の侮慢スレイブアドバンテージも、剣士である私には無力なんだよ!」

 

 剣と化した右腕を構え、イールはプロメに突っ込む。

 

 「―――室内での戦闘は御遠慮願います」

 

 イールとプロメの間に現れたミヤビ。

 予想外の乱入者に、イールはバックステップをし、再び距離をとった。

 

 「最初は、ヨツバっちがリベンジに来て暴れてるのかと思ってたけど……教会の人間、ってわけね」

 

 見たことの無い、腕から剣の生えた女にミヤビは一瞬困惑したが、彼女の瞳に刻まれた三日月の紋章を見て納得した。

 

 「普段なら、“教会”とは絶対関わらないんだけど……」

 

 ミヤビは小さく息を吐き、メガネを外した。

 

 「―――相手してあげるよ」


 裸眼で捉える久しぶりの世界は全くボヤけてはいなかった。外したメガネを部室にテレポートさせ、空いた両手をポケットに入れる。

 

 「……助太刀感謝します」

 「別に、あんたら二人がどうなろうと知らないし、助けるつもりもない。ただ、腹の虫の居所が悪いだけよ」

 「理由なんて構いませんよ。アイツを倒せるなら……」

 

 ミノリは弱々しい足取りで、戦うことへの意思表明をするように前に出る。

 突然の乱入者に一瞬は驚いたものの、イールは元の調子で剣を構えた。

 

 「お前、どこかで見たかと思えば“獣楽園”のイロツキだな?」

 「昔はそうだね。でも今は“イロツキタクシー”のミヤビちゃんだから」

 「へー、そうかよっ!」

 

 イールが右腕を振ろうとした瞬間、ミヤビが空間から消えた。

 その事を、その場の誰もが認知するより前に、ミヤビがイールの背後に出現する。

 

 「―――悪いけど、遠くに送らせてもらうよ」


 魔術で、簡単には戻ってこられないような場所までイールを移動してしまもうという戦法である。 

  ミヤビはイールの左肩に触れ、魔術を行使する。しかし―――

 

 「悪いなイロツキ。私の身体は“分離可能”なんだよ」

 

 魔術を行使した瞬間、イールの左腕“のみ”が空間から消えた。

 ミヤビは触れているものにしか魔術を使うことが出来ない。イールは触れられた左腕を自身から分離させることで、テレポートを回避したのである。

 

 「―――次はこっちの番だぜ」

 

 振りかけた剣はさらに勢いを増し、背後のミヤビへと迫っていく。

 まずいっ、と命の危機を察知するのと同時、ミヤビは本能的にその場から跳んだ。

 そして、経由するようにミノリとプロメの元に現れ、二人を連れて再び跳ぶ。

 その刹那、ミヤビを捉え損ねた剣は弧を描くように振り抜かれた。

 刃身から放たれた衝撃波は壁を貫通し、まるで巨大な包丁を上から入れたように、旧校舎をパックリと割ってしまったのだ。

 

 「あー、やっべえ。やらかした……」

 

 崩れ始める校舎の片割れを見ながら、イールは割れ目の部分から地面に降りる。

 

 「…………まだ“腕”でいいか」

 

 そう呟くと、ミヤビに跳ばされた左腕が顕現し、彼女の左腕と結合する。

 調子を確かめるように手首を回し、大きく息を吐いた。

 

 「さて……、あんまり遠くに行ってないといいけど」

 

 戻ってきた左手で頭を掻きながら、イールは倒壊する旧校舎を後にした。

 

 

 ――――――――――――――――――

 

 

 「それでこれが、フィボロスとホーシーが魔術の権利について争った“水撃魔術論争”ね」

 

 ハヤトの荒んだ精神を直すため、受けられなかった授業の補習をレイビアに行ってもらっているところである。

 俺はいい! と駄々をこねたのだが無理やり受けさせられ、俺もハヤトの横で魔術史についてレイビアから習っている。俺からしたら魔術の歴史なんざどうだって良いのだが、ハヤトは鬼気迫る顔でノートに内容を書き連ねている。

 

 「論争の結果、フィボロスとホーシー、どちらの魔術も別物として扱うようになったんだけど、結局のところ、どちらも性能は変わらないらしいんだよね」

 

 普段から授業を聞いていない俺が理解出来るはずもなく、窓から適当に外を眺めている。四階のため少し離れている旧校舎まで見渡すことが出来た。

 

 「マスター、ちゃんと聞いていますか?」

 「そうだよ。僕の補習聞いてよ」

 「あー、悪い……」

 

 ビオラとレイビアにそう言われ、仕方なくレイビアの話に耳を傾け、文字の羅列された黒板に目を向ける。

 黒板を眺めていると、妙に赤髪が視界の端に引っかかった。アーサーが廊下からこちらを……、間違いなくレイビアを覗き見しているのだろう。

 闘技会で接触はできたらしいのだが、未だハンカチは返せてないようである。

 

 俺が欠伸をしたのその時、旧校舎が割れた。

 最初は見間違いかと思った。しかし、耳に飛び込んできた校舎の崩れる轟音が、目にしている光景が事実であると裏付けさせる。

 

 「え? ……なに、あれ」

 

 レイビアとハヤトも気づいたようで、窓から乗り出し、その光景を目のあたりにする。

 次の瞬間には、(何故か)メガネを外したミヤビと…………、憎き俺をボコボコにしたミノリとプロメが教室内に出現した。

 雨にでも打たれたのかと聞きたくなるほど汗をかいたミヤビに、額から血を出すミノリ。……何かまずい事があったのは明白で聞くのも野暮かもしれないが尋ねる。

 

 「どうしたんだよお前ら!」

 

 ミヤビは荒くなった呼吸を何とか整え、俺達に事の経緯を説明する。大雑把に要約すると、“教会”の強いヤツが現れ、そいつから逃げてきたようだ。

 

 「…………つまりは、テメェじゃ歯が立たないような奴がいるってことだな?」

 

 俺に顎で指されたミノリは、受け入れ難そうに頷いた。

 

 「よし、行くぞビオラ」

 「なっ? お主阿呆か!?」

 

 プロメが狼狽する。

 

 「ミノリでも倒せんような相手じゃぞ? お主がかなうわけあるか?!」

 「知ったことかよ。俺はお前らに負けて死ぬ程悔しいんだよ。でもタイマンじゃ勝ち筋が無い。だから、お前らが勝てなかった、その“教会”に勝って、間接的に俺の方が強いことを証明してやるんだ!」

 

 それは可能なのか? と疑問に思ったら負けだ。もう俺の頭には、プロメとミノリの悔しがる姿と俺を崇める姿しかなかった。

 

 「あのー」


 レイビアが言いづらそうに手を上げる。

 

 「残念だけどヨツバくん……。先越されたみたいだよ?」 

 「何ィ?!」

 

 窓から乗り出し、校庭を見下ろす。

 そこには、腰に剣を携えた赤髪の少年が、女と対峙しているの姿があった。

 

 

 ――――――――――――――――――

 

 

 「おっ、今度は誰だ?」

 

 校庭までやってきたイールの前に、赤髪の少年が現れた。

 落ち着いた面持ちで、腰に携えた剣の柄を持っている。

 

 「先程の太刀筋拝見させてもらった。―――手合わせ願いたい」

 

 剣一本で最強を目指す少年が“教会”に剣先を向けた。

 

 

場面チェンジが多いですね。

ミヤビが戦ったと思えば、次はアーサー。ヨツバの出番はあるのでしょうか。

書いてて気づいたんですけど、“顕現”が“啓源”になってたんだすね。多分、前の話にもあると思うので、見つけた方はお知らせ頂ければ幸いです

次回は日曜です

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