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君も頑張れ、“ビオラっち”


 ―――試合開始5分前

 

 『それでは第三ブロック第1試合、両者入場ですっ!!』

 

 アナウンスが入り、観客席のボルテージも上がり中、ハヤトはうかない顔で試合リングを見下ろしていた。

 

 「やっほーハヤトっち。今始まるとこ?」

 「遅いぞミヤビ……」

 

 目の下にクマをつくったミヤビが、前触れもなく、ハヤトの横に現れる。

 青白かった顔も水で洗ったようで、先程より幾分かマシに見えた。

 

 「あとはレイビアが来るはずなんだが……、もう試合が始まるぞ」

 「あの子の事だしお弁当でも作ってるんでしょ。そのうち来るよ」

 「そのうちって……、それより速くヨツバが瞬殺されるだろ、対策は出来てるのか?」

 「……五分五分だね。完全に負けたわけじゃないけど勝てる可能性は低い、かな。かかってるとすれば……」

 「すればなんだ?」

 「ヨツバっちの“話術”、とか?」

 

 ミヤビは不敵に笑ってみせる。

 

 「ちょっとヨツバっちの様子見てくるよ」

 

 言い終わるが速いか横にいたミヤビが消え、コロッセオの底部で肩を回すヨツバの横に現れた。

 ハヤトはまた一人か、と訝しげにリングを見下ろすのだった。

 

 

 ――――――――――――――――――

 

 

 「どうよ調子は」

 「うわっ?! いきなり出てくるんじゃねえよ!」

  

 不敵にニヤニヤ笑うミヤビ。

 体調が悪そうなので、骸骨の死神を連想してしまう。

 

 「試合直前、盗賊王を目の前にしてどう? やる気出てる?」

 「…………ああ」

 

 円形のリング、俺の向かい側で佇む盗賊王に視線を向ける。

 相変わらずの黒装束で、昨日ラーメンをぶちまけたはずのコートを肩に羽織っており、奴も無機質な瞳で俺を睨んでいた。

 

 「勝てそう?」

 「…………勝たなきゃいけないんだよ。ビオラとカップラーメンの恨みだ」 

 「ちゃんとカップラーメンもおぼえてるんだね」

 

 『両者、リングへ入場っ!』

 

 再びアナウンスが入る。

 俺は深く深呼吸をして、ダルい体に新鮮な空気を取り込むと、円形のリングに足を踏み入れた。もう後戻りは出来ない。

 その姿を見届けたミヤビは小さく笑い、ローブを纏った少女の肩をポンッと叩いた。

 

 「君も頑張れ、“ビオラっち”」

 

 ミヤビの冗談っぽく声をかけると同時、彼女は観客席へと“跳んでいった”。

 

 「正直、逃げ出すかと思っていたよ」

 「あ゛? 敵前逃亡なんてした日には恥ずかしてお婿に行けなくなるだろうが」


 場を和ませようとしたが盗賊王は笑わない。奴は、リングの外に立つローブの少女を顎で指した。

 

 「アレは何のつもりだ?」

 「…………俺の魔導書だよ。悪いか」 

 「嘘だな。お前の魔導書は“コード”で壊したはずだ」

 「やっぱりテメェの仕業かよ……」

 

 今すぐ殴りかかってやりたい気持ちを奥歯を噛み締めて耐える。

 

 「残念だが、知り合いに腕利きのコード解読者がいてな。お前の“コード”なんざ一瞬で解読してもらった」

 「じゃあ何故フードで顔を隠す」

 「…………ちょ、直射日光に弱いんだよ!」

 

 苦し紛れの言い訳を盗賊王は嘲笑する。

 

 「当ててあげようか? 魔導書が直って、俺に魔術が使えると思い込ませたいんだろ? 生憎だが、そんなチンケなブラフに引っかかる程マヌケじゃないんだよ」

 「どーだかな」

 

 強がる気持ちを込めて、歪に笑ってみせた。

 思った通り、奴の注目が“フード”の方に行った。あとは―――


 『試合開始まで―――5!』

 

 試合開始のカウントダウンが始まる。

 

 4!

 

 観客達の怒鳴るような声。

 

 3!

 

 数字が小さくなっていく毎に大きくなっていく。

 

 2!

 

 小さく息を吐き、視線を盗賊王に向ける。

 

 1!!

 

 0、という数字を耳にすると同時、俺の視界が斜めにずれる。

 横腹に衝撃を受けた事を理解したのは、吹っ飛ばされてる最中だった。

 まるで、恐竜の尻尾で薙ぎ払われたような一撃。

 ボールが弾むように地面で何度も身体を打ち付けられ、辛うじてリング端ギリギリに留まることが出来た。

 

 「……ぐっ」

 

 気づけば、あんなに盛り上がっていた観客席も静まり返っている。

 痛みは顔に出すまいと必死に堪え、リング中央に佇む盗賊王を睨んだ。奴の手にはペンライトのようなものが収まっている。

 

 「これは転生してすぐ、とある貴族から“盗んだ”術具だ。なかなか強烈だろ?」

 「強烈だ? 親父に殴られた時の方が痛かったね」

 「お前の親父は巨人族か、何かか? まあいい。一撃では死なないよう調整しているんだ。この位で逝かれちゃ困る」

 

 おいおい、この威力で手加減してんのかよ……。

 足部に力を込め、なんとか立ち上がると、ヤカンから湯気があがるように、観客席から歓声が上がる。

 盗賊王は、俺が中央に戻るまで待ってるのか、それともターン制バトルを提案しているのか、攻撃してこない。


 「そう来なくちゃ面白くないよな」

 「今のはお客へのサービスだ」

 「その強がりもいつまで続くか……」

 

 再び衝撃。

 今度は右に俺の体が弾む。

 頭を打ち、腕を打ち付けて何とか止まったと思えば、次の瞬間には左に弾まされる。

 左へ弾んでいると思えば、右へ。再び左。

 これでは猫に弄ばれる毛玉もいいところだ。


 何十回弾んだだろうか、いつまでも衝撃が来ないことに気づき、顔を上げてみれば盗賊王の手に水晶玉のような術具が握られている。

 

 「今度は鬼ごっこと行こう」

 

 盗賊王の背後に形成される氷の円柱。

 俺めがけて直進してきたソレをすんでのとこ回避する。

 あんな物に当たったら、1発で場外まで押し出されてしまう。

 そう考える間にも攻撃は止まない。 

 リングの円周に沿って走り出す。一瞬前まで自身のいた場所を円柱が通過するのを横目に回避を繰り返した。

 

 「あのやろ……、ワザと避けられるように打ってきてんな」

 

 このままでは埒が明かない。

 少しでも攻撃の手を止めさせなければ……。

 

 「そんなに連発していいのかよ! 魔力切れになるぜ」

 「敵にする心配か? 今まで何百という人間の魔力を“盗んできた”。魔力切れなど有り得はしない」


 盗賊王が喋り始めると、円柱の形成が止まった。

 俺はそれを見逃さない。中央の盗賊王目掛けて突進をする。

 呑気に説明しやがって……、隙だらけなんだよ!

 

 「いや、隙だらけなのは君の方だ」

 

 拳を振り上げた瞬間、地面に顎を打ち付ける。上から氷の円柱で押さえつけられたのだ。

 起き上がろうにも、円柱の重圧に勝てるほどの筋力はない。抵抗する程に押さえつける力は増していき、背中から嫌な音が聞こえる。

 

 「闇雲に突っ込んでくるとは無謀なもんだね」


 盗賊王はしゃがんで、痛みに堪える俺の顔を覗き込む。

 

 「な、なぁ……盗賊王、受けたダメージを全て相手に返す、一発逆転の魔術があるのは知ってるか?」 

 

 苦し紛れのブラフ。盗賊王はそう考えたのだろう、呆れたように目を細めた。

 

 「くだらないね。吐くならもっとマトモな嘘にしなよ」

 「普通はそう思うよな、……ところが有るんだよ。―――“マーティスレイシリーズ”には」

 

 “マーティスレイシリーズ”。

 その言葉を聞いた瞬間、盗賊王の眉が微かに動いた。

 

 

本当は1話で盗賊王戦は終わらせたかったのですが、今週はあまり時間がとれなかったのです。申し訳ない。


ヨツバはどんな作戦をねってきたのでしょうか


次話は水曜ですね

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