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私のことを一度も見なかった婚約者様へ  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)


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1 リディア・フロイト侯爵令嬢

リディア・フロイト侯爵令嬢。

王国きっての名門フロイト侯爵家の一人娘であり、美しく、聡明で――まさに淑女の鑑。

長いブロンドの髪に、緑色の綺麗な瞳を持ち合わせ、別名社交界の華とまで言われるほどの美女だ。



令嬢たちの憧れであり、令息たちにとっては手が届かない相手。

まさに高嶺の花という言葉がピッタリで、誰も気安く近づくことができない孤高の存在。



しかし、そんな彼女は誰にも打ち明けられないある悩みを抱えていた。





エーゼル王国の首都に位置する王立アカデミー。

そこには、十五歳から十八歳までの貴族の子息息女が通っている。エーゼル王国では、その年代の貴族の子供たちは教養を学ぶためにアカデミーへの通学が義務付けられている。



首都にある王立アカデミーは創設二百年を誇り、王都を象徴する建物の一つとなっている。

敷地内に建物がいくつもの存在し、さらにすぐ傍には広いグラウンドや遠方から通う学生のための豪華な寮が建てられている。



今日も通学のために、多くの馬車がアカデミーの門の前に止まっている。

中から下りてきたのは、全員が貴族の令息令嬢だ。



そんな中、フロイト侯爵家を表す薔薇の紋章が刻まれた馬車から下りて来たのは、長女のリディア・フロイトだった。

フロイト家は代々宰相を輩出している家柄で、王国屈指の名家だった。

リディアは父侯爵に似て聡明で、学業においては彼女の右に出る者はいない。



「見て、リディア嬢よ!」

「いつ見てもお綺麗ね……」



華やかな容姿をしている彼女は、学園内でも一際目立つ存在だ。

リディアは王立アカデミーの制服に身を包み、長いブロンドの髪をハーフアップにまとめて登校していた。

歩く所作まで美しいと感じさせるほど、彼女は教養に富んでいた。



「一体何を考えていらっしゃるのかしら……」

「私たちには想像もできないくらい……高貴なことをお考えなのでしょう」



美しきリディアの哀愁漂う瞳に、周囲の生徒たちはそう噂せずにはいられなかった。きっと身分の高い崇高なお方から言い寄られているとか、聡明さゆえに学校の授業がつまらなく感じてしまうだとかそのようなことに悩んでいるのだろう。



しかし、彼女の悩みの種はそんな高潔なものではなかった。



「……」



リディアは目の前の光景を呆れたように見つめていた。



(また始まったわ……)



―――彼女の視線の先には、婚約者エリオットと複数の女子生徒の姿があった。



三人の可愛らしい少女が彼を取り囲み、和気あいあいと話をしている。

そんな婚約者の姿をリディアが目にするのは、実は初めてではなかった。



――エリオット・ローレンス

ローレンス公爵家の嫡男であり、幼少期の頃に決まったリディアの許嫁だ。黒い髪に青い瞳を持ち、眉目秀麗な彼は、公爵令息という地位も相まって令嬢たちからかなりの人気を誇っている。



そのため、リディアは周囲のご令嬢からエリオットとの婚約を羨ましがられることも多かった。

しかし、婚約者とはいえ、彼女は彼と愛し合っているわけではなかった。



貴族間においてよくある政略結婚。

――いや、彼らの間にはそれ以上に深い溝が存在していた。



「もう、エリオット様ったらぁ」



リディアと同じ王立アカデミーの制服に身を包んだピンク色の髪の少女が、甘ったるい猫撫で声を出しながらエリオットの腕に絡みついた。

周りには婚約者であるリディア、そして他の生徒たちがいる。



彼らは、人の目など気にもしていないようだった。そしてエリオットも強引に引き剥がすことはせず、むしろ嬉しそうに笑っていた。



――それは、リディアにとっては見慣れた光景だった。



(またやっているのね……あの四人……)



リディアは婚約者に声をかけることもせず、そのまま彼らの横を通り過ぎた。

どこか諦めがついたような彼女の目。誰にも気付かれることなく、彼女の心に眠る暗い闇の中へと消えて行った。




読んでくださってありがとうございます!


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