あってはならないモノ
振り返った私が目にした、ハゴスが持っていたモノ。
それは―――
「んなっ!?ガトリング砲!?なんであんなものがこっちにあるんだよ!?」
ガトリング砲。
この世界の技術レベルでは本来存在するはずのないモノだ。
どう考えてもオーバーテクノジーなモノが現れ、ヒロト君も驚いている。
「さすが異世界人。これが何か知っているようだな?」
「ああ。だからこそなんでこっちにそんなモノがあるのか不思議でならねぇ…」
「ふんっ!少しは頭を使えばわかることだがな…さて、これが何か知っているなら話は早い。死にたくなけりゃ、お前たちの手でその女を殺せ!」
ガトリング砲の恐ろしさを知るヒロト君……いや、転移者である飯沢班の面々は迷っている。
アレが放たれればタダでは済まない。
かと言って、私を殺すこともできない。
その板挟みで、どうしていいかわからず困り果てている。
一方スレイたち護衛騎士も動けずにいる。
彼らガトリング砲がなんであるか分かっていないが…アレが異世界の兵器であることはヒロト君の反応からして明らか。
そして、ああいった異世界の兵器がこちらの世界で使われたという事例は過去に何件もある。
そのどれもがすさまじい被害をもたらしたと知っている彼らもまた、飯沢班と同じような理由で動けずにいた。
「彼らに私を殺せると思うか?」
その上で、この状況で動くことができる私がハゴスに問う。
するとハゴスは額に青筋を浮かべ、怒鳴った。
「黙れッ!!貴様も知っているだろう?これの恐ろしさを」
「ああもちろん。よく知っているよ」
私は異世界人で、転生者。
ガトリング砲がどういうものか知っている。
「それは、下級の竜であれば抵抗を許さず肉塊にできる異世界の兵器。理屈で言えば、それ1つで千の兵を殺せるだろうな」
「ふっ…よくわかっているじゃないか。であればコレが火を噴いたその瞬間、貴様が肉塊になることも想像できるはずだろう?そんな死に方をしたくなければ、今すぐ自ら首を貫いて死ね!」
飯沢班や護衛騎士が動かないことに見限りをつけ、自ら首を切れと言ってくるハゴス。
…おかしな話だ。
「……フッ」
「何がおかしい!」
何がおかしい、ね?
少し考えれば誰でもわかる話だと思ううけれど…わからないか。
残念だ。
「わからないか?私を殺せる武器を持っているというのに、それを使わないお前の滑稽さに笑っているんだよ」
「―――~~~っっ!!!?貴様ぁぁぁぁあああああああ!!」
煽ってやると、ハゴスは顔を真っ赤にして銃口をこちらに向ける。
そして、人が生身で扱いきれるものではない兵器を、ミスリル級冒険者の力で無理矢理使おうとし―――
「させるわけないだろ?」
回転を始めたガトリング砲から火が吹かれる直前、奴の半身を氷漬けにして射撃を阻止した。
「なにっ!?貴さ―――」
「遅すぎるな」
「がはっ!?」
氷漬けになったガトリング砲と自分の体の半分に気が付いたはいいが、次の瞬間には私は目の前に迫っていた。
そして、ハゴスの顔を殴り怯ませる。
その一瞬で氷を解くと、ガトリング砲を持つ両手を切り落とした。
「うがああああああああああああ!!!!」
両手を切り落とされたハゴスは悲鳴を上げ、血の止まらない自身の両腕を見つめる。
顔色はどんどん悪くなり、白を通り越して青になっていく。
ミスリル級冒険者でありながら、両手を切り落とされた程度でこのざまか…ミスリル級の名が泣くぞ。
「がっ――!?」
「騒ぐな。たかが手を失ったくらいだろう?」
顎を蹴り上げ、黙らせる。
こんな男の悲鳴など誰が聞きたいものか。
それに、こいつに求めるものなど1つだ。
「おい。コレをどこで手に入れた?」
「へぇっ?」
「聞こえなかったか?コレを、どこで、誰から、受け取った。そう訊いているんだ。答えろ」
血の付いた氷の剣を喉元に突きつけ、先端を少し刺しながら問う。
このガトリング砲をどこで手に入れたのか?
誰から受け取ったのか?
考えうる可能性は二つ。
1つは良いとして、もう1つであればこうしては居られない。
返答次第では………
「い、言います!だから命だけは!!」
「余計な口を叩くな。死にたいか?」
「ひ、ひいいいいい!!?」
氷の剣の腹で顎を持ち上げれば、ハゴスは威厳もクソもあったものではない無様な悲鳴を上げる。
これがミスリル級とは…今の冒険者の程度が知れるな。
「じぇ、『J』という武器商人から買いました!!異世界の強力な兵器を売りさばいているという、闇の武器商人です!!」
「『J』?どこで買った?」
「こ、ここから北西に村を三つ越えたあたりにある森の近くです!」
「それはいつの話だ?」
「は、半月ほど前の事です!!」
『J』と名乗る武器商人から北西に村を三つ越えたあたりの森の近くで半月ほど前に買った。
私の想定の前者の方だったか。
なら。この近くには居ない可能性が高いな。
「『J』の外見的特徴は?」
「俺よりいくらか歳をとっている異世界人の男です!髪は黒っぽく、顔はあいつらに近い形の顔で、背丈は俺よりも顔一つぶん低いくらいだったと思います!!」
「異世界人か…彼らに近い顔つきということは、恐らくアジア人だな」
ハゴスよりいくらか歳をとっているよう見える。
恐らく、4,50代の異世界人でアジア人。
身長は170くらいか?
「他には?」
「と、特には…」
「それだけか…全く情報にならんな」
今から30年ほど前に異世界人が転移してきた時期があった。
恐らくひとつ前の世代の転移者で、その生き残りだろう。
しかし、30年前の異世界人がそんなことをしていて生き残っているとは…奴らは何をしているんだ?
「武器商人『J』ね…名前は覚えておこう」
これ以上ハゴスから聞き出せそうな有力な情報はなさそうだ。
30年以上生き残っていることを考えれば、しっぽを見せるような情報はこんな奴に与えていないだろう。
それに、もしその『J』がもう一つの可能性であれば尚更だ。
さて、この男をどうするかだが……
「おいスレイ。この男をどうする?」
「どう、とは?」
「お前たちが処理するのか、この町で処理するのか、見逃すのか。どうする?」
私はハゴスの処遇についてスレイに任せることにした。
鎮圧したのは私だが、彼らにもメンツがある。
私としては、引き渡してやってもいい。
「部下は皆殺しにしておきながら、本人は見逃す選択しを与えるか……イルミーナ殿はどうするべきだと考える?」
「私か?…まあ、見逃しても構わない。こんな奴でもミスリル級冒険者。死なれては困る奴も多くいるだろう」
私ならどうするか聞いて来たスレイに対し、私は見逃す提案をする。
可哀想とか、そんなふざけた理由ではなく現実的な理由。
ハゴスはこんな奴だが、実力は確かにミスリル級。
コイツがいることで保たれる平和や秩序もあるのだ。
それを壊し、それでいてハゴスに変わる新しい戦力を用意しないというのはあまりにも無責任。
スレイが『騎士に対し牙をむいた』という理由で処罰するならいざ知らず、この国において何の権力も持たない私が簡単に殺していい存在ではない。
「この男に死なれて困る者たち、か……確かに、見逃す理由としては十分だな」
「あとはお前たちのメンツの問題だ。どうしたい?」
スレイも貴族だ。
ハゴスを失うことのデメリットはわからないわけではない。
その上ここはハゴスの、もしくはハゴスの一族の領地ではないため勝手なことをしては大問題になりかねない。
見逃すという選択肢も一つだ。
その上で、どう判断するか?
その答えは……
「…見逃そう。我々はこの男に罰を与えない」
様々な要素を考慮し、ハゴスを見逃すことにした。
…私としても、そうしてくれた方がありがたいので丁度よかった。
「だそうだ、よかったな?」
「は、はい!!」
自分が生かされることを知ったハゴスは目に光を取り戻し、希望に満ちた顔をしている。
そんなハゴスに、私は切り落とした両手の切断面を腕の切断面に押し付けて回復魔法を使う。
すると、ハゴスの切断された手はさっきまで地面に転がっていたのが嘘のように元通りに接着され、彼の意思で自由に動かせるようになった。
「これは、お前が手を失うことで命を落とす者たちのための行為だ。決してお前を許したわけではいことを忘れるな」
そう言ってガトリング砲を回収し、ハゴスの前から離れる。
「行け」
「は、はい!!」
ハゴスにこの場から失せるように指示すると、奴は落とした大剣を拾って逃げて行った。
その背中にはミスリル級冒険者の威厳など全くなく、ただの小物にしか見えなかい。
何とも哀れな背中だ。
ハゴスを見送ると、飯沢班の皆が私のところにやって来た。
「…見逃してよかったのかよ?」
少し不満そうに問うてくるヒロト君。
彼の考えでは、殺すか牢屋にぶち込むべきだと考えているだろう。
「構わないさ。さっきも言った通り、奴が死ぬことで困る人間もいる。あんな奴でもミスリル級冒険者だ」
「…けど、あいつが居ることで生まれる不幸だって絶対あるだろ?」
「その可能性は否定できないな。だが、大多数の平和を守ることだけが理由じゃない」
「?」
「君にはわからないかもしれないが、奴を殺せば文句を言ってくる輩が居るのさ。それは、力でどうこうすることが難しい相手だ。道理が相手にあるからな」
「なんだそりゃ?」
…ここまで言ってもわからないか。
まあ、半年前まで日本で学生だったんだ。
わからなくて当たり前だな。
――あのカスを殺して文句いうヤツなんなん?そんなやついるんか?
――この町の領主とか、この地域を支配してる貴族だよ。統率できてるかはさておき、騎士団長クラスの強者を勝手に殺したらそりゃキレる
――飯沢班とスレイさんにいちゃもんを付けるには、ハゴスの部下を殺しただけでも十分。これ以上面倒くさいことにならないようにするためにも、ハゴスは殺せない
――はえー、貴族社会ってめんど
コメント欄に居る一部の大人はその意味をちゃんと理解しているらしい。
ヒロト君たちもそれを見て私やスレイがハゴスを見逃した理由を知り、うなずいている。
「…てか、あの氷漬けになってる人たちってホントに死んでるのか?」
「即死だな」
「そう、なのか……」
「どうした?」
私がハゴスの部下を皆殺しにしたことを認めると、飯沢班の顔色が曇る。
今更人の死でそこまで曇ることがあるだろうか?
「…いや、別に戦いで誰かが死ぬことは初めてじゃない。けど、クラスメイトが人を殺すのは…な?」
「ああ、そういう…」
クラスメイトによる人殺し。
そこは盲点だった。
こいつらのような盗賊まがいな雑魚なんて、何かの拍子に一斉処分されるような存在。
そんな奴らを殺したくらいで、彼らが曇るとは思いもしなかった。
「…その反応。こういう経験はこれが初めてじゃないんだな」
「そうね」
「即答かよ…少しは、間をおいてほしかったぜ」
私がこういったことは初めてではないと認めると、また彼らの顔が曇る。
…こんなすぐに曇られると面倒だと思う反面、彼らがまだこちらに染まり切っていないと安心することもできる。
「…血に濡れた私を軽蔑するか?」
「え?」
「相手がどうであれ、日本じゃ殺人は重罪だ。そして、私はその回数が一回や二回ではない。そんな私を、大罪人だと拒絶するか?」
彼らが望むなら、離れることも視野に入れておく。
話を聞く限り、委員長率いる『飯沢班』の他にもそれぞれ集団で動いている班があるはずだ。
その元クラスメイト達の顔を見に行くことも考えている。
飯沢班にこだわる必要はない。
私の問いに顔を見合わせ、視線でどう反応するか相談している。
数秒の会話ののち、委員長の飯沢さんが代表してどうするかを言ってきた。
「私たちはイルミーナさんを拒絶したりしません。過程は確かに問題だけど、それでもイルミーナさんに救われたという事実は変わりませんから。…それに、この世界に居る限り、いつかは通る道だと思っていますから」
飯沢班は私を拒絶しない。
この先も私を三神ひなの生まれ変わり、イルミーナとしてここに置いてくれる。
そう言ってくれた。
そのことが…少しだけ嬉しかった。
「ありがとう。正直、拒絶されるものだと思っていた」
「そうですね…実際、ちょっと怖いです。でも、同じことをスレイさんたちもしてましたけど、一緒に居ますし今も守ってもらってます。だから、クラスメイトのイルミーナさんを拒絶するのも変な話なので」
「だな。むしろ、イルミーナさんが今日ここで汚れ役を買ってくれたおかげで、俺たちは手を汚さずに済んだ。ホントはもっと感謝しなくちゃいけないんだが…まだ気持ちの整理ができてないんだ」
感謝は伝わってくるが、それはそうと完全には心を許せない。
その気持ちも伝わって来た。
まあ、急ぐことでもないので別にそれは構わない。
ゆっくり時間をかけて、信頼を積み重ねて行けばいいのだから。
「…私はエルフだから、時間は腐るほどある。また落ち着いた時にゆっくり話してくれ。それよりも、速くパン屋に行こう。焼き立てのパンが冷めてしまう」
「そうだな。俺もう腹ペコで頭がおかしくなりそうだ~!飯食いてぇ~!!」
「もうちょっとの辛抱だから我慢しろよ、普翔」
予想外の襲撃で時間を喰われてしまったが、今はパン屋に向かっていたところだ。
気を取り直してパン屋に向かって歩き出す。
護衛騎士の半分とスレイは現場に残り、死体の後始末をしてくれるようなので見えない位置に移動してから氷を解除しておいた。
邪魔と言えば邪魔だが、居てくれると楽なことも多い。
今後とも、彼らは大切にしていくべきだと思わされる一件になった。




