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【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい  作者: 椰子ふみの


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???(トム)の女神

 入学式、王太子と共に入って来た少女は可愛かった。銀の髪、大きな紫の目。白い滑らかな肌。

 人の目を引きつける妖精のような少女だった。だからこそ、王太子の婚約者ではないと聞いて、嫌な気分になった。

 本人の意思か、親に命じられたのか、学園生活の初日から王太子にすり寄る。

 どの国でも同じだ。


「ジョージ王太子も私と同じように幼い頃から王族に仲間入りしたい貴族たちに付きまとわれていたんだろうな」

「この学園内ではそのような自分の身分を明かすような発言はおやめください」

「誰もいないから大丈夫」

「ふだんから気をつけておかないとうっかり失言したりするものです」

「それなら、ピーターも私の友人らしく、敬語なしで喋ってくれ」


 そう言うと、ピーターが黙り込んだ。結構なおじさんなのに、近衛騎士の中で一番背が低く童顔だからという理由で護衛に選ばれても文句を言わず、真面目に勤める男だ。敬語なしには抵抗があるのだろう。この世界では身分の差というものは大きい。


「母上は身分を隠して自由を楽しみなさいと言っていたけど」


 無理だろうなと思った。


 ヴィオラという少女はクラスで孤立していた。マナーがなっていないから平民かと思えば貴族らしい。

 イアンと決闘して、計算力で勝ったと思えば、魔力測定の水晶を壊す。貴族の令嬢にしては破天荒すぎる。

 それが見逃せなかったのか、ジョセフィンが熱心に指導するようになった。それに必死でついていっていることに感心していたら、生徒会に入ったらしい。


「ガッカリだよ。結局は王太子に近づくため、ジョセフィンに取り入ったということだろう」

「残念でしたね」


 ピーターの返事にかすかに笑いがこもっている。


「何がおかしい」

「女性の動向が気になされるのは初めてですから」

「べ、別にいいだろう。少し面白いと思っただけだ」


 そう、面白い。それだけだ。この歳でドラゴンを召喚するなんて普通の人間にはありえない。

 それに武闘会では王太子を優先することなく、治癒魔法を使用していた。王太子を狙っているわけではないのか?

 それなら……。って、今、私は何を考えた?

 気持ちが落ち着かないので、近づかないでおこうと思っていた。それなのにキャンプで同じチームになってしまった。

 ヴィオラの作る食事は異国風で美味しかった。残り物を翌日の朝に食べさせられるとは思わなかったが、それも美味しかった。


「テントを組み立てやっただけでは食事のお礼にはならないだろう。魔獣を捕まえてプレゼントしたい」

「授業の中でやったことにお礼って変でしょう」


 ピーターは反対したが、宮廷でも料理が気に入ったら、料理人に特別な報酬を与えることは普通だろう。

 草ネズミのような価値の低い魔獣ではなく、いい魔獣が出てくればいいのだが。

 そう思っていたら、ゴブリンが出てきた。

 一瞬、棒立ちになってしまった私をピーターはかばった。


「うっ」


 ピーターの背中から血が流れる。

 慌てて、剣を抜き、ゴブリンに立ち向かった。ピーターも剣を抜き、一匹を倒す。

 しかし、群れだ。安全なところでキャンプじゃなかったのか。

 そこへ石つぶてが飛んできて、ゴブリンが倒れた。逃げろというのにヴィオラは駆けつけてくる。馬鹿な女だ。


「私が食い止めますので、助けを呼んできてください」


 ピーター。そうするしかないのか。

 悲壮な思いでいたのにヴィオラはゴブリンを追い払いながら、ピーターの傷も治してしまう。何という力だ。

 甘えていてはいけない。

 私は元凶を探すことにした。能力を発揮したことで白くなった目をヴィオラは何も思わないようだった。

 ゴブリンを召喚した男は簡単に見つかった。男の操る双頭の蛇は強力だったが、ヴィオラが奮闘してくれたおかげで、私は男に集中して倒すことができた。

 人と一緒に戦う経験は初めてだった。


「悪くない」


 他のクラスメイトを案じて、ドラゴンを駆るヴィオラの姿は美しかった。


 魔獣騒動はイアンとジョセフィンの活躍がもてはやされた。


「いいのか、一番の功労者はお前だろう」


 ヴィオラに尋ねると、きょとんとした顔になった。


「え? みんなを守った二人の方がすごくない? あ、本当の功労者はトムなのに」

「いや、私のことはいい」


 自分を売り込まず、他人のために力を使う。まるで、女神のようだ。


「ヴィオラさんを婚約者としたいのであれば、準備を進めますが」


 ピーターが小声で尋ねる。


「まだいい」


 そう、今はまだ。何もかも私が女神の目に留まってからの話だ。トムのままで好かれたい。そんな馬鹿な望みが生まれてしまった。


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