ストーリー改変
早足だったトムが走り出す。
ピーターとヴィオラはその後を追いかける。真っ直ぐ敵の方に向かっているのか、茂みもかきわけて行くので大変だ。
「いた!」
巨大な双頭の蛇のような魔獣がとぐろを巻いている。その大きなとぐろの円の中心にフードを深くかぶったローブ姿の人がいる。
「死んだらごめん」
ヴィオラはとりあえず雷を落とす。気絶する程度に弱めたつもりだが、手加減に自信はない。
バリバリッ。
避雷針であるかのように蛇が立てた尻尾の先に雷が落ちた。その尾を蛇が一振りすると、雷がこちらに飛んでくる。
「うわっ」
トムとピーター、ヴィオラは慌てて避けた。
「えい」
ヴィオラは炎を放った。その炎も蛇が尾で受け止め、すぐに返してくる。
「バカ、攻撃するな」
逃げながら、トムが怒鳴った。
「攻撃が返ってきてるのがわからないのか。様子を探るとか少しは頭を使え」
「返してくるのが雷だけかと確かめようと思って」
ヴィオラは物理的に探ったつもりだ。
「それより、お前がゴブリンを召喚して、操っているのか」
ピーターが男に尋ねる。
「そうだ。この天才召喚士、キプロスにできないことはない。おまえたちの攻撃でこのアスプの防御を崩すことはできぬ」
キプロスが両手を上げる。
「大丈夫。絶対、できる」
ヴィオラは断言した。
「その自信はどこからくる?」
少し呆れたようにトムが尋ねた。ゲームにはこんな召喚士なんて出てこなかったからとは言えない。
「雑魚っぽいことを言うから」
そう答えると、トムが笑い出した。笑いのツボが謎だ。
「笑うがいい。そうしている間にもみんな殺してやる」
キプロスは怒ったらしい。ザワザワとゴブリンが現れ、こちらに向かってくる。
ただ、ゴブリンは数が増えても問題ない。問題はアスプだ。
「これならどうだ」
ヴィオラは石を拾って投げる。トムに怒られないように小さな石にした。すぐにアスプは打ち返してくる。
その瞬間、トムが剣を大上段から切りつけた。アスプの尾に薄く赤い線が浮かび上がる。
「くそっ、硬い」
「でも、直接攻撃は効く」
ピーターも飛びかかるが、アスプの尾に当たって、あっけなく吹き飛ばされる。
ヴィオラは慌てて駆け寄り、治癒魔法をかける。
「私も剣を持ってくればよかった」
カレーの元など食事のこと中心に準備したので、小さなナイフしかない。小さな魔獣相手にはそれでもいいが、アスプに対しては辛い。
とりあえず、ゴブリンの上に雷を落とすが、その雷もアスプが受け止め、返してくる。このままじゃ、ゴブリンを一体ずつ倒さなくてはならない。
狙いは個人じゃないようだし、時間がかかったら、その間に他のチームが殺されてしまう。
なぜ?
そんな事件、『聖女は愛に囚われる』には出てこなかった。まさか、私がストーリーを改変したせい? 今、みんなが危険な目にあってるのが私のせいならどうしよう。
ヴィオラは焦った。
「ヌーク」
トムの落ち着いた声に尾の長い白い鳥が現れる。授業で召喚した魔獣だ。
「行け」
ヌークがアスプの首をかいくぐって、キプロスの上空に近づくと、羽ばたいた。強い風にキプロスはよろめいたが、ゴブリンが支えた。
「そうか。ポチ、じゃなくて、ブラン!」
パッと白いドラゴンが現れる。
「ヴィオラ、久しぶり」
のんきに挨拶される。
「ブラン、大変なの。ゴブリンとあの蛇をやっつけたいから手伝って」
ブランはジロリとヴィオラを見た。
「もっと、早く呼んでよ」
「キャンプでは召喚獣に頼らないってことになっていたから」
本当は忘れていて、トムが召喚したことで思い出したのだった。
「あの蛇、魔法を打ち返すから、直接攻撃したくて、乗せてって」
「わかった」
ブランが体を揺すると、ぐんぐん大きくなる。
「ストップ」
ヴィオラはブランの背中に乗った。すぐにブランは空に舞う。
「背中に乗るの、久しぶりだね」
ブランが嬉しそうに言った。そういえば、学園に来てからは一度も乗ってない。
「これからも乗せてね」
「もちろん」
「ゴブリンは任せろ」
ピーターがゴブリンを切り伏せながら言う。
「私がアスプを何とかするから、キプロスをお願い」
トムがうなずくのを確認して、アスプに突っ込む。ヴィオラとブランの考えは一緒。真っ向勝負だ。
二つの頭が挟み撃ちをするように迫ってくる。返されるだけだから、魔法は放たない。
いかにも技を出すように両腕を広げると、噛みついてきた。
「ヴィオラ!」
「大丈夫」
ヴィオラは腕を強化して、噛み切られないように頑張る。
「イタタ」
痛くても、無理矢理、腕を喉の奥まで突っ込んでいく。
「ファイヤー!」
ライトノベルで読んだことがある。体内から焼くのだ。フルパワーだ。
何だか、焼き鳥のような匂いと共にアスプの動きが止まる。匂いが焦げ臭くなるまで待って、ヴィオラは手を抜いた。
「大丈夫か?」
地上ではトムがキプロスを確保していた。キプロスが気を失ったせいか、操られなくなったゴブリンはピーターから逃げようとしている。
「大丈夫。他の子たちを見てくるから、後はお願い」
その時、パンッと花火のようなものが上がった。魔法を使った信号だ。
ブランと一緒に信号の上がったところへ行くと、少し広い空き地に他のチームが集まっていた。
中心にはジョセフィンとイアンがいる。ヴィオラはその前に飛び降りた。
「ヴィオラ」
イアンが駆け寄ってくる。
「大丈夫。トムとピーターも無事」
「じゃあ、他のチームはみんなここにいるから、全員無事ね。私たちは怪我一つないから」
ジョセフィンが断言する。
「すごい。怪我一つないなんて」
「ヴィオラに鍛えてもらった効果ね。私とイアンだけでゴブリンも殲滅できたわ」
ストーリーを改変したせいで二人が強くなって、無事だった? じゃあ、私のしてきた事、大丈夫ってことだよね。
緊張の糸が切れて、しゃがみ込んだヴィオラのまわりをイアンがオロオロと回った。




