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「クラスメイトの手刀を見逃さなかった男」



 ヴェガダチス大陸。



 その東部に位置する大国、ミザル王国。



 世界最大のダンジョンを有する、王都ミヌフリー。



 そこに、大陸最高峰と言われる冒険者学校が有った。



 その名をカミビルド冒険者学校という。



 10月。



 恒例行事である武闘祭が、学校の闘技場で行われていた。



 1年生の部、1回戦、第8試合。



 女子生徒と男子生徒が、闘技場の中央で向かい合っていた。



 2人とも、服装は学校の制服だ。



 女子生徒の名は、ミソラ=ハトリ。



 薄青いショートヘアと、引き締まった四肢を持つ、麗しの美少女だった。



 頭頂部からは狐のような耳が、腰からは尻尾が伸びていた。



 獣人のようだ。



 彼女は小太刀を2本、尻尾の上のあたりにかけていた。



「俺の力、見せちゃうからね」



 男子生徒が、馴れ馴れしく言った。



 彼の名は、モーテル=レナリー。



 茶髪で背が高く、ルックスもそれなり。



 頭の側面から、牛のような角が生えている。



 腰にかけた武器は、普通の長剣だった。



 以前モーテルは、ミソラを口説こうとした。



 だが、ミソラにつれなくソデにされてしまった。



 それでも諦めず、彼はしつこくミソラに言い寄っていた。



 彼はガードの固いミソラに、この大会で、良い所を見せようというつもりらしい。



「……そう」



 ミソラは、興味無さそうに言った。



「惚れ直すと思うよ?」



「…………」



 ミソラは黙った。



 ミソラの斜め前には、ジャージ姿の教師が立っていた。



 がっしりと鍛えられたその男の名は、ケン=ブキョウ。



 彼は1年の剣術教師で、この試合の審判だ。



 頭からは、クマの耳が生えている。



 髪は短く、眉は太く、飾り気の無い男だった。



 ミソラが少し待つと、ケンが口を開いた。



「試合開始!」



 ケンが、試合開始を告げた。



 ケンはそれと同時に、手中に有るスイッチを押した。



 舞台を囲む観客席に、結界が張られた。



 選手の攻撃から、観客たちを守るためのモノだ。



 これで両者とも、心置きなく戦える。



 そのはずだったのだが……。



「う……?」



 ぐらり。



 モーテルの体が揺れた。



 戦いが始まってもいない筈なのに、彼は地面へと倒れてしまった。



 それを見て、ミソラが言った。



「あれ?


 貧血ですかね?


 ブキョウ先生」



「む……。


 モーテル=レナリー戦闘不能とみなし、


 ミソラ=ハトリの勝利とする!」



 審判が、ミソラの勝利を告げた。



「「「あはははははっ!」」」



 戦う前に倒れた男を見て、観客席で笑いが起きた。



 結界が解除された。



 ミソラは一礼すると、選手用の通路へと姿を消した。




 ……。




 ぱちぱちぱち。



「…………?」



 通路に入った所で、ミソラの耳に、拍手の音が届いた。



「よっ」



 次に、若い男の声が聞こえた。



 ミソラは、声が聞こえてきた方を見た。



 そこに、制服姿の少年が立っていた。



 銀髪で、すらりとした長身の、美貌の少年だった。



 獣耳や尻尾は見えない。



 獣人のような普通の人間と違い、人耳が尖っておらず、丸っこい。



 丸耳族のようだ。



 武器を持っているようには見えない。



 武闘祭の参加者では無いのだろうか。



 ミソラは、怪しむような視線を、少年に向けた。



 すると、少年が口を開いた。



「おそろしく速い手刀だったな」



 ミソラの眉が、ぴくりと動いた。



 モーテルが倒れたのは、ただの体調不良などでは無い。



 ミソラが、目にもとまらぬ速度で、彼の首筋に手刀を叩き込んだ。



 その結果だ。



 ミソラは、あまり学校で目立ちたくはなかった。



 この武闘祭も、適当に負けて済ませるつもりだった。



 だが、モーテルに敗れれば、彼はさらに調子に乗る恐れが有る。



 これ以上、しつこく言い寄られたくは無かった。



 だから不戦勝という形で、モーテルに恥をかかせた。



 それを見抜かれていた……?



「何者?」



 ミソラは、少年をにらみつけた。



「俺は……」



 少年が、何かを言おうとしたそのとき……。



「……まあ良いや」



 ミソラは、試合でも抜かなかった2本の小太刀を抜いた。



「えっ……?」



「まずは倒して、


 それから話を聞けば良いよね?」



「ちょっ……! 良いワケねえだろ……!?」



「問答無用」



 ミソラが、少年に斬りかかった。



「ひえっ!?」



 少年は、紙一重で斬撃を回避した。



 そして、ミソラから距離を取った。



「……今、何をしたの?」



 ミソラはふしぎそうに少年を見た。



「こっちのセリフなんだが!?」



「……まあ良い。


 次は外さない」



「フッ。


 そんなこと、


 俺が許すと思ってるのか?」



「どうする気?」



「それはな……」



「それは?」



「ダッシュ」



「えっ?」



 少年はミソラに背を向け、走り去っていった。



「逃げるに決まってんだろおおおおおぉぉぉ!


 このバーカ! バーカ!


 ひとでなし!


 殺人鬼っ!


 孤島の鬼ッ!」



 捨て台詞を残し、少年は姿を消した。



 ミソラは通路に1人になった。



「……フミカ」



 ミソラがそう言うと、彼女の影から、にゅっと人影が現れた。



 姿を見せた少女は、緑色のニンジャクロスを身につけていた。



 頭には、薄緑色の狐耳が見える。



 ミソラと同じ種族らしい。



「あの男の素性を調べて」



 真剣な顔で、ミソラがそう命じた。



 だが……。



「あのー。ミソラさま」



「何?」



「調べるもなにも……


 あの子、ハク=ウミノリは、


 ミソラさまのクラスメイトですけど……?」



「えっ?」



「ミソラさま。もう10月ですよ?」



「…………」



 ミソラの人耳が赤く染まった。



「覚えられないんじゃない。


 興味が無いだけ」



「ソーデスカ」



「それで、どういう人なの? 彼は」



「ウミノリ商会の


 ツクダ=ウミノリの息子で、


 上に兄が、下には妹が居ます。


 犯罪歴、出国歴、共に無し。


 学校の成績はそれなり。


 特に怪しい点は見当たりませんが……」



「けど彼は、私の剣を避けた」



「ええと……。


 手加減はされたのですよね?」



「……だったら良かったけど」



「目が良いだけのお坊ちゃまでは


 無いということですか」



「しっかりと調べた方が良いかもしれない」



「わかりました。


 人材を手配します」



「ううん。


 並のニンジャじゃ、


 彼の相手はつとまらないと思う」



「それでは……?」



「彼のことは、私が調査する」



(狐影忍軍の


 頭領である


 ミソラさま自ら……。


 それほどの男だと言うのですか?


 ハク=ウミノリは……)



「ですけど、


 ミソラさまって、


 バトルニンジャとしては一流でも


 スパイニンジャの経験はありませんよね?


 だいじょうぶなんでしょうか?」



「私は頭領。


 何も問題は無い」



「はぁ」




 ……。




「あー。死ぬかと思った」



 学内のカフェテラスで、ハク=ウミノリは椅子に体重を預けていた。



 空中には、舞闘祭の映像が投影されている。



 カフェからでも、試合を観戦できるようになっていた。



 選手たちが、優勝めざして、一生懸命がんばっていた。



 だが、ハクはそれに興味を示さず、ぼんやりと青空を見ていた。



「不審者が


 急に話しかけてくれば、


 そうもなるでしょうね」



 ハクの後方で、メイドが口を開いた。



 彼女の名は、サツキ=アイユナイト。



 ハクの専属メイドであり、クラスメイトでもある。



 長く美しい銀髪を持ち、均整の取れた美しい体型をしている。



 容貌も美しく、人形のように欠点が無い。



 獣人の特徴は見当たらない。



 耳が尖っていないので、ハクと同じ丸耳族だろうか。



 10代と言っても通用する若々しい外見だが、彼女の年齢は、ハクも知らない。



 1度聞こうと思ったのが、殺気を感じたのでやめた。



 彼女はスタンダードなメイド服を身にまとい、しっかりと背筋を伸ばしていた。



 メイド服は校則違反だ。



 だが、真のメイドであるサツキからすれば、そのような校則などデストロイだった。



 ハクの方は、ぐでーんとだらしのない格好をしていた。



「不審者って、


 クラスメイトだぜ。一応。


 まあけど、


 これで彼女という物語の1ページに


 俺の存在が描き出されたはずだ」



「ストーカーですか気持ち悪い」



「べつにあの子に


 恋愛感情とかは


 1ミリも無いからな?」



「愛は無く、性欲だけということですね」



「ちげーよ!?


 前も言っただろ?


 俺の目的は、


 主人公って言えるような凄いやつの物語に、


 1ページだけ登場することだ。


 自分は主人公になれるだけの実力が無くても、


 隠された主人公の実力を見抜いて


 『ほう、炭酸抜きコーラですか』


 『オイオイオイ』


 『レースするマラソンランナー』


 とか言ってれば、


 特に活躍しなくても


 なんとなく強者感が出て、


 読者の記憶にも残る。


 その後、ヤバい組織のリーダーに


 タイマンを挑んだりせずに


 スッとフェードアウトすれば、


 危険に巻き込まれる心配も


 負けて格が落ちることもない。


 レギュラーのかませ犬や解説役とは


 一味違う、


 おいしい役どころなワケだ」



「キモッ」



「えっ」



「そもそも読者って何ですか?


 現実の世界に


 読者とか居ませんけど?


 存在しない存在を


 意識して行動するというのが


 もう猛烈にキモいです。


 おまけに目指すことが


 1ページだけの登場?


 志が低すぎて


 通常の3倍キモいです。


 2回死ねば?」



「言いすぎだろ!?」



「さーせん。ふひひ」



(まあ、言ってることは


 ごもっともだけどさ。


 せっかく異世界って所に転生したんだ。


 何か1つでも、


 物語っぽい事をしてから


 死にたいじゃないか。


 なあ?)



 ハク=ウミノリは、転生者だ。



 それは家族やサツキにも言っていない、ハクだけの秘密だった。



 彼にとって、命を燃やすべき本当の人生は、既に終わっている。



 なので今生の彼は、遊び気分だった。



「あとさ、


 読者が居ないとも限らんぜ?


 俺が目をつけてる連中が


 ビッグになれば、


 自伝くらい書くかもしれん」



「わざわざハクさまにページを割くほど、


 印刷代というのは安くありませんよ。


 紙のムダです。ムダ」



「む……」



「だいたい、


 ハクさまは


 まだお若いのですから、


 脇役気取りの前に、


 主役になれるよう


 努力をしてみてはいかがですか?


 何もしない内から諦めるとか、


 通常の9倍キモいのですが」



「努力ならしたさ。


 0歳まではな」



「実働時間0秒ですよねソレ」



「そうとも言う」



(前世の俺は、


 どうしようもない敗者だった。


 そんな俺ごときの人生なんて、


 転生したって


 変わるわけも無いだろうが)



 ハクは前世において、人生に敗れた。



 掲げた目標は果たせず、惨めにその生を終えた。



 その記憶が、彼の中には朧に残っている。



 前世の敗北が、彼のやる気を縛っていた。



「はぁー。敗北主義者」



 サツキはおおげさにため息をついた。



「言ってくれるなよ。


 俺だって、


 何の努力もしてないわけじゃないぜ。


 目だけは必死で鍛えてるんだ。


 凄いやつらの隠れた実力を


 決して見逃さないようにな」



「はあ」



 そのとき、突風が吹いた。



「ひゃっ!?」



 ハクから50メートル離れた位置で、女子生徒のスカートがめくれ上がった。



 ハクの研ぎ澄まされた眼力は、遠く離れた女子のパンチラも見逃さない。



「黒か。エロいな。彼氏の趣味かな?」



「キモッ。


 あの、ハクさま」



「何?」



「ネクタイ切れてますよ」



 サツキの言葉どおり、結び目から10センチほどの位置で、ハクのネクタイは断ち切られていた。



 ミソラの斬撃によるものだろう。



「高かったのに!?」



「ざまぁ。


 ……それで、どうするんですか?」



「何を?」



「実力を隠していた少女に


 意味深に話しかけて、


 ハクさまの印象を、


 彼女に刻み込んだ。


 その次は、


 彼女にどうアプローチするんですか?」



「何もしないが?」



「はい?」



「ミソラ=ハトリという強者の長い人生、


 その1ページに、


 やり手っぽい雰囲気で出演した。


 完全に雰囲気だけだが。


 俺の後方理解者ムーブは


 完璧に達成された。


 もう俺が彼女と


 関わることも無いさ」



 そのはずだった。




 ……。




「じーっ……」



「…………?」



 武闘祭の翌日。



 ハクは学生寮を出て、メイド兼クラスメイトのサツキと、いつものように登校した。



 そうして自分の席に座ったハクに、ミソラ=ハトリの視線が向けられているのだった。



 彼女は本来の自分の席から離れ、ハクの隣の席に腰掛けていた。



「あの……ハトリ?」



「何?」



「どうしてハトリが俺の隣に?」



「席は代わってもらった」



「代わってもらったって……」



「だいじょうぶ。


 先生の許可も取った」



「ナンデ!?」



「あなたを見張るため」



「いやいや。


 俺なんか見張ったって、


 なーんも面白いことは無いと思うんだが?」



「嘘。


 アナタは明らかに、


 ただの商家の子では無い。


 そんなあなたが、


 あのタイミングで私に接触してきた。


 それには重大な理由が有るはず。


 いったい何を考えてるの?」



「いや、べつに深い理由とかは無いんだが……」



「そう。


 簡単に話すつもりは無いということ。


 だったら、その答えが分かるまで、


 ずっとあなたのそばに居る」



「答えとか無いんだが……!?」



 ハクのアホすぎる行動理念が、大きな誤解を産んでしまったらしい。



 ミソラにとって、ハクという少年は、1ページだけの存在では済まないようだった。




試し書きです。

お読みいただきありがとうございました。

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