オーガの箱入り娘と婚約者
「何が起きた?」
鎧狸たちの放った攻撃は一斉に空中で破裂し消滅した。
その理由が分からず辺りを見渡すと鎧狸の何匹かが居なくなっていたりダメージを受けている。
「ウィズ様、そこを動かないでください。」
どこからか声が聞こえてウィズが恐らく声のした方を向く。
その視線の先を追うと鎧を着た別のオーガが立っている。
暗くてよくわからないが、どうやら弓を使ったようだ。
「ペアーズはさっさと私が教えた技を使え。」
「ちっ、温存しておいたんだ」
さらにもう一人のオーガが現れてペアーズの横に並ぶ。
こっちはペア―ズと同じ青い鎧を着ているが背を向けていて顔は分からない。
だが、刀ではなく槍を持っている。
「俺が右の3、お前が左の3だ。タイミングは合わせろよ。」
「言われなくてもわかっている。」
二人は槍を構えるとそれぞれ鎧狸の居る方へ走っていく。
『トライデント!』
二人が槍を突き出すと先端の魔力で出来た刃が形を変えて三方向へと伸びていく。
刃はそのまま鎧狸を3匹ずつ腹を貫いた。
鎧狸たちはお互いを魔法で支援し合うのだが、この同時6匹攻撃は分からなかったのだろう。
「ぎあああ」と声を上げ苦しむと直ぐにぐったりとし動かなくなった。
「他にいるか?」
「いや大丈夫だ」
槍を持ったオーガが弓を持ったオーガに確認すると、どうやら敵は残っていないようで二人はウィズの前に跪いた。
「ウィズ様、御父上が心配しております。」
「我らが来なければどうなっていたかはわかりますね。」
「わかってるってば。今回は私が悪かったわ。」
ばつが悪そうにウィズが答えると二人のオーガは背を向けて歩き出す。
「え、ちょっと俺達には何もなし?」
「あいつらは私にしか興味がないのよ」
「ウィズちゃん大人気だもんねぇ」
「え?」
急に後ろから声が聞こえ後ろを振り向くといつの間にいたのか女性のオーガが立っていて、ウィズとヒロの耳元へ顔を近づけていた。
というかオーガなのだろうか。
彼女の割には身長が高い。
ウィズ達は平均160センチほどで前を歩いているオーガも恐らく170あるかないかだろう。
だが、彼女は間違いなく200センチはある。
オグより大きく感じるので間違いないだろう。
なら鬼なのかと思ったが、肌は褐色なので黄鬼、つまりはオーガではないのだろうか。
「あなたがマイスナーから来た人間さんだよね」
動揺していると女性のオーガがヒロの顔を覗いてくる。
ウィズの召喚している炎も数が減って辺りが暗くなっているのでわからなかったが、このオーガめちゃくちゃ可愛い。
身長に対して童顔で、髪はプラチナブロンドの長い髪でポニーテールにしている。
額から黒い鉱石のような角が生えているのだが、それ以上に彼女のキラキラとした瞳に目が行ってしまう。
二重だからだろうか……いや、違う。
この子はまつエクを疑うほどまつげが長いのか。
「えっと、あなたは?」
「私はミカゲだよ。マイスナーの女の子から水車村に向かったのを聞いて心配して迎えに来たんだ。」
「えっと、それってメガネかけたセイレーンですかね」
「そーそー、レインちゃん可愛いよね」
「さっきの鎧狸の攻撃は誰が止めたんですか?」
「あ~ね、あれは私の魔法だよ」
そう言ってミカゲがなにか黒いものを振り上げる。
初めは杖かと思ったがそれにしてはやたらとデカい。
よく見るとこれって鬼が持っているイメージの強い金棒じゃないだろうか。
「それって金棒だよね」
「これを投げつけて炎を消したんだよ」
ミカゲが嬉しそうに金棒を振りまわす。
ぶんぶんと風を切る音がして少し怖いが、それ以上にまわりの木をなぎ倒しているにもかかわらず彼女の振り回す勢いが落ちていないのが怖い。
「木なぎ倒してるし」
「あ、本当だ!やっぱり私の魔法って凄い!」
「ただの馬鹿力でしょ」
嬉しそうなミカゲにウィズが呆れた顔をしてため息交じりに答える。
そうか、この子こういう感じの子なのか。
「ところでウィズのお父さんって怖いの?あの二人は家族に見えないから頼まれてきたって感じだよね」
「まぁ人間からしたら怖いかもね」
「え~ウィズちゃんそれは嘘だよぉ。族長はみんな怖いってば」
「え?族長?」
「そうだよぉ。ウィズちゃんは族長の一人娘なんだよ。」
ミカゲのカミングアウトにウィズがかなりいやそうな顔をする。
だが、ウィズが族長の娘だとしたら危険な水車村に行くのにウィズを同行されるのだろうか。
少し疑問に思ったが、その答えはオーガの村につき族長の屋敷についた時にわかった。
「馬鹿者!お前たちは何をやっているんだ!」
族長のオーガにウィズ達が大説教を喰らう。
その横には青鬼とマイスナー流通の巨乳地味メガネセイレーンのレインがいて、青鬼が「まぁまぁ帰って来たんだから」となだめている。
どうやらウィズは箱入り娘と言っていいほど大事に育てられたらしく、ちやほやするまわりのオーガよりも同等に扱ってくれるタップル達と仲がいいようだ。
ちょうど赤鬼と青鬼が水車村に行く話をしに来た時にウィズ達が先にその話を知って嘘をついてヒロたちについてきたようだ。
そこで不思議に思った青鬼がオーガの族長に話に行ってウィズ達の捜索が始まった。
「それでお客人、あなた方の目的は果たせたのですか。」
「えぇ、予定通り水車の構造を確認することは出来ました。」
「それならば何より」
「そうでもないんです。仲間が二人水車村付近に残されたままなので明日にはまた水車村に向かいたい。」
「それはなりませぬ」
「なぜです?」
「水車村に行くことは禁止されているのです。あなた達も見たでしょう。あそこには鎧狸よりも危険な物の怪がうようよいるのです。」
「でもその人は刀猿の大猿を倒したけど」
「大猿?」
ウィズが割って入って族長に説明を始める。
どうやらあの大猿を族長は知っていたようで、どうにも信じていないようだ。
「それで、もしオーガ側から援助がいただけないのであれば我々二人で明日水車村に戻りたいのですが。」
「それはなりません。あなた達には水車を作っていただかなければなりませぬ。みすみす死にに行かれては困ります。」
「申し訳ないんですが、水車の仕事より仲間の命の方が大事なんですよ。カラスさんもまだ戻っていないですし力を貸してもらえませんか。」
族長は一応の考える仕草をするがまったく話を聞く気がないのが見ていてわかる。
どうやらマイスナー流通のレインがいるので気を使ってはいるようだが、どうやらこの人はかなりの頑固者のようだ。
というか、カラスの命は何とも思っていないのか。
「このまま助けを出さないなら私がついていくから」
「ならん!」
「なら助けてあげてよ」
今度はウィズが説得するがお互いに話は平行線で決着がつきそうにない。
「ならよ、ウィズちゃんのお願いを聞く代わりに親父さんも一つお願いを聞いてもらえばいいんでねぇか」
いよいよ見ていられなくなったのか、それともこのタイミングを待っていたのか青鬼が二人の間に割って入る。
「何よお願いって!」
「ウィズちゃん、婚約者候補がいるのにいつまでも選ばないで困らせてるだろ。なら今回の話を聞いたら婚約者をきめちまうって約束にしたらどうだ」
「それなら構わない」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
どうやら青鬼の提案で族長は納得したようだがウィズは納得できないようだ。
「えっと、ウィズさんの婚約者候補って誰です?」
「あの二人よ!あんたもさっき見たでしょ?あいつらマジで態度悪いんだから」
疑問に思って訊くとウィズがさっき助けてくれた二人のオーガを指さす。
青い鎧に槍を持っている二本角の褐色のオーガと赤い鎧にかなり大き目の弓を背負い刀を差した小麦色の肌の一本角のオーガ。
二人はウィズの婚約者候補で今の世代ではずば抜けた能力を持っているらしい。
さっきの戦闘の時の感じだと青鎧はペアーズの師匠か兄弟子っぽかったのでタップル達よりは明らかに強そうだ。
「あなたはどう思われますか」
「え?俺ですか」
族長に突然話を振られて困ったが、候補者の二人を見て少し考える。
「ん~、俺はウィズの結婚には賛成かなぁ」
「ちょっと何でよ!」
「俺の知ってる国の話なんだけど、その国だとお見合いだったり政略結婚が当たり前で恋愛結婚が一般的になったのは100年位前からなんだよね。だけど結局、3組に1組は離婚するし、女性経験がない男は増えるし、独身で生涯を終えようとするやつが増えたわけよ。」
ヒロの話に興味を持ったのか、それともどっちの応援をするのかわからないからかここにいる全員がヒロの話に耳を傾ける。
「それで、サザラテラも俺の知る限りでは恋愛結婚は殆どないよね?冒険者はもちろん恋愛結婚するけど安定した職業でもないし持ち家も持たない人が殆どだ。逆にギルドや農業だったり固定の仕事と家を持っている人はみんなお見合いだったり政略的な結婚だっていうじゃない。」
「つまりなにが言いたいの?」
「つまりは二人から選べるウィズって幸せじゃない」
そう言ってウィズの肩を叩くとウィズの顔が怒りで引きつっているが、雰囲気で族長たちの機嫌がよくなったのが感じ取れる。
その勢いでウィズの耳元に口を近づけて「反発するんじゃなくて操らないと」と伝える。
「そっか、それもそうだよね」
「おお!」
ウィズの答えに誰かは知らないが後ろから他のオーガ達から喜びの声が聞こえる。
「ならお父様、私から婚約者候補に求めるものがあるわ」
「ほう、言うてみろ」
「私より弱い男に興味はないわ。彼、ヒロは水車村まで行って私と帰って来た。しかも刀猿の大猿も倒して見せたのよ。なら、私の候補者も同じことをやってもらわないと」
「ふむ、一理あるな。では、客人の水車村への護衛を引き受け無事に帰ってくるものとなら結婚を考えるのだな」
「勿論、でもヒロ以上じゃないといけないから仲間全員を無事に連れて帰ってくるのが条件ね」
「あい分かった。二人ともよいな」
「はい」
「お任せください」
族長の言葉に二人のオーガが一歩前に出る。
「では、この二人を連れて行きなされ」
「えっと、それはな……」
上手くいったが少し予想と変わってしまった。
婚約者候補を二人連れて行きたくはない。
仲間割れをするかもしれないし、なによりウィズのあの条件だとどちらかが不利になった時に裏切るかもしれない。
「とりあえず考えたいので二人の名前と能力を聞いてもいいですか?」
「わかりました。メルカリ、ラクマよ自己紹介を」
「え?メルカリとラクマ!?」
オーガのネームセンスは計り知れないな。




