エンシェントドラゴン
エルフの里の奥、エンシェントドラゴンの城が建つ庭園の入り口。
中を覗くと何匹か食人鬼がウロウロしている。
庭園の半分は地面が紫色になっていて、ところどころ毒沼の様になっている。
「で、どうするニャ?」
「俺に考えがある。アストリッドとケティで敵の数を数えて」
そう言うとアストリッドは空を飛び、ケティは索敵用に身体強化のスキルをかけ始める。
「多分5匹ニャ」
「私が確認したのは7匹」
食人鬼は気配が察知しずらい。
やはり空から目視するアストリッドの方が正確なようだ。
「ホークアイ」
魔力を左目に集中する。
ホークアイは魔力でレンズのようなものを作り、狙撃の補助が行えるスキルだ。
属性変化のない魔法が得意なのか、ヒロは比較的早く習得できた。
アストリッドの指示に従ってクロスボウで狙撃する。
矢が頭に当たると食人鬼はそのまま倒れて動かなくなる。
6匹、7匹と倒し終わるとアストリッドとケティが矢を回収する。
「二人ともありがとう」
「ニャーに物拾いさせるとか偉くなったニャ」
「そう言うなって」
矢の先にちょこっと何かついてるが、我慢して矢筒にしまう。
念のためにもう一度二人に索敵をしてもらったが、どうやら大丈夫なようだ。
庭園奥の小さな城。
跳躍強化で屋根に上り、近くの窓からケティと中を覗く。
城と言っても大きなものではなく、部屋の区切りもなく広い一つの空間になっている。
奥は礼拝堂の様になっていて、少し段になっているところにエンシェントドラゴンはいた。
話にきいた通り、右手に大槌、左手に大斧。
そして全身が黒いヘドロのようなものを纏っており、エンシェントドラゴンが動くたびに泥が床へと落ちている。
「やっぱり、土地の汚染をしてるのって……」
「あの泥で間違いないニャ」
「あれ触っても平気だと思う?」
「絶対ダメニャ」
やはりエンシェントドラゴンとの戦闘は避けれそうにない。
そして、あの泥がある限り接近戦しかできないケティは戦力外となるだろう。
逃げたいが逃げるわけにもいかない。
アストリッドとリロイの為?
もうそんな事はどうだっていい。
覚悟をきめないと。
「アストリッド」
後ろについてきたアストリッドに伝えると、オグたちの方に飛んでいく。
矢を取り出して矢の先端を握る。
魔力地雷――矢の先端に魔力による地雷を設置する。
これにより矢が当たると当時に炸裂するはずだ。
魔力地雷を使った矢をクロスボウにかける。
これがエンシェントドラゴンに当て、爆発音を合図にオグたちが入ってくる手はずだ。
出来る限り頭を狙いたい。
慎重に狙って矢を放つ。
矢はエンシェントドラゴンの首に当たり魔力地雷が炸裂する。
爆発したとき泥が吹き飛んでエンシェントドラゴンの皮膚が一瞬見えたが、すぐに泥がその部分を覆った。
音を聞いてオグたちが入ってくる。
オグ、リロイを先頭にセラ、ハルト、アストリッドが続く。
「きあぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
エンシェントドラゴンが吠え、大槌を振り回しながらオグたちに突進する。
かわす訳にはいかないのでオグがそれを盾で受け止める。
エンシェントドラゴンのサイズは4~5メートルほどだ。
体格差のせいで受けきれずオグが後ろに仰け反る。
すぐさまエンシェントドラゴンが斧を振り下ろすがリロイが間に入って受け止めた。
片手で振っているにもかかわらず凄い威力だ。
後ろの様子が分からないからだろうか、リロイがまだ斧を受けたじりじりと後ろに下がる。
するとエンシェントドラゴンは右の大槌で斧を叩こうとする。
まさかそのまま盾を割ろうとしているのか?
槌が振り下ろされる直前にケティが横からリロイを抱えて転がる。
エンシェントドラゴンの攻撃はリロイがいた場所の地面を抉った。
ナイスだケティ。
「永久の波を眺めしもの 清らかなる心の源よ」
セラの呪文詠唱が始まる。
オグが立ち上がりエンシェントドラゴンの前に立ちはだかった。
ガン、ガン、ガンと金属同士がぶつかり低い音が鳴る。
オグはまともには受けずに上手く力を外へ逃がしている。
どうやら既に見切り始めているのかもしれない。
「――月夜の呪縛」
恐らく突入前に詠唱していたのだろう。
ハルトが発動した魔法により、複数の魔法陣から鎖が召喚されエンシェントドラゴンを拘束しようとする。
しかし、魔法で出来た鎖にもかかわらず泥に触れると鎖が崩れ落ちた。
「ハルト、鎖がダメになったって事は?」
「――金属は大丈夫だと思うけど、人は触れたら危険だ」
やはりあの泥に触れるのはまずいようだ。
矢に魔力地雷を仕掛けてもう一度クロスボウで狙う。
特にダメージが入るわけではない。
なので無駄に撃つのではなく、オグのサポートの為に使うつもりだ。
「みんな行くよ!」
セラの合図でリロイとオグが左右に動く。
「ホエールキャノン!」
セラの杖先に巨大な魔法陣が現れ、そこから大量の水が噴出する。
水の威圧の比ではない。
消防車の消化ホースを100個くらい合体させたって感じだ。
勿論、消化ホースと違って一本一本がウォーターカッター並みの威力があるホースだ。
ホエールキャノンはエンシェントドラゴンに直撃し、どんどんと後ろへ押していき、しまいには壁をぶち抜きエンシェントドラゴンを城の外へ吹き飛ばした。
跳躍強化を使って追いかけエンシェントドラゴンを見ると、直撃していた箇所の泥が無くなっている。
今しかない。
泥の無い部分に矢を放つ。
矢が皮膚に当たると矢は刺さらないが爆発が起こる。
「ぐぁあああああああああああああああああああ」
エンシェントドラゴンが叫び声を上げる。
効いているのか?
だが、爆発の痕を見ても傷ひとつない。
しばらくするとまた泥がエンシェントドラゴンを覆う。
「かかってこい」
エンシェントドラゴンが立ち上がるのと同時にオグがプロボーグを使って注意を惹き、エンシェントドラゴンが城の中に戻ってくる。
恐らく屋根上のヒロに攻撃することを避けたのだろう。
確かに屋根が崩れ落ちたら瓦礫で足場が悪くなる。
しかしエンシェントドラゴンに全くダメージが入っていない。
「永久の波を眺めしもの 清らかなる心の源よ」
セラがまた呪文の詠唱を始める。
二つ目の上級魔法を使うのだろう。
正直、次が決まらないとどうしようもない。
オグとリロイがコツを掴んできたのか、お互いにうまく攻撃を受け流し始めている。
メインはオグが盾となり、バランスを崩したり、空間が足りない時にリロイが援護する。
時々エンシェントドラゴンの泥が飛散するのだが、ハルトが月の護封壁で上手くカバーしているようだ。
「ケティ、アストリッド」
エンシェントドラゴンからかなり距離を取って二人を呼ぶと、すぐさま二人が駆け付ける。
二人にはヒロとは別の角度からエンシェントドラゴンを観察してもらった。
「さっきの皮膚への攻撃は効いていたとともう?」
「正直無意味だったニャ」
「でも、嫌がっていたと思います」
確かに皮膚への攻撃で声は上げたのは確かだ。
泥をどかしての攻撃。
もしそれが正解だとして、誰がどうやって攻撃をする?
「準備できた!」
セラの声を聴いてアストリッドとケティが散開する。
これが利かなかったらどうにか皮膚への攻撃を考えなければいけない。
跳躍強化で天井近くの窓から中を覗く。
今度はオグとリロイが左右に動くわけではない。
エンシェントドラゴンが左手の大斧を振り下ろす。
それに合わせてオグが受け止め、リロイがグラントで大斧を攻撃する。
その反動でエンシェントドラゴンの向きがオグ達からそれた瞬間だ。
「――月の護封壁」
ハルトの魔法でオグとリロイをまとめて球体状の月の御風壁が包み込む。
その瞬間だ。
「フリーズダスト!」
エンシェントドラゴンが白い霧で包まれる。
だが実際には霧ではない。
小さい氷の刃が大量に発生しているのだ。
セラが杖を円を描くように振ると、霧がエンシェントドラゴンを中心に回転し始める。
普通の生き物ならこの魔法で細切れになる。
このまま泥だけでも吹き飛んでくれ。
だが、白い霧が晴れると無傷のエンシェントドラゴンが立っていた。
どうやら氷の刃は泥で無効化されてしまったようだ
もう泥をどかして攻撃を入れる方法しかない。
タカシがいればあの剣を振った時の風の攻撃で泥を吹き飛ばせていたんじゃないだろうか。
だが今はそんな事を言っても仕方がない。
泥をどかした後に攻撃できるのはケティとヒロだけだ。
上位魔法も回数に限りがある。
オグとリロイが何とか出来ているうちに何か方法を考えないと。




