二人の英雄
「よお久しぶりだな!」
そう聞こえたかと思えば首根っこをつままれて、声の主の肩へと乗せられる。
筋肉隆々の身長3メートルのオーク。
ドレッドヘアが特徴的なオークのチカラだ。
「えっと、降ろしてほしいんだけど。あと、パワーが乗ってるあれは?」
そう言って指さした先には火山竜が一匹おり、その上には同じく3メートル級のオーク、パワーが馬の様に火山竜を馬の様に乗りこなしている。
パワーはチカラの弟で、チカラと違ってスキンヘッドだ。
「悪い悪い」そう言ってチカラはヒロを下ろし、「あれはネグの案なんだよ」と続けた。
ヒロたちがオグを仲間にして村を出た後、ネグは火山竜の子供を捕まえて飼いならすことを思いついたらしい。
火山竜は羽の代わりに背中に鉱石が付いたトカゲとドラゴンの中間のような見た目で、オーク達が住む山に生息している。
オーク達は火山竜を狩り、鉱石を収入の一つとしているのだが飼いならすとはまた恐れ入った。
今回はオークの村から10人のオークが参加してくれるらしい。
チカラとパワーだけ火山竜で先にすっ飛んできたようだ。
「ねぇヒロ、紹介したい人がいるの」
チカラと話していると、今度はセラに腕を掴まれて呼ばれる。
セラの後ろには生き残った3人のエルフ。
後ろの二人はカップルだろうか。
距離が近いとよく見ると手を繋いでいる。
その二人の前にさわやか笑顔のエルフが一人。
「この人はラルフ、私が里を追い出されるまで仲良くしてくれてた人なの。里を出るときのお金もラルフが用意してくれたんだよ」
「ラルフです」
セラの紹介の後、ラルフに握手を求められたのでそれにこたえる。
手を放してからもこちらをにこやかに見つめていたのでこの人なかなかの好青年だ。
好青年といっても年上かもしれないけど。
握手した後にすぐに目線を外さず、次に相手が目を見るまで待つのは好感度が普通より上がりやすいと何かの研究で見たことがある。
これを知ってか知らないかは分からないが、他種族嫌いのエルフにしてはしっかりしているのかもしれない。
「生き残ったエルフはあなたと後ろの二人だけなんですよね。戦闘には男性の二人が?」
「はい。私は弓、彼は魔法が得意です。それとお願いがあるのですが」
そう言ってラルフはヒロの耳元に近付き二人の方を示すと
「彼女のお腹には子供がいるんです。私が積極的に前に出るので彼は比較的後方支援にして頂けないでしょうか」
言われてみればまだお腹は目立たないが、女性のエルフはお腹をかばっているようにも見える。
今の彼らにとってはあの子が次世代の希望だ。
「大丈夫ですよ。遠距離攻撃ができる者は全員食人鬼の手の届かない木の上からの援護になるので」
「それはよかった」
ラルフはお辞儀をすると二人の元へ行って肩を抱き、今の話を伝えているようだ。
「いい人でしょ?」
「エルフにしてはね」
セラが嬉しそうにこちらを見ているが、こちらとしてはセラやセラのお母さんにしたことは許していない。
直接加担していなかったとしても、同罪だ。
「久しぶりだなヒロ」
今度は呼ばれた声の方を向く前に頭を掴まれ無理やりキスをされる。
え?え?と混乱していると、久しぶりに見た女性の顔が目に入る。
オレンジ色のショートヘアに緑色の肌。
オークの様に潰れた鼻ではなく、整った顔立ち。
下段の歯の上へ向いた牙が何とも言えず可愛い。
オグの姉であり、元カノ?一夜の関係を持った相手、クォーターオークのネグだ。
「今のキスは?」
「確認のキスだよ。アタシは感じなかった。お前は?」
「俺は……」
「女々しいから失格」
答える間もなくネグがヒロの胸に拳をあてる。
何か言い返したかったが何も思いつかなかった。
セラはセラで顔を真っ赤にして照れてしまっている。
まぁ仕方がない、未練はあるが今は作戦に集中しよう。
「よし、全員そろったな?みんな集まってくれ。あ、セラはタカシを呼んできて」
手を叩いて音を出し、全員に注目してもらう。
ネグには今の自分を見てもらおう。
作戦は簡単だ。
現在、森は冒険者ギルドが雇った魔法使いが結界を張っている。
その一部を開けて食人鬼を集め、オーク達には食人鬼の相手をしてもらう。
その間にヒロたちは庭園に向かってエンシェントドラゴンを確認、討伐という流れだ。
「いいかみんな、噛まれたらどんな回復魔法も意味がない。絶対に噛まれるなよ。それと必ず頭を破壊すること。奴らは頭がある限り動き続ける。下半身が無くて這いよってくる奴は気付きにくいから注意すること」
何度も確認したことだが、見渡すと全員真剣に聞いている。
いい緊張感だ。
「確認したい事、逃げ出したいやつは居るか?」
「いねぇよ」
「あぁそうだそうだ」
最後の確認にネグ、パワーが皆を代表して答える。
「よし、じゃぁ作戦開始だ。」
――――――
合図をすると冒険者ギルドの魔法使いが結界の一部を解除する。
それを確認しオグとタカシが前に出て結界の中へ。
『うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお』
二人が馬鹿でかい声で雄たけびを上げる。
別に食人鬼が音に反応して寄ってくる分からない。
だが、二人はただ叫んでいるだけではない。
プロボーグ――声に魔力をのせて敵の注意をひくスキル。
しばらくするとうめき声と共に食人鬼たちが姿を現した。
「そんじゃ行くぞ!」
タカシが大剣を構え、少し溜めてから大きく振るう。
するととんでもない突風が発生し、100メートルほど先まで木も食人鬼も何もかもを吹き飛ばした。
流石は六英雄。
それを確認しオーク達が前に出る。
ラルフ達はチカラとパワーの力を借りて木の上へ飛び乗った。
何人かが食人鬼と交戦し始める。
「よし行くぞ」
合図と共にオグとリロイを先頭にエルフの里へと走り出す。
開幕のプロボーグが利いたのか里の中心まで食人鬼はいなかった。
「セラ、庭園は?」
「あっち」
セラの案内で庭園がある方へと進む。
だが、少し行ったところでタカシが突然別の方向に走り出した。
「どうしたタカシ!?」
声をかけたがタカシは聞こえていないのか、そのまま走り続ける。
「あっちに何がある?」
「あっちは……私の家」
「ケティ、アストリッド頼む」
ケティは木を飛び移り、アストリッドは空を飛んでタカシの後を追いながら索敵する。
そのまま二人についていくとタカシはセラの家の前で突っ立っていた。
「タカシ、なんでセラの家に?」
「すまん、知り合いがいた気がして」
「知り合い?」
タカシの奴、何を言っているんだ?
もしかして昔の戦いの影響で幻でも見えるのだろうか。
だとしたら、誰ともパーティを組まなかった理由はよくわかる。
魔王との戦いは大陸にある多くの国が一丸となった大戦だった。
もしかしたら後遺症のようなものが残っているのかもしれない。
「ニャ、家の中に誰かいるニャ」
「もしかしてお母さん?」
セラが家のドアを開けて中に入る。
「ちょっと待て…ケティ」
ケティは何も言わずセラの後を追う。
「オグ、リロイは家の外を見張ってて。ハルト、アストリッドも」
オグの「わかった」という返事と共に仲間たちが配置につく。
ヒロはタカシと一緒にセラの家に入った。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」
家の中に入って一番最初に聞こえてきたのはこの声だった。
奥へ行くと蹲り震えているエルフをセラが抱きしめている。
セラの母、ライラだ。
「いったい何が?」
「わからない」
問いかけるとセラが涙を流しながら答えた。
母が生きていたことが嬉しかったのか、それとも今の状態を見てだろうか。
「上は誰もいないニャ」
上の階からケティの声がする。
どうやらここは安全のようだ。
「タカシはセラのお母さんに気付いてここへ?」
「いや、すまない。そうじゃないんだ」
「そうよ、彼は私を追ってきたの」
突然割って入って来た声は仲間のものではない。
驚いて身構えると、いつからいたのか居間の椅子に誰か座っている。
魔法使いだろうか。
なぜそう思ったかというと雰囲気だけなんだが、よく見るとやたらエロい格好をしている。
ブロンドの長い髪に黒いとんがり帽子。
だが首から下はローブではなくやたら露出の高い黒い服を着ている。
よくゲームやなんかで見るエロかわな防御力皆無の魔法使い装備って感じだ。
だが、胸の谷間なんかよりもっと目を引いた部分が彼女にはあった。
目が緑と赤のオッドアイなのだ。
「――キュリー」
「キュリー!?」
タカシが呼んだ名前に思わず声が出る。
タカシが六英雄と知って調べたのだが、キュリーは六英雄の一人であり、エルフの国を滅ぼしたハーフエルフだ。
恐らくハーフエルフだからなのだろう。
50代のはずだが見た目は20代に見える。
「これはあんたの仕業か?」
「いいえ、私は見ていただけ」
ヒロの問いかけにキュリーはライラを指さす。
「庭園の結界を破ったのは彼女よ」




